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闇魔術の力
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特別な時間を過ごし、自室に戻ったライマーは、この部屋が隣の部屋とつながっていると気づく。
隣でアロイスがライマーを監視しているのだ。
――落ち着けないな。
妙な寝言や物音を立てぬよう慎重に過ごさなければ、と肝に銘じる。
――この城から盗み出さなければならない物もあるしな……。
ヴィレクが差し出した条件なので、密会までに、城内をくまなく確認しなければならないのだ。
――ひとまずは眠るか……。
酒の力も手伝って、ライマーは浅い眠りへと落ちた。
日が高く昇った頃。部屋の戸を乱暴に叩く音に起こされて部屋を出ると、銀の鎧をまとう聖騎士が怒りの形相でライマーを急かす。
「貴様! 王と謁見だといったはずだぞ! まだ寝ぼけ眼とはどういう事だ!」
「……ああ、すまない。夢ばかり見ていたが、起きれなかったな、強い酒だったようだ」
「酒のせいにするな! さっさと支度を整えろ!」
「そう怒るな、すぐに準備する」
アロイスの剣幕に気おされそうになるも、自分に対しての反応だと思えば、幸せだと感じてしまう己に失笑した。
顔を洗い、身支度を整えてアロイスに促されるまま、王の間へと急いだ。
王は獅子を思わせる長い金髪と、屈強な肉体を持つ厳格な雰囲気をまとっていた。
ライマーを見据えるその双眸を細めて、見定めている様子である。
王がおもむろに口を開いて疑問を投げかけてきた。
「闇魔術師よ、何故我が国の騎士団を選んだのだ」
もっとも重要な質問だな。
ライマーはあらかじめ用意していた理由を述べた。
「大陸一の力を持つ騎士団というのもありますが、私を捕らえている者は、闇により深く繋がりを持つ者なのです」
「我が騎士団の聖なる力を頼りに……といったところか」
それには無言で頭を垂れる。
「アロイスよ、この者が恐れる存在が我が国に入り込む可能性があるが、お前は責任を負えるのか」
「……エドヴィンと話し合いの上で決めた事です。実は――」
目の前で王とライマーについて話し込むアロイスの姿に釘付けになった。
ふいに王が視線を向けたので我に返り、息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「闇魔術師、ライマーよ」
「はい」
「禁術を消し去る事ができるのは、事実だと証明できるか」
「証明ですか……それでは、禁術を消すところをお見せしましょう」
闇魔術を行使する為、地下部屋へと移動することになり、王を囲むようにして、複数の兵士とアロイスの後に続くライマーは、移動中に気になる箇所を視界で追っていた。
厳重な鍵をかけられた部屋がいくつか視認できたので収穫はあった。
地下に作られた儀式の為の部屋は冷やりとしており、窓がなく閉ざされていた。
その中心には何やら魔方陣が描かれている。
力の暴走を阻止する為の、白魔術の紋様だと気付く。
ライマーのように闇に通じる者に対しては、その上に立つだけで苦しみを伴う筈。
それでも、この場で禁術を消す事になるだろう。
――いい練習にはなるな。
兵士から禁術が書かれた書物を受け取り、中身を捲ってみる。
最初に目に飛び込んだ〝人を操る術〟を消し去る事にした。
下がるように皆に目配せをすると、魔方陣の中心にたつライマー。
「……ぐっ」
瞬間、足裏から強烈な痛みが走り、頬がひきつるのを感じる。
「ふうう……」
呼吸を整え意識を集中させると、痛みの痺れは鈍化した。
書物に手の平を翳し、呪文を囁く。
「お」
誰かの驚く声が聞こえた。
書物は輝き始め、紫の光を放ち――それはやがてある動物の形を成す。
「へ、蛇!?」
兵士の一人が書物から飛び出した大蛇に驚愕し、あろうことか短剣を投げつけてくる。
「……っ」
蛇の胴体をすり抜け、ライマーの頬をかすり、血が滲む。
「おい! 大丈夫なのか!?」
「ああ」
アロイスの声に応えると、ライマーは呪文の続きを唱えて、懐から銀の刃を取り出す。
「ギシャアアアアアッ」
大蛇はライマーに向かって吠えるが、容赦なく刃をその首に突き刺す――それはすり抜けず、しっかりと突き刺さって、蛇は叫びながらバシンッと消え去った。
反動で膝をついたものの、見事に禁術を消滅させた闇魔術師に王が拍手を送る。
兵士達は唖然としており、アロイスは難しい顔をしてライマーを見据えていた。
「見事だ」
「ありがとうございます……」
「陛下、この者は穢れきっています」
アロイスは悪意がこもった言葉を言い放つ。
王はそんな聖騎士に無言で視線を送った。
その後、ライマーは正式に騎士団への一時入隊を認められたのだが、あの禁術を消滅させた日以来、アロイスのライマーに対しての辛辣さは増し、団員からの蔑む視線が痛い。
――悪意を向けられるのは慣れてはいるのだが、これは警戒しなくてはならないな。
