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知らなければならない事
しおりを挟むため息を吐いたシルヴィオがアダルの頭を優しく撫でた。
顔をゆるく振ると強い口調で言い放つ。
「断じて何もない」
「私もそう信じたいです、しかし貴方は……以前は好き勝手に寝室に連れ込んでましたよね……」
「……」
図星であろう。かつで王であったシルヴィオの側近であったアダルは、シルヴィオが男女問わず、気に入った相手と床入りをしていたのは知っている。
シルヴィオに恋慕をしていたアダルは、当然やきもきさせられたし、伴侶となった今はなかった事になど到底できない。
肩を抱かれて引き寄せられ、身を寄せ合う。
シルヴィオの肉体の感触と温もりを感じて、頬がゆるむ。
視線を宙へと漂わせ、新王の真意を確かめようと疑問をぶつける。
「陛下は何故、シルヴィオ様と子供を望んだのですか」
「……あいつは、人間不信でな。王族の血も薄い。魔族の俺の血を王家に残したいようだ」
「それは、シルヴィオ様を好いているのでは?」
「そんな筈はない」
「何故ですか?」
断言するのも不思議に思う。
アダルにちょっかいを出したのを考えれば、奔放な性格なのかも知れないが、シルヴィオを見るジークの目は情熱的だったからだ。
「奴は、愛する者に裏切られてな」
「え!?」
一体どういう意味なのだろうか。
詳細を聞いても問題ないのか……話が長くなりそうなので、茶を煎れる事にする。
子供達はフェリクスが面倒をみているようだが、また暴れていないか心配だったが、この機会を逃してはならないと感じた。
卓に向かいあって座り、お茶をすすりながらシルヴィオの話に耳を傾ける。
愛し合っていた幼なじみに捨てられて、自暴自棄になっていた所にちょうどシルヴィオが訪ねたので、事情を知ったのだと。
精神的に不安定な時に、王として国を治めるよう話を持ちかけたので、シルヴィオに依存気味だという。
なかなか帰ってこれなかったのも、ジークの精神が落ち着かないせいだったのだと。
――だからと言って、伴侶のいる相手との子供を欲するなんて。
新王の性格には問題がある。民が知ったら不安になり、反対されるのではないだろうか。
そんな懸念が容易に想像できる――シルヴィオも困り果てた様子だ。
アダルはある強い衝動に駆られて、気付けば言葉にしていた。
「私と新王様の二人きりで、話し合う機会を頂けませんか」
「……なに? 本気か」
アダルの頑固さを知っているシルヴィオは、一度はやめるようにと言葉をかけてきたが、すぐに考えを改めて無茶をするなと苦言を呈して認めてくれた。
こうしてアダルは再び、城へと向かう事となる。
*
「また来たの? 存外暇なんだね?」
「突然の来訪、申し訳ございません」
深々と頭を垂れて王に挨拶をすると、王は臣下達を下がらせて王間にて二人きりとなった。
玉座から降りたジークがアダルの前に歩いてくると、顔を上げるように促す。
素直に顔を上げたアダルの頬に手を添えられる。
ひやりとした指で思わず手を握り返すと、目を丸くして驚いたような表情を見せた。
子供っぽい態度に笑ってしまいそうなのをこらえ、真剣な気持ちで話を切り出す。
「シルヴィオ様との子供をもうけたいとおっしゃられていた件について……お話を伺いたいのです」
ジークは訝しむように眉根を寄せた。
二人の間に沈黙が流れた。
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