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男の望み
しおりを挟むルアとルシオは父と母の後を追って、王都から離れてある街にやって来ていた。
ルシオの能力で両親の気を辿った結果、この場所に辿り着いた。
すぐにあの大きな屋敷が気になって、ルシオはルアの手を取り、その窓へとそっと近づく。
覗き込むと、ソファの上で男が項垂れているのが見えた。
ルシオがルアに小声で話しかけてくる。
(兄上、あの男の人頭が痛いのでしょうか)
(いや、たぶん落ち込んでるんだ)
(なんでかな?)
(さあ?)
ふいに男が顔を上げるので目があってしまい、慌てて頭を引っ込めたが遅かった。
窓の外を覗き込んだ男に声を掛けられる。
「君たちは? 街の子じゃないよね?」
「……あ、あの」
「ルシオ、喋るな。俺がおっさんに聞くから」
ルアは男に両親について率直に訪ねた。
男は窓を開けると両親の特徴を繰り返し聞いてくるので、詳しく説明してみると、驚いたようにルアの肩を掴んで大声を張り上げる。
「ま、まさか君たちの父さんは、あのシルヴィオ様なのか!?」
「え、確かにシルヴィオっていうけど?」
「だ、だったら城へ連れて行ってくれないか!? 新しい王様に会いたいんだ!」
男の剣幕に怖いものを感じたが、その必死さは放って置けず、ルアはルシオに話した後、男を城へと連れて行く事にした。
男はハーヴィンと名乗った。
新王のジークとは知り合いで、ずっと会いたいと思っていたのだと、興奮した様子で喋り続けていた。
やがて城へ着くと、ルアの力で王間へと三人で入り込む。
玉座に座ってぼんやりしていた新王ジークが、突然出現した三人を見て、目を丸くすると勢いよく立ち上がって駆け寄ってくる。
「お、お前は! ハーヴィン!?」
「ジーク! 久しぶりだな!」
「ど、どうして?」
「おっさんがどうしても会いたいってうるさくてさあ~」
「あにうえ~、やっぱりダメだよお~」
ルシオがルアの袖を引っ張って泣きそうな声を出す。
ルアがルシオの頭を撫でて宥めている間に、二人が話し合い、その大声が玉座に響きわたった。
「あの時は本当に悪かった! あれからいろんな事があったんだ」
「……ハーヴィン、今更そんな事を言いに来たのか!? 俺が、どんな思いをしたのかも知らずに……」
「ジーク……! ごめんな、ごめん……!」
ハーヴィンに抱きしめられたジークは、瞳を閉じて身体を震わせている。
ハーヴィンは必死に謝り、ジークの背中をさすったり額に口づけをして困った様子だった。
それから暫く話し合っている二人の声を聞いていると、眠気に襲われてしまい、ルアもルシオもいつの間にか眠ってしまった。
「ん、うう」
目を覚ましたルアは、肩に重さを感じて隣を見る。
ルシオの寝顔がすぐ傍にあって、自分たちがソファに寝かされているのだと知って、見回すと、ジークとあの男が抱きしめ合っているのが見えた。
ふとジークと視線があうと、ルアとルシオの目の前までやって来て、微笑みかけてくる。
「お願いがあるんだ」
「何?」
「私を、父上と母上の元へ連れて行ってくれないか?」
ルシオがルアにくっついてまたも泣きそうになっているが、ルアは頷いた。
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