8 / 14
恐怖の来訪者
しおりを挟む
ライマーは夢を見ていた。
遠い記憶。
魔族と人の戦争で、いつの間にか自分一人だけが取り残されて泣いていた。
そこに、巨漢が近づいてきてライマーを拾い上げた。
――ヴィレク。
「おまえ、気に入ったぞ。俺好みに育ててやろう、生きたければ言うことをきけ」
アロイスと出会う三年前、ヴィレクに拾われて、ライマーは彼の僕となった。
淫紋を刻まれ、性欲、肉欲を満たす道具にされ、盗みや交渉術、体術、さらには闇魔術、といった生きる術をたたき込まれた。
ヴィレクのライマーへの執着は異常なものがあった。
愛しているのだと豪語するも、果たして異形なぞに、そんな気持ちがわかるのだろかと、いつも疑問に思っていた。
「ん……」
大きな音が聞こえて目が覚めた。
起き上がると、城のどこからか轟音と怒声がしている。
「なんだ?」
部屋を出て通路を走り外に出た。
門が開かれており、焦げ臭い。
その煙が上がっている方角から、知っている気配がして凍り付く。
煙が晴れた中心に、褐色の異形の巨漢が、棍棒をもって暴れている。
「ライマーをよこせええええ!」
「ヴィレク!」
応戦していた騎士達の間を駆け抜けたライマーは、ヴィレクの前に走り出た。
ライマーを見つけたヴィレクに腕を掴まれ、引っ張り上げられてしまう。
「ぐああああ……っ!」
「ライマーあああっ!」
痛みに悲鳴をおさえきれず、ライマーはヴィレクの咆吼に恐怖を覚える。
尋常じゃない狂ったような執着を注がれて、命まで奪われそうだ。
「お、おちつけヴィレク!」
「あああああああっ!! 聖騎士を殺してやる!!」
ヴィレクはアロイスを探して棍棒をふりまわし、城内の壁を壊して暴れ回る。
「う、うぐあ」
――腕がちぎれる!
「――放てっ」
どこからともなく声がして、ヴィレクが動きを止めた。
「おわ!」
その反動でライマーは地へと振り落とされてしまったが、誰かに抱き留められて息を飲む。
金髪の騎士がライマーを抱き留めていた。
そんな場合ではないのに、心臓が高鳴るのを感じて慌てる。
――し、しかっりしろ!
「神官達よ、よくやってくれた!」
「!?」
ドンッと突き飛ばされた瞬間――アロイスが剣を構えて跳躍する。
自分の倍はある、大木のような異形の首に刃を斬りつけた。
「ゼヤアアアアアッ!!」
ブシュウ!!
「ぎゃああアアッ!」
ヴィレクが斬られて血を噴出させる。
そのまま神官達の術に身体を締め上げられ、身体が白い光に包まれていく。
「ら、ライマー」
手を伸ばしライマーを求める声に、ライマーは地に伏せたまま思わず手を差し伸べたが。
「終わりだ」
アロイスの言葉がトドメとなったかのように、ヴィレクの身はかき消された。
「ヴィ、レク」
呆然と名前を呟く事しかできず、しばらく沈黙が流れる。
「闇魔術師、ライマーよ」
「……アロイス」
アロイスによって突き飛ばされたライマーは未だ転がったままだ。
その眼前に切っ先をつきつけられ、視線をあげる。
冷めた目が、注視していた。
「あの者はお前にかなり執着している様子だったから、いずれ大胆な手に出ると踏んでいた」
「アロイス?」
「魔獣を操る奴の姿を、目撃している者もいた」
「……」
そんな淡々と話す様子に、ライマーはもう分かっていた。
アロイスは術になどかかっていなかったのだと。
