魔王を愛した王子~恥辱の生涯~

彩月野生

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愛された男娼の意図

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 娼館には盗賊の首領であるガルドが入り、例の男娼と接触したら、頃合いを見計らって合図を送り、館から出てきたところでエルレイルの白魔術を行使するという手はずだ。

 エルレイルはヴェルターの件で精神疲労が酷く、盗賊のアジトまでの道のりは術を使えなかったが、回復した今ならば問題ないと意気込んでいる。

 彼らの連絡手段は小さな鏡だった。
 案の定どこかの店から盗み出した盗品らしいが、かなりの数を確保しているのを何故か聞くと、元々は巨大なものを個別に小さくわけて加工したらしい。
 話せる距離は限られているが、館の中と目前の道ばたであれば、誤差なく会話が可能だと説明される。

 ガルドが目で入る事を示すと、ラントが頷くのを見て、館に消えていった。

 それから十分程度だろうか。ラントの持つ手鏡から声が届く。
 
『ラントだ』
「お?」

 ルナンはラントの隣から鏡の中を覗き込んだ。
 金髪碧眼の美青年が、微笑みを向けて手を振っているのが見える。
 ラントは「久しぶりだなイスベル」と彼の名前を呼ぶと、今から助けに行くから、ガルドの話をよく聞けと伝えてひとまず会話を切った。

 しばらくの後、鏡が光ったかと思うと悲鳴が聞こえてきて、皆一斉に声を上げた。
 
「な、なんだ!? どうしたイスベル!」
『た、助けて!』
「大変だ!」

 駆けだしたルナンをエルレイルが止めようとするが、顔を見られれても術で逃げるしかないと言い放って、盗賊達と館へ突入する。
 鏡からイスベルの混乱する声が聞こえており、緊張を感じながら館の内部を見回す。

 ――え、誰もいない!?

 客の姿もなく、急に入り口が大きな音を立てて閉められてしまう。
 施錠の音がして、術がかかっているようだとエルレイルが推測しつつ、ルナンの前に立つと、警戒した。

 ふいに嗤い声が響いて、声の主を探す。
 声は前方の廊下から近づいて来た。隣には男娼が寄り添っている。

「見事に罠にはまったなあ、盗賊どもよ」
「貴方は?」

 エルレイルに声をかけられた中年の小太りの男が、にたりと笑みを浮かべて答えた。

「この館の主人のヴォルフだ。私のかわいいイスベルを奪い返しに来たとか言うが、イスベルの意見を訊いてみたらどうだ?」
「イスベル?」
「皆元気そうで良かったよ」

 薄地の衣装は滑らかな肌が透けて見えており、首や腕にまきつく飾りが光に反射して輝いている。
 主人に身を寄せて四肢を絡める姿は、とても助けを求めているようには見えない。
 それどころか、自分を助けに来た盗賊達をバカにして楽しんでいるようだ。

 ふいにヴォルフと目があって内心で「しまった」と焦る。
 ヴォルフは眉根を寄せると、じっくりとルナンを観察し、次にエルレイルを観察して何度も頷いた。

「ほうほう。これはこれは! まさか……」
「……っ」

 突然、エルレイルがルナンとラントに向けて両手を翳す。
 
「エルレイル?」
「逃げて下さい!」
「!」

 翳される両手が輝いたかと思えば、目の前が真っ白になり、やがて誰の姿も見えなくなった。

 気付くと、カビくさいニオイに頭がくらっとする。
 辺りを見回すと、薄暗い世界に明かりが上から注いでいるのが見えて、盗賊達が自分と同じように倒れているのが視認できた。
 隣にはラントが寝転がっていたので、その身体を揺さぶって起こした。

「ん、うう」
「ラント、おい」
「……あ、ああ……王子さんか」

 皆もたたき起こして、状況をまとめると、やはりエルレイルが術を使って地下道へ逃がしてくれたという事だ。
 全員顔が割れてしまったと考えると、ラントを覗く盗賊達は別の安全なアジトに身を隠してもらって、時が来るのを待ってもらうという事にした。

 イスベルが館の主人に気に入られ、助けなど求めていなかったこと、あやうく捕まって命の危険にさらされる可能性があった事。
 その事実が皆、ショックだったようだ。

「イスベルの野郎、あんなヤツじゃなかったのによ」
「……アジトにあったあの部屋と大きな寝台って、イスベルの為に用意した物だったのか?」
「あ? ああ……それに、王子さんちょっと似てるから、奴ら我慢できなかったんだろうな」
「似てるか?」

 中でもガルドが意気消沈が激しいように見えて、盗賊のくせに繊細なヤツだなと、思わず口にしそうになったけど、やめておいた。
 
 エルレイルを助けに行きたい。
 でも、聖剣を見つけて奪い返すのが先だ。
 エルレイルだってそれを望んでいる筈なのだ。
 分かっているけど。

「エルレイルなら、上手くやるさ」
「ラント……」
「そう信じて行動するしかねえだろ?」
「……うん」


 結局、あの館にヴェルターが連れてこられていたのかも分からなかった……。
 でも、二人とも必ず助けてみせる。
 ルナンはラントと手をたたき合うと、地下道を歩き出した。 
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