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痛む心を隠して
しおりを挟む「貴方に何があったのかを聞きました」
包み隠さずシルヴィオから聞いた話を伝えると、ジークは口元を緩めてため息をつく。
「あいつ、おしゃべりな奴だな」
手招くジークに着いていくと、王間の奥の部屋に案内された。
ジークが個人的に使用している部屋らしい。
シルヴィオが使っていた記憶はないが、部屋が存在していた事実は知っていた。
ジークは窓際のソファに腰を落ち着けて、景色を眺めつつ淡々と言葉を紡ぎ始めた。
「俺は幼い頃から王族の血を引いていると言われて育ってな……いつかこの国を魔族から取り戻してやろうって思ってたんだ」
アダルは彼の前に進み出てその顔を見据える。
その目が寂しさに満ちており、今にも滴を零しそうに細められているのが気になった。
ジークの不穏な思惑を打ち消したのが、幼なじみの男性だったらしい。いつの間にか両思いとなり、愛し合っていたというのだが、それはジークの思い込みであり、ある日突然姿を消してしまい途方に暮れたという。
それから女と出て行ったと噂を耳にして、自棄になり自堕落的な日々を過ごしていた時、シルヴィオの〝王の座を人間に返す〟という宣言を聞いて、命を絶ってしまおうと思い至った。
刃で首元を斬りつけた時、偶然シルヴィオが訪ねてきて咄嗟に治療をしてくれたおかげで、命を取り留めたのだという。
その際に、シルヴィオにすがりついて泣いてしまった事を、悔いているとも話した。
いつシルヴィオがジークを訪ねたのかは知らなかったが、王族の血を引く彼らの事を、側近として認識はしていたので、さほど衝撃を受ける事もなく傾聴できる。
ソファの上で膝を抱えて震える新王の肩に両手を置くと、その頭に顎を乗せて抱きしめた。
その細い身体が一瞬震えたが、すぐに大人しくなり、アダルに身を寄せてゆっくりと息を吐く。
ジークから身を離すと子供のような顔を向けられて、頬を緩める。
「陛下」
「なんだ?」
「もしも、シルヴィオ様が貴方の心根を支える大切な存在であるというのであれば……子をもうけられて下さい」
ジークが目を大きく開いて息を飲んだ。
「……本気、か?」
「はい」
アダルは深く頷くと、シルヴィオにも伝えるので少しだけ時間をくれるように話す。ジークは複雑な表情を浮かべて頷いた。
早速自宅に帰ると、シルヴィオが出迎えてくれた。
子供達はもう寝かしつけてくれたというので、ちょうど良いと思い、腰を落ち着ける前に伝える事にする。
「陛下とお話をしました」
「ああ」
「シルヴィオ様、貴方はきっとお怒りになると思いますが……」
「なんだ?」
一呼吸置いて、そっと口を開いた。翡翠の瞳をまっすぐに見据えてはっきりと言葉にする。
「ジーク様と、子を設けて下さい」
そう伝えると、シルヴィオはその目に怒りを滲ませているかのように、双眸を細めてアダルを睨みつけた。
久しぶりにこんなに厳しい目を向けられて、心臓が早鐘を打つ。
――だが、引くわけにはいかん。
これは、国の為でもあるのだと付け加えるが、シルヴィオは押し黙ったままで腕を組み、考え込んでしまう。
しばしの沈黙の後、ようやく口を開いたシルヴィオが頷いた。
「わかった。ジークに会いに行く」
「……ありがとうございます」
アダルは深々と頭を垂れて、唇を噛むのを見せないように気をつけた。
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