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そして終わりはやってくる
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混乱に陥った女神復活祭も無事に終わり、王都は静けさを取り戻していた。
ライマーはあれからアロイスと同部屋になり、隙あらば抱き着いてアロイスを困らせていた。
「す、すまない」
「いや、いいんだ……おまえ、最初から俺が目的だったんだな?」
「それは」
否定した所で、ライマーの態度を見ればごまかすのは不可能だろう。
いろいろな質問をされたし、王から呼び出しもされたが、躊躇するライマーをアロイスが「決心できたら全てを話してくれ」と守ってくれた。
彼はライマーに柔らかな表情を向けるようになり、それが嬉しくてさらに気持ちは高揚して離れがたくなる。
甘えるように胸に顔をこすりつけると、抱きしめてくれた。
「お前に禁術を見てもらいたいんだが、一緒にきてくれるか?」
「あ、ああ! 大丈夫だ」
アロイスの冷静な声でようやく我に返ったライマーは、そっと身体を離した。
例の儀式の間にて、禁術の記された書物を確認してみる。
手を翳してみても魔力は感じない。
一つの結論を導き出し、率直に伝えた。
「では、もう効力はないという事なのか?」
「ああ。もう呪いの力は発動しないだろう」
「どうしてなんだ?」
「恐らくだが、あの時、女神の放った光は城中を包み込み、アロイスの聖なる力と共鳴して、この禁術にまで作用したのだろう」
神官達の話によれば、女神が眠りについたのを感じとれたと言っていた……赦されたのだろうか。
「……またいつ、魔族と人間の大規模な戦争が起こるか予測はできない。女神は我々がどのような意志を持ち、どう生きていくのかを見定めるつもりなのだろう」
「俺は、この国の人間でもないし、女神の考えなぞわからん……アロイス、お前は聖騎士なんだ。お前の感じる事は真実なんじゃないか?」
「……何にせよ、油断はできないな」
するりとアロイスに頬を撫でられる。
どきりとして顔を向けると視線があった。
蒼い目が揺れている。
「お前の気持ちを利用して、すまなかった」
「え……」
「俺に人を操る術をかけて恋人にしたものだから、つい意地の悪い事を考えてしまった」
「い、いや」
ヴィレクをおびき出す為だったのだろうし、禁術を使ったライマーに対してもっと怒ってもいいはずなのに。
アロイスは神妙な面持ちでライマーの肩を抱いてきた。
ふれあう肉体の感触に、ライマーの神経がぴりぴりとして喜んでいるのがわかる。
「今夜、お前をきちんと抱きたい」
「い、いまなんて?」
「ずっと俺の傍にいてくれないか」
「……アロイス」
真剣な眼差しにライマーは頷いた。
瞼からとめどなく滴が流れて、頬を伝い落ちていく。
夢見ていた夜が訪れようとしている。
一人風呂場に向かい、裸体をさらけ出す。
鏡に映る上半身を見て愕然とした。
黒い紋様は、ほぼ全身に広がっていたのだ。
それに、意識をすれば痛みが鋭く感じる。
――聖なる力を取り込み、ライマーの抱く魔力が衰えている証拠だった。
だが、それよりも。
「今夜、完成するのか」
皮肉にも、呪いはもうまもなく完成しようとしていた。
「持った方だ」
自分を褒める言葉を囁くと、身体を洗って、風呂場から出た。
着替えて向かったのは、アロイスの待つ部屋ではなく、城の外である。
外に出た頃には痛みは全身に広がり、頭痛までしていた。
月明かりに照らされる、城から続く裏道を歩いて行く。
兵士をあざむく為の魔術を使うので精一杯だった。
森の奥へとゆっくり歩いて行く。
息切れして呼吸がまともにできない。
途中で使役していた野良犬が足元にまとわりついてきたが、追い払い、歩き続けた。
目先に、湖が見えてくる。
――この中に入ろう。
