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思わぬ事態
しおりを挟む翌日、子供達と共に家に戻ったアダルは、シルヴィオにハーヴィンの意思を伝えると、意外な返答が返ってきた。
「アダル、お前がいいと言うなら俺は尊重してやってもいいと思う」
「それは、シルヴィオ様が再び王の座につかれるという意味ですか」
「ああ……」
シルヴィオの寝室の中心で向かいあって話し合う様子を、扉を隔てた先で聞き耳を立てているであろう男に声をかける。
「シルヴィオ様がこう申されているが、お前はどうなのだ? ジーク!」
はっきりと呼んでやると扉の向こうから「う」という声がして、そっと開いた隙間から顔を覗かせた。
戦々恐々とした表情を浮かべてなかなか入ってこようとせず、若干の苛立ちを覚えたアダルは、強引にその腕を掴むと引っ張って部屋に入れる。
ジークは俯いたが、ほどなくして顔を上げると深々と頭を下げて呟いた。
「けじめをつけさせてくれ」
その日の午後、アダルはシルヴィオ、ジーク、ハーヴィンと共に城へと赴き、臣下達と話し合う場を設けた。
予想通りに大荒れとなり、同じ事を繰り返し論じる事態となってしまう。
大広間にて行った会議は数時間に及び、気付けばすっかり日が傾いていた。
会議を翻弄しているのはシルヴィオと大臣のけんか腰の話し合いだった。
「――ならば、お二人が今度こそ国をさおめるという確固たる証拠を見せて下さい!!」
「先ほどから承知したと言っているだろう! その方法を教えろとも!」
「ならば儀式を行って下さい!」
「どんな儀式だ!?」
「愛し合うところを見せて下さい!!」
「!?」
――今、大臣はなんといった?
アダルは息を飲み、対峙する二人を椅子から起ち上がって凝視する。
二人は尚も言い争いを続けており、いつ制止の声をかけようか機会をうかがっていたのだが、とんでもない言葉が聞こえてきてすっかり動揺してしまった。
「それでお前達は納得するというのか!!」
「ええ!! 国民にも代表者を選んで見届けて貰います!!」
「お、お待ちください!!」
アダルはようやく声をかけられたのだが、二人の会話はすっかり事を進める計画についての話し合いに変わっており、もう誰も入れる隙などなかった。
長い会議が終わった頃、アダルは頭痛を覚えてあてがわれた部屋で休んでいると、扉を叩く音に顔を上げて呼びかける。
「どなたかな?」
「俺だ、ジークだ」
「どうぞ」
「大丈夫か」
ハーヴィンは部屋に置いてきたらしい。
ジークはアダルの座っている寝台の隣に腰掛けると、暗い顔つきでそっと口を開く。
「すまない、俺のせいでこんな事に」
「いや、あれはシルヴィオ様が大臣の挑発に乗ったのが始まりだ。あの場では計画まで話し合ってはいたが、まさか本気で決行するとは思えん」
「でも! それじゃあどうやって大臣や臣下達を説得すれば……」
「シルヴィオ様にお考えはある筈だ。そう焦るな」
「アダル……」
どうにかジークを落ち着かせて部屋に帰らせると、アダルは静かにシルヴィオを待つ。
――シルヴィオ様はきっと他に何か案がある筈だ。
アダルの考えもまとめて結論は出せたので、後はお互いに納得がいくまでとことん話し合って、もう一度大臣を説得するだけだ。
しかし、アダルの考えは甘かったと思い知らされる事となる。
「明日俺達の愛し合う姿を、皆に見届けて貰う事になったぞ!!」
「はおっ!?」
極めて真剣な顔つきでシルヴィオに宣言されて、アダルは素っ頓狂な声をあげて、寝台の上で腰を抜かして身体を震わせた。
まさかの事態に混乱したまま、時は過ぎていった。
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