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オークと騎士の邂逅

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 窓から差し込む朝日によって目を覚ましたルナンは、すでに起床していた三人に声をかける。

「俺も起こしてくれれば」
「王子は疲労されてましたからね、それよりこのローブを羽織って下さい」
「ローブ?」

 灰色のローブは重たくてなんだか甘い匂いがしていた。
 すでに着込んだヴェルターが説明してくれる。

「このローブと匂いで、この辺りをしきるオーク達に仲間と認識させることができるらしいです」
「お、オーク?」
「そうです。さて、このハンカチを作っているような店はたくさんある筈……片っ端から調べて回るしかねえなあ。あと、覚悟しておいたほうがいいぜ?」

 ラントの思わせぶりな発言に、ルナンも他の二人も唾を飲み込んだ。用意周到過ぎてラントが怪しすぎるのだ。
 でも、いつもの話か。

 外に出るのが異様に怖い。そうも言ってられないので、勇気を出して扉を開ける――ラントが覚悟をしろと言った意味はすぐに理解できた。

「な、んだ、これ……」

 目の前は噴水広場だった。
 それは良いのだが、問題はどこもかしこも肌色と緑肌で溢れているという所だ。

 様々な年齢の人間の男達が、真っ裸で首輪をされて、鎖で繋がれてオークに連れ回されている。
 どいつもこいつも盛っており、オークと交わる男達は、快楽に喜びの声を上げて乱れ狂い、性器から白濁を噴出させた。

「んんおぉおおぉあああああっ♡ おーくしゃま♡ おーくしゃま♡ はやくこの家畜めに特濃ザーメンくりゃさあああいいい~!!」
「くれてやるから口をおおきくあけろお~グヒッ!」
「んぐっ♡ ぶぼおおおおっ♡」

 噴水の前でオークの巨根を口の中におさめた青年が、顔を歪ませて歓喜の涙を流しながら、口腔内に注がれる獣の白濁をごくごく飲んでいる。

 その周りにもオークに激しく尻孔を穿たれる男達や、複数の剛直をしゃぶって失禁している男達など……狂った光景に吐き気を催す。

「う、ぐえ」
「大丈夫ですか?」

 背中をさすってくれるエルレイルも、青ざめている様子で胸が痛む。
 白魔術師である彼は、慈愛の精神も人一倍強い。
 人が家畜として扱われている様子に耐えられないだろう。
 対して、ラントは慣れた様子で見物しており、その隣にはヴェルターが――いない。

「お、おい!」

 ラントの焦った声の原因はすぐにわかった。
 いつの間にか、ヴェルターがオークになぶられている男の元へ走って行ったのだ。
 
 ルナンは声をかけようとするが、ラントに引っ張られて家の中に再び身を潜めた。
 文句を言おうとすると、エルレイルに唇の前で指を立てられ、仕方なく扉の隙間から様子を伺う事にした。

 ヴェルターはオークと男と引き剥がすと、今にも殴りあうような雰囲気でハラハラする。

「お、おいラント」
「このローブとニオイは、魔族に富をもたらしたヤツが身につけていたものと同じだから、連中も手荒なまねはしねえとは思うが」
「それは、オークの知能の低さを利用しているという事ですね?」
「あ? ああ」

 エルレイルは「首領に気付かれなければいいけれど」と呟く。
 ラントはまだ首領の姿は見た覚えがないという。
 何故か嫌な予感がして喉が酷く乾いた。

 目立つ行動は避けるべきなのに。ヴェルターの正義感は我慢できなかったか……。

「なんなんだオマエは!?」
「私の事はいい! とにかくいますぐに彼らを解放しろ!
「……? オマエ、外の人間か?」

 その言葉に戦慄が走る。 
 まずい、ヴェルターが危ない!
 
 ルナンは思わず飛び出そうとするが、エルレイルに腕を捕まえて邪魔をされた。
 睨みつけると顔を振られて頷かれた。
 ヴエルターを信じて、正体を悟られず乗り切るのを祈るしかない。
 会話の流れで、対峙しているオークがなぶっていた男だけでも解放すれば、納得するということになったようだ。
 周囲の輩は距離を置いてすっかり気を取られている様子だ。
 流血沙汰になりそうな気配もない。
 エルレイルと顔を見合わせて、お互いに安堵の息をつく。

 ――その時だった。大地が小刻みに振動したのは。

「え?」

 この振動は足音だと察した時、その巨体はヴェルターの胸ぐらを掴み宙へと掲げていた。

「ヴェルターが」

 軽々と持ち上げられたヴェルターも、長身の方なのだが、彼を持ち上げているオークはさらに上をいく体格をしている。
 口元を吊り上げてあざ笑うように言葉を吐き捨てた。

「このローブと匂いで紛れ込むとはこしゃくな。貴様、外の人間だな?」
「うぐう……」
「グハハハッ、久しぶりに人間のオスを可愛がってやろうと思って来てみれば、ついてるな」
「ぐあ!」

 パッと解放されたヴェルターが尻餅をつくと、オークを睨み上げる。
 
「我はゲオルク。オークの首領だ。貴様は?」
「ヴェルターだ、彼らを解放しろ! さもなくば……」

 ヴェルターは起き上がると、腰に携えた剣の鞘に手を添えて引き抜こうとしたが、ゲオルクはそれを手で制した。
 背中を丸めてヴェルターの顔を覗き込む。

「どうだ、貴様が我との性交に耐えれば、この辺りのオス共を解放してやるというのは?」
「なに?」

 一連のやり取りを聞いていたルナンは、妙な方向に話が流れているのを心配した。
 エルレイルは顔を曇らせ、ラントは口の端を吊り上げていた。 
 
 
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