四十路の元側近は王だった夫と息子に翻弄される

彩月野生

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新たな一歩と惚気る二人

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 大臣の計らいによって、シルヴィオは無事に国を治める者として認められる事となり、その伴侶であるアダルも側近の立場を取り戻す事ができた。
 民の前で改めて意思を伝えると歓声が上がった。

 晴れの舞台の裏で、例の二人はひっそりと国を抜け出し、彼らの新たな人生が始まったのだった。
 王としての務めを果たすシルヴィオを支える伴侶兼、側近であるアダルは、忙しなく城内を駆け回る日々にどこか懐かしく思い、口元を緩める。

 ――シルヴィオ様や子供達と穏やかに過ごす日々も楽しかったが、こうして国の為に奔走するのも楽しいものだな。

 しばしの間慌ただしかった我が国には、ひっきりなしに同盟国の要人達が来訪しては、シルヴィオと意見を交わす。
 変わらぬ信頼を得る為にも重要な場である。

 あれから子供達とは一度だけゆっくりと過ごす時間が得られたが、それ以降はフェリクスに任せきりで、彼には申し訳ない事ばかりしていた。
 今日はようやく一日時間が空いたので、フェリクスを自由にしてやれそうだ。

 子供達と一緒に過ごせるように大部屋を使って貰っており、その部屋を訪ねると、フェリクスが眠っている子供達を起こすまいと小声で話しかけてくる。
 アダルは歩み寄ると、気の抜けた顔で眠る我が子らに胸があたたかくなるのを感じた。

「迷惑をかけていないか?」
「ぜんぜんです。状況を説明すると大人しくしてくれます」
「そうか。隣の部屋で少し話さないか」
「はい」

 隣の小部屋に移動して、持参した焼き菓子と茶を用意すると、フェリスクはとても喜んでくれてほがらかに笑う。

「僕これすっごく好きなんです! ありがとうございます!」
「そうかそうか。好物だと思っていたから良かった」
「はい!」

 日の光が差し込む穏やかな刻に癒やされる。
 お互いに想い人について語り合うのは安らぎの時間なのだ。
 菓子を一口頬張り静かに咀嚼して飲み込み、茶で喉を潤しつつ、アダルは悩みを打ち明けた。

「今更なのはわかっているのだが」
「はい」
「私は男であり決して若くもなく、美形でもない。そんな私が、シルヴィオ様に娶っていただけたのは奇跡だと思っている」
「……アダルさんて、どうしてそんなに自信がないんですか?」
「ん?」
「アダルさんはとっっっっても美人さんで性格だって尊敬できる素敵な人なんですから、もっと自信もたないとシルヴィオ様に怒られますよ!?」
「お、おお!? いや、前はもう少し容姿には自信があったのだが、身体がだらしなくなってきたし、やはり歳は歳だと」
「歳相応の美しさだってありますし! それに、アダルさんはもう見た目はそれ以上老けないんですよね!?」

 腰を上げてずいっと顔を突き出して語気を強めるフェリクスに圧倒されてしまい、アダルはあやうく茶器を卓上におとしかけて慌てた。
 アダルの気圧されっぷりを気にせずに座り直したフェリクスは、お茶を飲みつつ言葉を続ける。

「シルヴィオ様ならきっと普段からアダルさんを褒めるような言葉をかけていると思うんです。ちゃんと思い出してみてください?」
「褒める……?」
「もしくは何か甘い言葉とか」
「甘い……」

 〝四十路の男のくせに、何故そんなに純粋でかわいいんだ?〟
 〝いつもの俺は、お前をかわいいと思っているぞ〟

「ふぐっ」
「あ、心当たりありますか?」
「いや、これはその……っ」
「いいなあアダルさんは。僕なんてジェイム様が……」

 結局のところフェリクスはジェイムの冷たさに悩んでいた様子で、最後はアダルが励ましの言葉をかけて惚気の会? は幕を閉じた。

 途中で眠くなってしまったフェリクスを寝台に寝かせてやると、子供達の元へ戻る。
 そこには待っていてくれた人がいた。

 銀髪に大きな背中――。

「シルヴィオ様」
「アダルか。やっと時間が取れてな。お前と子供達とゆっくりしようと思ってな」
 
 振り返ったシルヴィオが、その緑の瞳を細めて優しい笑顔を浮かべた。
 アダルの胸がきゅっと切なくしめつけられて、愛しい気持ちが広がっていく。
 そっと歩み寄り呟いた。

「なら……」

 シルヴィオはアダルの提案に乗ってくれて、子供達を真ん中に挟み、抱きしめながら幸せな眠りを親子水入らずで味わった。
 
  
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