「お前の目的は俺の命なのか、もしくは宝玉なのかはもうどうでもいい……一つだけ確かなのは、お前は闇に通じる者として厄災をもたらした」
「すべて、演技だったんだな」
「そうだ。嫉妬で怒り狂って我を忘れた獣など、討つのはたやすい事だ」
「それにしても、あんなにあっさりと」
「お前の言葉など、聞くに値しない。さっさと出て行け、この国から」
「……そ、それは」
言いよどむライマーに、アロイスは鬼のような形相で睨み着けると吐き捨てた。
「まだ分からないのか!? 処刑するところを王の慈悲で見逃してやろうという事だ!」
「――っ」
そこまで言われてしまえば、出て行く他なくなる。
気ががりなのは、禁術を消し終えていない事実なのだが、とてもそんな事を口にできる雰囲気ではない。
「ご命令通りに。聖騎士アロイス様」
「二度と姿を見せるな」
「御意」
ライマーはようやく立ち上がり、俯いたままその場からゆっくりとした足取りで立ち去った。
後方から「アロイス様、こんな札が」という誰かの言葉が気になったが、門の外で待ち構えていたエドヴィンに小突かれて、立ち止まる事は不可能だった。
遠い記憶。
魔族と人の戦争で、いつの間にか自分一人だけが取り残されて泣いていた。
そこに、巨漢が近づいてきてライマーを拾い上げた。
――ヴィレク。
「おまえ、気に入ったぞ。俺好みに育ててやろう、生きたければ言うことをきけ」
アロイスと出会う三年前、ヴィレクに拾われて、ライマーは彼の僕となった。
淫紋を刻まれ、性欲、肉欲を満たす道具にされ、盗みや交渉術、体術、さらには闇魔術、といった生きる術をたたき込まれた。
ヴィレクのライマーへの執着は異常なものがあった。
愛しているのだと豪語するも、果たして異形なぞに、そんな気持ちがわかるのだろかと、いつも疑問に思っていた。
「ん……」
大きな音が聞こえて目が覚めた。
起き上がると、城のどこからか轟音と怒声がしている。
「なんだ?」
部屋を出て通路を走り外に出た。
門が開かれており、焦げ臭い。
その煙が上がっている方角から、知っている気配がして凍り付く。
煙が晴れた中心に、褐色の異形の巨漢が、棍棒をもって暴れている。
「ライマーをよこせええええ!」
「ヴィレク!」
応戦していた騎士達の間を駆け抜けたライマーは、ヴィレクの前に走り出た。
ライマーを見つけたヴィレクに腕を掴まれ、引っ張り上げられてしまう。
「ぐああああ……っ!」
「ライマーあああっ!」
痛みに悲鳴をおさえきれず、ライマーはヴィレクの咆吼に恐怖を覚える。
尋常じゃない狂ったような執着を注がれて、命まで奪われそうだ。
「お、おちつけヴィレク!」
「あああああああっ!! 聖騎士を殺してやる!!」
ヴィレクはアロイスを探して棍棒をふりまわし、城内の壁を壊して暴れ回る。
「う、うぐあ」
――腕がちぎれる!
「――放てっ」
どこからともなく声がして、ヴィレクが動きを止めた。
「おわ!」
その反動でライマーは地へと振り落とされてしまったが、誰かに抱き留められて息を飲む。
金髪の騎士がライマーを抱き留めていた。
そんな場合ではないのに、心臓が高鳴るのを感じて慌てる。
――し、しかっりしろ!
「神官達よ、よくやってくれた!」
「!?」
ドンッと突き飛ばされた瞬間――アロイスが剣を構えて跳躍する。
自分の倍はある、大木のような異形の首に刃を斬りつけた。
「ゼヤアアアアアッ!!」
ブシュウ!!
