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聖騎士様のご乱心
しおりを挟む俺は突然自由になった。
森の中でゼルフォン様から一方的に「自由にしよう」と言われてから、俺は荷物をまとめて今、この国を出ようとしている。
あれからまともにゼルフォン様と話してない。
正直、なんて言えばいいのかまるで分らなかった。
ゼルフォン様の屋敷から荷物を引き払って、宿屋で一泊していたのだが、そこに意外な人物が訪ねてきた。
「久しぶりじゃのう、商人ラハンよ」
「は、はい! 王様!」
人の目を盗んでわざわざ王様が俺を探してやってくるなんて。
一体何事なのだ。
俺が借りた小さな部屋に小柄とはいえ、大の大人三人(護衛の兵士一名もいる)が詰め込まれているのだ。
なんか空気が重苦しい。
向かいの椅子に座った王様はため息をついて、俺を見ておもむろに口を開いた。
「実はな、お主とゼルフォンが別れたと聞いての」
「は、はあ」
――その事実はむしろ王様には好都合なのでは?
微妙な雰囲気に、大柄な従者も困り顔になってる。
王様の話によると、ゼルフォン様に見合い話が持ち上がり、それを受け入れたのだという。
喜ばしい話なのだが、問題があるらしい。
「聖騎士をやめるというのだ」
「え、なんで」
「どうやらお主とのことを反省している様子でな……確かに、好きになったからといって、随分と身勝手なことをしたのじゃろう? そ、そのいろいろとな?」
「う、ま、まあ……でも」
確かに、俺はずっと流されてばかりで、俺の意思なんてほとんど関係なかった。
「どうした」
「いや、でも俺も本当に嫌なら、とっくに逃げてたっていうか」
「では、奴を恨んでいたりはしないのか?」
「う、うらむなんて! そんなわけないです!」
「ならば、どう思っているのだ。ゼルフォンを」
「……えっと」
そう聞かれると、本当に困ってしまう。
嫌いではない。むしろ、好きだと思う。
でも、恋愛感情だとか愛なのかと問われると……。
「俺、恋した事ってないんだよな~」
「ほう? 珍しいのう」
「……そうでもないですよ、世界を旅する奴には恋愛って邪魔になる事が多いですし」
「ほ、ほう?」
そういうものなのか、と何やら従者とごにょごにょ話している王様から視線を逸らして、思考をめぐらせた。
ゼルフォン様が、まさか聖騎士をやめるなんて。
そこまで思い悩んでいたんだ。
でも、結婚するって……。
俺と別れた途端、お見合い受けて承諾するなんて。
「勝手な奴だな」
「んむ?」
なんかだんだん腹立ってきたぞ。
いや、前から腹立ってたのはあるんだけど。
そのたびに流されたからなあ、俺。
「王様、俺説得します!」
「な、なんだと?」
「俺のせいで聖騎士やめるってなんか腹がたつんで!」
「本当に説得してくれるのか?」
「はい! この際、強くいってやりますよ!」
「よし! では、さっそく連れて行ってやろう」
王様と従者と連なって宿の裏口からこそこそ出ると、そこには怪しい男が待っていた。
「ダラス、またお前」
「おや? お主は」
「王様、わたくしは商人のダラスと申します……率直に申し上げますが、嘘はいけませんなあ」
「うぐ!」
「え」
嘘って? 王様が嘘ついてるってどういう意味だろう。
ダラスがにやにや笑いながら俺を見て、再び口を開いた。
「聖騎士殿はお前をあきらめきれず、王様をおどしたのだ」
「は?」
「自分に聖騎士をつづけさせたいなら、ラハンを連れてこいとな」
「ほ、ほんとですか王様!?」
「……許せ」
「いま、わが国が聖騎士ゼルフォン殿をうしなうわけにはいかないのだ」
従者が項垂れて呟く。
どんな事情があるかは知らないが、ゼルフォン様はだいぶ貴重な存在らしい。
ダラスの言っていることは事実みたいだ。
でも、どうしてそんな話を知っているんだろう。
「俺は商売を有利に進めるために、あらゆる情報をつかむ術を持っている」
「ほんっとうにあくどい奴だな」
「あんな未練がましいかっこわるい奴なんて、放っておいて、俺とこの国を出ないか?」
「え」
「そろそろ体がうずいて仕方ないんじゃないか?」
「そ、そんなこと」
「己の欲望のままにお前を好き勝手にした騎士など忘れてしまえ、本能に従うんだ」
「ほ、ほんのう?」
「俺なら世界中を一緒に回れるし、肉欲も満たしてやれるぞ、ん?」
「うぐっ」
「……べつに愛してはいないのだろう? あの騎士を」
「……」
素敵な人だとは思った。
でも、同性でしかも身分も自分とは違って高位の人を、そう簡単に恋愛対象には見れない。
「お前の自由を奪った悪い奴だろ?」
「う、うう」
「悪夢だと思って忘れてしまえ!」
「おわ!」
思いきり腕を引っ張られて抱きしめられた。
「ラハン」
「ん、んう」
まずい、このままじゃこいつに拉致られる!
「ラハンを放せ」
「え?」
突然聞こえてきた低い声と共に、鈍い音が聞こえた。
一瞬目を閉じて開いたら、目の前には異様な光景が広がっていた。
ダラスがうつ伏せに地面に倒れこんでいた。
そして、その隣には……。
「迎えに来た」
「ぜ、ゼルフォン様」
「ゼルフォン、なぜここに」
王様の戸惑う声を無視して、ゼルフォン様が俺に手を伸ばす。
「俺はどうしても君のことを諦めきれない」
「ぜ、ゼルフォン様?」
「君を、調教させてもらう」
「……っ!?」
いつの間にか俺はゼルフォン様にとらわれていて、首に何かをまきつけられていた。
首輪だった。
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