ここで、命を絶つ。
あの人に知られないよう、密かにここで消えよう。
ライマーは湖面へ身を投げた。
ライマーはあれからアロイスと同部屋になり、隙あらば抱き着いてアロイスを困らせていた。
「す、すまない」
「いや、いいんだ……おまえ、最初から俺が目的だったんだな?」
「それは」
否定した所で、ライマーの態度を見ればごまかすのは不可能だろう。
いろいろな質問をされたし、王から呼び出しもされたが、躊躇するライマーをアロイスが「決心できたら全てを話してくれ」と守ってくれた。
彼はライマーに柔らかな表情を向けるようになり、それが嬉しくてさらに気持ちは高揚して離れがたくなる。
甘えるように胸に顔をこすりつけると、抱きしめてくれた。
「お前に禁術を見てもらいたいんだが、一緒にきてくれるか?」
「あ、ああ! 大丈夫だ」
アロイスの冷静な声でようやく我に返ったライマーは、そっと身体を離した。
例の儀式の間にて、禁術の記された書物を確認してみる。
手を翳してみても魔力は感じない。
一つの結論を導き出し、率直に伝えた。
「では、もう効力はないという事なのか?」
「ああ。もう呪いの力は発動しないだろう」
「どうしてなんだ?」
「恐らくだが、あの時、女神の放った光は城中を包み込み、アロイスの聖なる力と共鳴して、この禁術にまで作用したのだろう」
神官達の話によれば、女神が眠りについたのを感じとれたと言っていた……赦されたのだろうか。
「……またいつ、魔族と人間の大規模な戦争が起こるか予測はできない。女神は我々がどのような意志を持ち、どう生きていくのかを見定めるつもりなのだろう」
「俺は、この国の人間でもないし、女神の考えなぞわからん……アロイス、お前は聖騎士なんだ。お前の感じる事は真実なんじゃないか?」
「……何にせよ、油断はできないな」
するりとアロイスに頬を撫でられる。
どきりとして顔を向けると視線があった。
蒼い目が揺れている。
「お前の気持ちを利用して、すまなかった」
「え……」
「俺に人を操る術をかけて恋人にしたものだから、つい意地の悪い事を考えてしまった」
「い、いや」
ヴィレクをおびき出す為だったのだろうし、禁術を使ったライマーに対してもっと怒ってもいいはずなのに。
アロイスは神妙な面持ちでライマーの肩を抱いてきた。
ふれあう肉体の感触に、ライマーの神経がぴりぴりとして喜んでいるのがわかる。
「今夜、お前をきちんと抱きたい」
「い、いまなんて?」
「ずっと俺の傍にいてくれないか」
「……アロイス」
真剣な眼差しにライマーは頷いた。
瞼からとめどなく滴が流れて、頬を伝い落ちていく。
夢見ていた夜が訪れようとしている。
一人風呂場に向かい、裸体をさらけ出す。
鏡に映る上半身を見て愕然とした。
黒い紋様は、ほぼ全身に広がっていたのだ。
それに、意識をすれば痛みが鋭く感じる。
――聖なる力を取り込み、ライマーの抱く魔力が衰えている証拠だった。
だが、それよりも。
「今夜、完成するのか」
皮肉にも、呪いはもうまもなく完成しようとしていた。
「持った方だ」
自分を褒める言葉を囁くと、身体を洗って、風呂場から出た。
着替えて向かったのは、アロイスの待つ部屋ではなく、城の外である。
外に出た頃には痛みは全身に広がり、頭痛までしていた。
月明かりに照らされる、城から続く裏道を歩いて行く。
兵士をあざむく為の魔術を使うので精一杯だった。
森の奥へとゆっくり歩いて行く。
息切れして呼吸がまともにできない。
途中で使役していた野良犬が足元にまとわりついてきたが、追い払い、歩き続けた。
目先に、湖が見えてくる。
――この中に入ろう。
ここで、命を絶つ。
あの人に知られないよう、密かにここで消えよう。
ライマーは湖面へ身を投げた。
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