勘違い側近は王の愛に気づかない

彩月野生

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奴隷の呻き

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 王専属の奴隷部屋に閉じ込められたルシードは、消して開かぬ鉄の扉を見据えて顔を振る。
 生活には困らぬように全てが備え付けてはあるが、小さな窓が一つだけなので非常に薄暗く妙なニオイが漂う。
 鼻孔を震わせる正体が、わずかな月明かりを注がれて花弁を揺らす。
 一輪の花が寝台に無造作に放られていた。月明かりだけでは色や形も分からず、手探りで掴み、顔に突きつける。
 ふわりと甘やかな香りが鼻を抜けていく。
 ぶるりと四肢が震えた。急に頭痛に襲われ、寝台に倒れ伏す。

 目の前に現れたのは、いつかのまだ若かりし日の光景である。
 父も母もとても厳しく、無慈悲なふるまいでルシードを貶していた。
 ルシードは、代々王家に仕える由緒正しい一族に生まれついたが、二十代になっても、側近になれず、父も母もルシードをすっかり見放し、やがては顔もあわせないようになり、居心地の悪さから屋敷を出て行った。
 運良く側近になれた際には、祝の手紙がとどいたが、無視した。

 ルシードの世界は王だけとなり、それは異世界に彷徨うような幻想を与えてくれた。
 王は好色で数多の娼婦を城に呼びつけては、ルシードを巻き込もうとしていた。
 その場で見ているのも、女を抱くのも御免だ……私は王だけを見ているのに。

 扉が軋み、するりと人影が近寄る。
 闇から月明りに照らされるのは、まごうことなき、王の姿。
 足音もなく寝台に上がり、覆いかぶさり、短剣の先で、剥き出しの胸の突起をつつく。血が出ないギリギリの力加減で敏感な先端をいじめぬく。
 ルシードの息は突起から波打つ快感で弾み、腰まで揺れてしまう。
 もう片方は王の無骨な指先でこねくり回され、ルシードの股間は膨らみ、呼吸が早まる。
 気を抜けば、王の機嫌を損ね、突起から剣を、心の臓に突き立てられるかもしれぬ。
 恐怖と快感のはざまで追い詰められていく。
 甲高い声音と共に腰を震わせて、とうとう股間を濡らした。

「あっ」

 声をあげたが、王の姿はなく、ただ一人花をむさぼり、己の手で男根を慰めているだけである。
 王は、どこに、いる……。
 どうか傍に……!

 王を求めてもいつまでも部屋に閉じ込められ、質素な食事を食べさせられる毎日。
 王を想い、一目あえぬ悲しみに気が狂いそうになり、ある夜に叫んだ。

「私は王専属の奴隷である! 何故、陛下は来られない!? 私の役目を果たさせてくれえ!!」

 声は暗い通路に反響するだけで、返事はない。
 このまま王に会えないまま、死ぬまで、求めるのか……。

 ――陛下……! どうか! どうか、私を忘れないでください……!

 奴隷の務めも果たせぬとは、虫けら同然ではないか!

 ルシードは王に会いたくてたまらず、だんだんと頭がおかしくなっていった。
 王が来る代わりに放り込まれる、甘い香りの花を食べては、王との蜜月の夢に浸る。
 この花を食べると、夢の中で王が現れ、笑いかけてくれるのだ。

「……へ、いかあ……」

 うめいていたら、靴音が響いてくるのを聞いて、目を見開いた。
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