8 / 13
刻まれた想い
しおりを挟む私はシザーを見据えて唇を噛んだ。
「どういう、つもりだ?」
「それでも俺の物だと、オークの物になったと誓えるか?」
「……」
そうか。淫紋の力で私は、シザーに身も心も捧げると、そうしたいと願ったのか。
考えてみれば単純な話だ。
そもそも、私がシザーに捕まってこの身体を弄ばれたのが悪い。
隙をつかれた私の間抜けさを呪いたい気分だ。
脳裏には、様々な己の痴態が浮かんでは消えていく。
しばしシザーと見つめ合っていると、どこからともなく靴音が響いてきて近づいて来た。
「団長!!」
「その声は」
振り返ると抱きつかれてあやうく転ぶ所だった。
「ぷあ」
「リューク!」
リュークは私の姿に気付いて固まる。
シザーがキレイにしてくれたようだが、裸の格好なのはまずかったな。
リュークは気まずそうに顔をそむけて頬をかいた。
「すまない」
「い、いえ! その、いろいろお話したいことが」
ふと、リュークがシザーに気付いたようで一瞬硬直すると、すぐに怒声を張り上げて殴りかかろうとする。
「貴様ア! よくも団長を!!」
「待てリューク!」
「うぐ!?」
私はリュークをはがいじめにして止めた。
耳元に囁く。
(よく見てみろ、あいつは怯えてるんだ)
「え?」
そうなのだ。
シザーは、その姿に似つかわしくないくらいに何かに恐怖しているのだ。
リュークから手を放して、シザーにゆっくりと歩み寄る。
そっと顔を伺うとぴくりと反応した。
「シザー、おまえ、もしかして俺に拒絶されるのが怖いのか」
「……そんな事はない」
「……」
俺は自分の腹をさすり、胸に手を当てる。
素っ裸で滑稽この上ないが、俺は目の前のオークに嫌悪感も怒りも抱いていない。
少し落胆はするが、やはり私は己の役目を重荷に感じていたのだろう。
やり方は気にくわないが、このオークに解放されて虜になってしまったのだ。
シザーに抱きついて心からの想いを伝える。
「淫紋なんてなくても、俺はお前の物だ」
「アレクセイ……?」
「だから今まで通り、好きにしろ」
少しの間の後に腰に腕を回されて、ようやくシザーが落ち着いた。
だが、リュークは納得できないというように、食ってかかった。
当然なので、俺は責任を取る事を誓った。
「もともとは俺が元凶だ。必ず責任は取る」
「どうやってですか!? あいつら、オークにヤられまくって頭おかしくなってるんですよ!? 淫紋をすぐに解いてください!」
「まあ、待て騎士よ」
「!?」
突然シザーに話かけられて、リュークは俺の背後に隠れてしまう。
まるで子供みたいな態度に吹きそうになった。
「俺は、アレクセイと共に生きられる国を作りたいのだ」
「シザー?」
「だ、だからなんだよ!」
「淫紋なしで、お前達人間が、我らを受け入れる事などないだろう」
「何を言っているんだ、俺はそんなものなくても」
「しかし淫紋は必要だ。消してしまえば、お前達は我らの言葉などきかないだろう」
「シザー、怖がらなくていい」
私はひとまずリュークに冷静に説明する。
敵対しているオークに蹂躙された精神的ショックから守る為にも、彼らにはまだ淫紋は必要である事、そして隣国に攻め入る前に、セレドニオ王に内密に会に行く事を。
これについては、シザーも驚いていたが、どうにか承諾してもらえた。
リュークには待機してもらい、シザーと二人きりになると身を寄せて耳元に囁く。
「……俺には、淫紋は必要ない。でも、お前が不安だというならずっと刻んでもらってかまわない」
「アレクセイ、何故だ。何故、素のお前が俺を受け入れる事ができる?」
「それはわからないな。でも、お前のおかげで重荷が消えたのは感謝しているんだ」
笑ったつもりで顔を向けると唇を塞がれた。
こんなに人間のような感情を持つオークを、私は知らない。
オークが知能を持ち進化することは、果たして良い事なのだろうか……。
「セレドニオ王に会いに行く前に、皆の様子が心配だ」
「それについては安心するといい。今頃は淫紋が一時的に消えて、休ませているはずだ」
「え」
リュークが目を丸くする。
自分が自由になっている事実に、今気付いた様子だ。
それでも、身体を綺麗にしたり、介抱が必要だ。
私はリュークと共に仲間達の元へと向かう。
騎士団達は処刑場から地下の大広間に移動させられ、そこでオークの相手をしている筈だ。
大広間に足を踏み入れると、鼻につく性のニオイに顔をしかめる。
主力戦力である騎士達を中心にして、団員達が倒れていた。
オークに手を出されなかった者達は、白濁まみれで身悶えている彼らの面倒を見ている。
中でもフランシスは酷い。
顔まで精液をかけられて表情がうかがえないほどだ。
「ふ、うぐう」
「フランシス大丈夫か?」
「さわるな!」
バシンッと何かに振り払われて、背中から地に叩きつけられてしまった。
痛みで呻いていると、フランシスを三体のオークが取り囲んでいる。
まさか、まだ彼をなぶるつもりなのか。
私は慌てて立ち上がると、奴らを牽制する意味で剣を引き抜く。
「お前達、もうフランシスを休ませてやれ!」
「ん? 何を言っている」
「兄者、こいつもってく」
「ああ」
「ん~」
フランシスが一体のオークに抱えられて、腕の中で朦朧としている。
この三体はどうやら兄弟らしい。
「待て! フランシスをどうするつもりだ!」
「ケアする」
「ケア?」
「……ん、だんちょお?」
意外な言葉に驚いた私の声に、フランシスが目を覚ましたようだ。
私を見つめながら、柔和に微笑んだ。
まるで夢を見ているような表情である。
「フランシス、淫紋は一時的に消えた筈だが……大丈夫か」
てっきり混乱して暴れるかと思いきや、フランシスは腹を見て目を丸くすると、自分を抱えているオークの胸に頬をこすりつけて瞳を閉じた。
「大丈夫です」
「そ、そうか?」
「もういいか」
「あ、ああ……」
オークはフランシスを優しい手つきで撫でて、静かな足取りで運んでいく。
私はその不思議な光景に見入っていたが、残る二体の兄弟オークに向き直り、ひとまずシザーと取り決めた内容を伝えて、他の仲間達の様子も見て回る。
ついてきていたリュークが、自分の相手であるオークと口づけを交わしていた。
他の者達も皆、淫紋が一時的にとはいえ、消えているというのに、誰もわめいたりせず、大人しくその身をオークへと委ねている。
――シザーは、我々を試したのかもしれないな。
まさか、オークが愛情を求めるだなんて。
もっとも手をだされていない団員達は、隅で固まってただ怯えている様子だが。
異様な光景についていけないといったところか。
「団長!」
その隅っこにいた一人が、私のもとへ駆け寄ってきたのでちょうど良かった。
「セレドニオ王と会ってくる。王をこちらに招き入れる可能性がある」
「な、なんですって!」
「その時の為に、経路の整理を頼みたい」
こうして、私はシザーと共に隣国へと秘密裏に向かった。
10
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる