魔王を愛した王子~恥辱の生涯~

彩月野生

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盗賊達の下卑た思惑

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 盗賊達が風呂に行っている間、ルナンは家の中の掃除に勤しむ。
 大広間に家具を置いておおざっぱに区切っているようだが、その所為で衣類や瓶や食器が散らかり悪臭を放っている。

 こんな場所で息を潜めて過ごすなんて冗談じゃない!
 それに、エルレイルの体調にもさわるだろう。
 ラントに手伝わせてせっせと部屋を綺麗にしていく。

 掃除道具があったのは助かった。
 窓を開けるとしっかりと風が入って来るので、換気は十分だ。
 
「ふう~」
「まさか掃除させられるとはなあ」
「仕方ないだろう、こんな不衛生じゃエルレイルが……」
「王子」

 か細い声が聞こえてびくっとする。
 振り返るといつの間にかエルレイルが背後にいて、変な声が出た。
 気配がなくて普通に怖い。
 若干青ざめているのも妙な迫力がある。

「ど、どうしたんだ怖い夢でも見たのか?」
「……いいえ、違います。王子が心配で」
「俺が? この通りなんでもないぞ?」
「あ、もしかして」
「?」

 思わせぶりなラントの素振りに訝しむ。
 顎に手を当ててあさってに視線を向けてとぼけている。
 背筋がぞわりとした。何か嫌な予感がしてエルレイルの手を掴み、後ずさった。
 ラントは肩を竦めると、呆れたようにため息をついてソファに座る。
 
 風呂から上がった男の一人が、ルナン達も使えと促してくるが、エルイレイルの様子を考え、一緒に入る事にした。
 湯を浴びれば、少しは落ち着けるかも知れない。
 男達が全て出てきたのを見計らって、二人で風呂場に向かう。
 風呂場は悠々と二十人は利用できる広さであり、元々は貴族の邸宅だったと推測できる。
 天井やタイルにところどころはげた絵が見えており、高名な画家の絵柄を連想させた。
 湯船に並んで座って浸かり、しばしの沈黙を、エルレイルの柔らかな声が破る。
 
「王子、彼らはきっと勘違いしています」
「え?」
「……いいえ。ヴェルターの事ですが、このまま放っておくのですか?」
「そんなわけない!」

 思わずその場で立ち上がって声を張り上げて拳を作ると、黒味を帯びた赤黄色の目に見つめられて我に返った。
 顔を背けて再び湯船に肩までつかる。
 あの巨体なオークに蹂躙されて、蕩けた顔をしたヴェルターが、脳裏にちらついて頭を振って幻影を振り払う。

 今でも信じられない、あのヴェルターがオークに犯されて屈伏した事実を……。
 
 無言で風呂場から上がって脱衣所で着替えようとしていた時、替えの下着を持ってこなかった事を悔やんでいると、突然人の気配を感じて緊張感が走る。

「あ!」
「エルレイル!?」

 戸惑うような悲鳴に顔を向けると、盗賊の男二人に両手を掴まれて、身じろいでいる。

「おっと王子さんも!」
「ちょ……やめろ!」

 ルナンもルレイルも裸のまま、野蛮な男達に広間まで担がれて、それぞれソファと寝台に押し倒された。
 視界に入ったラントがばつが悪そうに頬をかき、仲間達に向かって忠告の言葉をかける。


「おい、お前ら丁重に扱ってくれよ?」
「わかってるって!」
「ら、ラント止めてくれ!」
「あ~ごめん、エルレイルはともなく王子さんはその」
「は!?」

 複数の男の無骨な手に押さえつけられ、体中を弄られる感触にぞわぞわして吐き気までしてきた。
 ルナンでもこれなのだから、エルレイルはもっと辛いだろう。
 やはり今にも泣きそうな顔つきで男達を見据えている。
 ルナンは渾身の一撃を男の一人の顔面におみまいしてやると、エルレイルを襲う男に向かって怒声を浴びせた。

「エルレイルから離れろ! 獣め! お前らなんか俺一人で充分だ!」
「あ?」
「お、おうじ」

 ルナンの怒声に顔を向ける男は、卑しい笑みを浮かべ、囁いた。

「ほお。王子さん一人で俺達十人も相手にするってんですかい」
「そうだ、俺は経験があるし問題ないだろ」
「王子だめです!」
「大丈夫だエルレイル。俺、本当にヴァロゼと」
「……っ」

 そうなのだ。
 ルナンとヴァロゼは身体を何度も重ね、熱い夜を過ごした。
 初めての相手が好きな人とできた――その事実は、望まない交わりでも心を守ってくれる。
 そう信じている。例え最後の交わりが、最悪の思い出であったとしても。

 ルナンを取り囲み、下卑た嗤いを吐き出す雄達。
 ちらりとラントを見やると、険しい顔つきで様子を伺っていた。
 止めるつもりはないらしい。

 ――仲間とはいえ、所詮盗賊だ。期待などしない。

「さあ王子」
「ああ……」

 ルナンは誘導されるまま、寝室へと歩いて行く。
 後方でラントがエルレイルを止める声が聞こえた。
 

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