四十路の元側近は王だった夫と息子に翻弄される

彩月野生

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貴方には適わない

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再び王間へと足を踏み入れたシルヴィオの後ろで、アダルは静かに佇んでいた。
二人の来訪に戸惑いを隠せない様子のジークが、視線を彷徨わせて表情を曇らせる。

無理もない、とアダルは思う。自分の勝手な申し出に、よく考える時間もなかっただろう。

シルヴィオが進み出て、ジークに声をかける。

「覚悟は決めたのか?」
「……本当に、いいのか? アダル」
「はい」

頷いてもジークはまた瞳を伏せて困惑している様なので、仕方なくはっきりと伝える事にした。

玉座の前で三人向かい合って言葉を交わす。

「貴方の心を支えるのが、シルヴィオ様との子供であるというのであれば、この国の為になるのです」
「しかし」
「アダルもう一度聞くぞ」
「はい?」

アダルの思いを受け入れてくれたと思っていたのだが、シルヴィオは渋い顔つきをして睨みつけてくる。
またこんな目を向けられると、声を発するのが怖くなってしまう。

険しい顔を変えないまま、シルヴィオが改めて問うてくる。

「俺とジークが子を設ける事を、お前は本当に望んでいるのか」
「は、はい」

――そう、話た筈だ。

それなのに、何故またこの場で問いかけてくるのだろう。
シルヴィオの思考が読めない。まるで靄がかかっているようだ。

――靄?

何か引っかかるが、言葉にできず……喉が詰まった感覚に戸惑いを隠せない。

「なら、どうしてそんな顔をするんだ」
「?」

突然頬に手を添えられたかと思うと――パチンっと音が響く。

「え?」

シルヴィオに頬を平手打ちされたと気付いた時、頬が若干の痛みを訴える。
そっと殴られた頬に手を添えると、痛みはほぼ引いているのが分かり、手加減をされていたのだと知る。

「いい加減にしろ」
「……お、おいシルヴィオ」

ジークの狼狽えっぷりを見ると、アダルの感情は逆に冷静になっていく。
ため息をついたシルヴィオが腕を組むと、呆れたというように、ため息を吐かれる。

「シルヴィオ様?」
「お前はまだ側近気質が抜けきっていないようだ」
「そ、側近気質、ですか?」
「いや……もともとの性格だな」

どうやら怒らせてしまったようだ。
アダルは、自分の悪い所を出してしまったのかも知れないと、内省した。

―しかし、新王をどうすれば安心させる事ができるのか。

シルヴィオがジークと何事か話始めるが、頭に入ってこない。
今のアダルの脳内では、今後の国の状況についての想像が巡っている。

突然の王の交代によって、同盟国の信頼が揺るがないように、外交を有利に進めなければならないのだ。
戦に繋がるような火種を作ってはいけない。

「とにかく、俺はあいつ以外を抱くつもりはない」
「!」

唐突に耳に入った大きな声に、頬が熱くなる。
シルヴィオと視線があって、恥ずかしさをごまかす為に咄嗟に咳払いをした。

「……もう、が抜けてますよ?」
「む?」
「む、昔は好き勝手されてましたし」
「……」

しばしの沈黙の後、ジークが項垂れたような声を上げて、玉座に腰を落ち着けた。

「もういい、疲れた」
「陛下」
「……いっそ、あいつに会いにいけば、吹っ切れるのかな」

自分を裏切った幼なじみは、今頃は愛する女と幸せな家庭を築いているのだろう。
そんな話をぼそぼそと呟くと、口を閉じて、暫く一人にして欲しいと奥の部屋に引きこもってしまった。

――完全に余計な真似をしてしまった。

「ジークを裏切った男について知りたいか?」

落ち込んだアダルの背中に、シルヴィオの冷静な声がかけられて振り返ると、手を差し伸べられたので、握り返した。



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