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執着に溺れた愚か者

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奴隷部屋で過ごすルシードは、最近、王の姿が見えないので、またもや不安に襲われていた。
食事の中に必ず混ざる甘い汁を垂れ流す花は、ルシードの肉体に変化をもたらしているのを感じていた。
肌艶が良く、甘い香りがただよい、血色も良いのだ。

冷静に考えてみれば、この花は高級娼婦に与える特別な食用である。
王は何故、このような歳のいった男の奴隷に花などを与えるのだろうか。

それに、部屋に閉じ込められていると言っても、手足は自由にされているし、王以外にルシードを嬲るものもいない。
今更だが、王の意図をはかりかねて、悩ましかった。

ある時、騎士団長のブライトが訪ねてきた。
ルシードを心配している様子である。
顔を覗きこみ、おずおずと声をかけてきた。

「先日の晩餐会では、ひどい目にあわれたとか」
「……私は、陛下の奴隷として誇らしい事だと思っている。ひどい仕打ちなどではない」

口ではそう言うが、膝の上で握りしめる拳が小刻みに震えだす。
晩餐会の光景が脳裏に蘇り、誰もが粘ついた欲望と蔑みの視線を注ぐ。
衛兵の侮蔑の意識が胸を抉る。
何よりも、王の突き放す声音が魂を裂くかのようで、息が苦しい。

「ルシード様!」
「……っ」

ブライトに肩を揺さぶられて、意識が現実に引き戻された。
顔を上げると、血走る瞳と視線が交わる。
何故か、獣のような空気をまとう姿に困惑した。がっしりと手を掴まれる。
痛みに顔が引きつるが、ブライトはまるで遠慮しない。

「陛下は! ルシード様を愛しておられます!」
「……はっ? な、何を言うか」
「ですが、このままでは手遅れになります!! 私を利用してください!」
「ど、どういう意味だ?」
「私を愛していると、陛下に話すのです!! 私と一つになって、陛下の心を掻き乱せば良い!!」
「な……っ!?」

寝台に押し倒されたルシードは必死に抵抗するが、ブライトの鋼の肉体はびくともしない。
恐怖に体が震え上がり声も出せず、獣の息遣いに硬直した。

「ルシードさまあああアアアッ」

絶叫する獣に体の最奥を熱い肉槍で蹂躪され、壊れた人形のように四肢が激しく揺れている。

――わ、わたしは、へいかの、奴隷だ……へいか……以外の、者となど……!

けたたましく肉がぶつかり合う音が、幻聴のように脳内に響いた。
無理やりこじあけられた肉体を弄ばれる時間はやけに長く、ルシードの意識は薄れていった。

どこからか聞こえてくる大声に目を覚ますと、それが怒声だと認識する。
己は寝台に仰向けで放置されていた。
全身が鈍痛に痺れて呼吸もままならない。
腹奥に……尻穴に……ぬちゃりとした白濁の感触が残っている。
顔がひきつり、早く身体を綺麗にしたくてたまらなかった。

――あ、あれから、私はどうしたのだろう……。

記憶が曖昧で、鼻孔をつく雄の臭いに意識が持っていかれる。
己の荒い呼吸に耳を傾けていると、靴音が近づいてくるのに気づいた。

重たい扉がゆっくりと開かれ、現れた男の姿に息を呑む。
無理やり身体を起こして呼びかけた。

「へ、陛下……」

目の前に歩み寄り、ルシードを冷たい目で見据え、静かに告げられた。

「ブライトを処刑した」

その宣告を聞いたルシードは、頭を鈍器で殴られたような衝撃を受け、目眩に襲われる。

――ブライト……ブライトが、処刑された……。

獣のように己を蹂躪した奴は、確かに罪を受けるべきだ。
陛下の奴隷に手を出したのだから、だが、命を奪うだなんて。

「ルシード、貴様を私の元で監禁する」
「……陛下!?」

王が首に手を伸ばすと力を込める。

「……ふ、うう」

――へ、陛下あ……!

「貴様をもう誰にも触れさせない……!」


ルシードは、王の血走る目と悪魔のような形相を見つめ、息苦しさにもがきながら、再び意識を手放した。


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