もしかすると、半年経たぬ前に、殺されかねない。
やはり、蛇に具現化して禁術を消し去るのは避けた方が良かったか。
今更後悔しても遅い。
もう少し、早めにここを出るべきだろうか。
隣でアロイスがライマーを監視しているのだ。
――落ち着けないな。
妙な寝言や物音を立てぬよう慎重に過ごさなければ、と肝に銘じる。
――この城から盗み出さなければならない物もあるしな……。
ヴィレクが差し出した条件なので、密会までに、城内をくまなく確認しなければならないのだ。
――ひとまずは眠るか……。
酒の力も手伝って、ライマーは浅い眠りへと落ちた。
日が高く昇った頃。部屋の戸を乱暴に叩く音に起こされて部屋を出ると、銀の鎧をまとう聖騎士が怒りの形相でライマーを急かす。
「貴様! 王と謁見だといったはずだぞ! まだ寝ぼけ眼とはどういう事だ!」
「……ああ、すまない。夢ばかり見ていたが、起きれなかったな、強い酒だったようだ」
「酒のせいにするな! さっさと支度を整えろ!」
「そう怒るな、すぐに準備する」
アロイスの剣幕に気おされそうになるも、自分に対しての反応だと思えば、幸せだと感じてしまう己に失笑した。
顔を洗い、身支度を整えてアロイスに促されるまま、王の間へと急いだ。
王は獅子を思わせる長い金髪と、屈強な肉体を持つ厳格な雰囲気をまとっていた。
ライマーを見据えるその双眸を細めて、見定めている様子である。
王がおもむろに口を開いて疑問を投げかけてきた。
「闇魔術師よ、何故我が国の騎士団を選んだのだ」
もっとも重要な質問だな。
ライマーはあらかじめ用意していた理由を述べた。
「大陸一の力を持つ騎士団というのもありますが、私を捕らえている者は、闇により深く繋がりを持つ者なのです」
「我が騎士団の聖なる力を頼りに……といったところか」
それには無言で頭を垂れる。
「アロイスよ、この者が恐れる存在が我が国に入り込む可能性があるが、お前は責任を負えるのか」
「……エドヴィンと話し合いの上で決めた事です。実は――」
目の前で王とライマーについて話し込むアロイスの姿に釘付けになった。
ふいに王が視線を向けたので我に返り、息を吐いて落ち着きを取り戻す。
「闇魔術師、ライマーよ」
「はい」
「禁術を消し去る事ができるのは、事実だと証明できるか」
「証明ですか……それでは、禁術を消すところをお見せしましょう」
闇魔術を行使する為、地下部屋へと移動することになり、王を囲むようにして、複数の兵士とアロイスの後に続くライマーは、移動中に気になる箇所を視界で追っていた。
厳重な鍵をかけられた部屋がいくつか視認できたので収穫はあった。
地下に作られた儀式の為の部屋は冷やりとしており、窓がなく閉ざされていた。
その中心には何やら魔方陣が描かれている。
力の暴走を阻止する為の、白魔術の紋様だと気付く。
ライマーのように闇に通じる者に対しては、その上に立つだけで苦しみを伴う筈。
それでも、この場で禁術を消す事になるだろう。
――いい練習にはなるな。
兵士から禁術が書かれた書物を受け取り、中身を捲ってみる。
最初に目に飛び込んだ〝人を操る術〟を消し去る事にした。
下がるように皆に目配せをすると、魔方陣の中心にたつライマー。
「……ぐっ」
瞬間、足裏から強烈な痛みが走り、頬がひきつるのを感じる。
「ふうう……」
呼吸を整え意識を集中させると、痛みの痺れは鈍化した。
書物に手の平を翳し、呪文を囁く。
「お」
誰かの驚く声が聞こえた。
書物は輝き始め、紫の光を放ち――それはやがてある動物の形を成す。
「へ、蛇!?」
兵士の一人が書物から飛び出した大蛇に驚愕し、あろうことか短剣を投げつけてくる。
「……っ」
蛇の胴体をすり抜け、ライマーの頬をかすり、血が滲む。
「おい! 大丈夫なのか!?」
「ああ」
アロイスの声に応えると、ライマーは呪文の続きを唱えて、懐から銀の刃を取り出す。
「ギシャアアアアアッ」
大蛇はライマーに向かって吠えるが、容赦なく刃をその首に突き刺す――それはすり抜けず、しっかりと突き刺さって、蛇は叫びながらバシンッと消え去った。
反動で膝をついたものの、見事に禁術を消滅させた闇魔術師に王が拍手を送る。
兵士達は唖然としており、アロイスは難しい顔をしてライマーを見据えていた。
「見事だ」
「ありがとうございます……」
「陛下、この者は穢れきっています」
アロイスは悪意がこもった言葉を言い放つ。
王はそんな聖騎士に無言で視線を送った。
その後、ライマーは正式に騎士団への一時入隊を認められたのだが、あの禁術を消滅させた日以来、アロイスのライマーに対しての辛辣さは増し、団員からの蔑む視線が痛い。
――悪意を向けられるのは慣れてはいるのだが、これは警戒しなくてはならないな。
もしかすると、半年経たぬ前に、殺されかねない。
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