上 下
12 / 17

思わぬ事態

しおりを挟む

 翌日、子供達と共に家に戻ったアダルは、シルヴィオにハーヴィンの意思を伝えると、意外な返答が返ってきた。

「アダル、お前がいいと言うなら俺は尊重してやってもいいと思う」
「それは、シルヴィオ様が再び王の座につかれるという意味ですか」
「ああ……」

 シルヴィオの寝室の中心で向かいあって話し合う様子を、扉を隔てた先で聞き耳を立てているであろう男に声をかける。

「シルヴィオ様がこう申されているが、お前はどうなのだ? ジーク!」

 はっきりと呼んでやると扉の向こうから「う」という声がして、そっと開いた隙間から顔を覗かせた。
 戦々恐々とした表情を浮かべてなかなか入ってこようとせず、若干の苛立ちを覚えたアダルは、強引にその腕を掴むと引っ張って部屋に入れる。

 ジークは俯いたが、ほどなくして顔を上げると深々と頭を下げて呟いた。

「けじめをつけさせてくれ」

 その日の午後、アダルはシルヴィオ、ジーク、ハーヴィンと共に城へと赴き、臣下達と話し合う場を設けた。
 予想通りに大荒れとなり、同じ事を繰り返し論じる事態となってしまう。
 大広間にて行った会議は数時間に及び、気付けばすっかり日が傾いていた。
 会議を翻弄しているのはシルヴィオと大臣のけんか腰の話し合いだった。

「――ならば、お二人が今度こそ国をさおめるという確固たる証拠を見せて下さい!!」
「先ほどから承知したと言っているだろう! その方法を教えろとも!」
「ならば儀式を行って下さい!」
「どんな儀式だ!?」
「愛し合うところを見せて下さい!!」

「!?」

 ――今、大臣はなんといった?

 アダルは息を飲み、対峙する二人を椅子から起ち上がって凝視する。
 二人は尚も言い争いを続けており、いつ制止の声をかけようか機会をうかがっていたのだが、とんでもない言葉が聞こえてきてすっかり動揺してしまった。

「それでお前達は納得するというのか!!」
「ええ!! 国民にも代表者を選んで見届けて貰います!!」

「お、お待ちください!!」

 アダルはようやく声をかけられたのだが、二人の会話はすっかり事を進める計画についての話し合いに変わっており、もう誰も入れる隙などなかった。

 長い会議が終わった頃、アダルは頭痛を覚えてあてがわれた部屋で休んでいると、扉を叩く音に顔を上げて呼びかける。

「どなたかな?」
「俺だ、ジークだ」
「どうぞ」
「大丈夫か」

 ハーヴィンは部屋に置いてきたらしい。
 ジークはアダルの座っている寝台の隣に腰掛けると、暗い顔つきでそっと口を開く。

「すまない、俺のせいでこんな事に」
「いや、あれはシルヴィオ様が大臣の挑発に乗ったのが始まりだ。あの場では計画まで話し合ってはいたが、まさか本気で決行するとは思えん」
「でも! それじゃあどうやって大臣や臣下達を説得すれば……」
「シルヴィオ様にお考えはある筈だ。そう焦るな」
「アダル……」

 どうにかジークを落ち着かせて部屋に帰らせると、アダルは静かにシルヴィオを待つ。
 
 ――シルヴィオ様はきっと他に何か案がある筈だ。

 アダルの考えもまとめて結論は出せたので、後はお互いに納得がいくまでとことん話し合って、もう一度大臣を説得するだけだ。

 しかし、アダルの考えは甘かったと思い知らされる事となる。

「明日俺達の愛し合う姿を、皆に見届けて貰う事になったぞ!!」
「はおっ!?」

 極めて真剣な顔つきでシルヴィオに宣言されて、アダルは素っ頓狂な声をあげて、寝台の上で腰を抜かして身体を震わせた。

 まさかの事態に混乱したまま、時は過ぎていった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

龍神様の住む村

世万江生紬
BL
村一番の腕っぷしを持つ龍平は、龍神退治に向かいました。 本編は2話。後は本編のおまけと季節のお話です。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

処理中です...