「ぎゃああアアッ!」
ヴィレクが斬られて血を噴出させる。
そのまま神官達の術に身体を締め上げられ、身体が白い光に包まれていく。
「ら、ライマー」
手を伸ばしライマーを求める声に、ライマーは地に伏せたまま思わず手を差し伸べたが。
「終わりだ」
アロイスの言葉がトドメとなったかのように、ヴィレクの身はかき消された。
「ヴィ、レク」
呆然と名前を呟く事しかできず、しばらく沈黙が流れる。
「闇魔術師、ライマーよ」
「……アロイス」
アロイスによって突き飛ばされたライマーは未だ転がったままだ。
その眼前に切っ先をつきつけられ、視線をあげる。
冷めた目が、注視していた。
「あの者はお前にかなり執着している様子だったから、いずれ大胆な手に出ると踏んでいた」
「アロイス?」
「魔獣を操る奴の姿を、目撃している者もいた」
「……」
そんな淡々と話す様子に、ライマーはもう分かっていた。
アロイスは術になどかかっていなかったのだと。
「お前の目的は俺の命なのか、もしくは宝玉なのかはもうどうでもいい……一つだけ確かなのは、お前は闇に通じる者として厄災をもたらした」
「すべて、演技だったんだな」
「そうだ。嫉妬で怒り狂って我を忘れた獣など、討つのはたやすい事だ」
「それにしても、あんなにあっさりと」
「お前の言葉など、聞くに値しない。さっさと出て行け、この国から」
「……そ、それは」
言いよどむライマーに、アロイスは鬼のような形相で睨み着けると吐き捨てた。
「まだ分からないのか!? 処刑するところを王の慈悲で見逃してやろうという事だ!」
「――っ」
そこまで言われてしまえば、出て行く他なくなる。
気ががりなのは、禁術を消し終えていない事実なのだが、とてもそんな事を口にできる雰囲気ではない。
「ご命令通りに。聖騎士アロイス様」
「二度と姿を見せるな」
「御意」
ライマーはようやく立ち上がり、俯いたままその場からゆっくりとした足取りで立ち去った。
後方から「アロイス様、こんな札が」という誰かの言葉が気になったが、門の外で待ち構えていたエドヴィンに小突かれて、立ち止まる事は不可能だった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
【完結】ワンコ系オメガの花嫁修行
古井重箱
BL
【あらすじ】アズリール(16)は、オメガ専用の花嫁学校に通うことになった。花嫁学校の教えは、「オメガはアルファに心を開くなかれ」「閨事では主導権を握るべし」といったもの。要するに、ツンデレがオメガの理想とされている。そんな折、アズリールは王太子レヴィウス(19)に恋をしてしまう。好きな人の前ではデレデレのワンコになり、好き好きオーラを放ってしまうアズリール。果たして、アズリールはツンデレオメガになれるのだろうか。そして王太子との恋の行方は——?【注記】インテリマッチョなアルファ王太子×ワンコ系オメガ。R18シーンには*をつけます。ムーンライトノベルズとアルファポリスに掲載中です。
本日のディナーは勇者さんです。
木樫
BL
〈12/8 完結〉
純情ツンデレ溺愛魔王✕素直な鈍感天然勇者で、魔王に負けたら飼われた話。
【あらすじ】
異世界に強制召喚され酷使される日々に辟易していた社畜勇者の勝流は、魔王を殺ってこいと城を追い出され、単身、魔王城へ乗り込んだ……が、あっさり敗北。
死を覚悟した勝流が目を覚ますと、鉄の檻に閉じ込められ、やたら豪奢なベッドに檻ごとのせられていた。
「なにも怪我人檻に入れるこたねぇだろ!? うっかり最終形態になっちまった俺が悪いんだ……ッ!」
「いけません魔王様! 勇者というのは魔物をサーチアンドデストロイするデンジャラスバーサーカーなんです! 噛みつかれたらどうするのですか!」
「か、噛むのか!?」
※ただいまレイアウト修正中!
途中からレイアウトが変わっていて読みにくいかもしれません。申し訳ねぇ。
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子α(12)×ポメラニアン獣人転生者Ω(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる