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第二章<歪む世界と闇の国の王の執着>
【第二章完結】自分を愛してくれた人達に何ができるのか
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グレゴールがゲルトラウトから魔力を奪い、闇の国の支配者となって一月後。
王都には各種族の重鎮が集結していた。
俺は王の伴侶として同席していたが、隙をついて城を抜け出すと、ある場所を目指す為に海へと続く道を走って行く。
城では今もグレゴールとロベルト王子、エルフ王が、この世界の命運をかけた会議に熱中している筈だ。
そこにはゲルトラウトの姿はない。
魔力を奪われた彼は、心身のバランスを崩してしまい、寝込んでしまっていた。
この状況は異常だ。
新しく闇の王になったグレゴールの俺への執着は激しくて、自由に動くのを許してくれない。
城を抜け出したのは奇跡的な事なのだ。
港町についた頃には足がすっかり棒になっていた。
ちょうど船が出航の準備を始めているので、船員に声をかける。
ルランに連れて行ってもらいたいと懇願すると、渋々ながらも、初老の船長は承諾しくれてたので乗り込めた。
島が近づくにつれて、その全貌がはっきりと視界に映って口を開けて顔を上げる。
島の端から端まで、巨大な鉄の建物がみっちりと詰まるように建造されていた。
接岸してもらって少しの間待ってて貰いたい旨を伝えたけど、逃げるように漕いで離れてしまう。
「おいおい~」
まあ、仕方ないか。監獄島なんて誰も近づきたくないもんな。
それにしても、番人の姿がない。
ここには囚人達が捕らわれているのではないのだろうか。
足を進めて建物の入り口へと辿り着き、天をつくような鉄の扉に手を当てて押してみるが、やっぱりびくともしなかった。
「まいったなあ」
巨大すぎる扉を見上げると、首が痛くなってくるな。
こうなったら、誰かいないか探し回ってみるしかない。
番人がいる可能性はまだある。
踵を返して歩き出した時、背後から気配を感じて「にゃおき~!」とう叫び声と共に飛びつかれて地面に膝をついた。
「うわあ!」
「ひさしぶりだにゃああ~」
「あれ、リフ!」
すりすり密着してくる、白いふわふわ髪の猫耳っ子を両手で持ち上げて抱きしめると、嬉しそうに鳴いた。
「にゃあん♡ にゃおきとまたあえて嬉しいにゃあ」
「俺もだよ、えっとどうしてここに?」
「ご主人様を見つけたにゃ」
「神様を?」
「この間夢に出てきてくれて、ここにいるって」
「やっぱりこの建物の中に」
しかし、こんな巨大な扉どうやって開けたのだろう。
リフに訪ねると「簡単にゃ」と言ってのけて、両手をかざして「開いてにゃ」と叫んだ。
同時に重苦しい音を立てて、扉が内側にゆっくりと開いてく。
「え~!?」
これには驚いた。
バカみたいに声を上げる事しかできない。
リフに促されて内部へと進んで行と、中はとてもヒヤッとしていて、クリスタルで覆い尽くされていた。
部屋の中心にクリスタルの柱が鎮座しており、中に人がいるのが透けて見えている。
「神様!」
その前に走っていって様子を伺うと、胸が上下しているのでひとます安心した。
リフに聞くと、神様とは心の中で会話できており、間もなく目を覚ますらしい。
俺も心の中で神様に問いかけてみる。
――神様、俺です。ナオキです。
祈りを込めてクリスタルに身を寄せた。
キスをしてひたすら神様に語りかける。
リフが俺にひっついて、心配そうに鳴いているのが聞こえた。
――大丈夫、きっと神様は目を覚ましてくれる!
どれくらいそうしていただろう。
パキパキと何かが割れる音が耳に届いて、そっと目を開いてみた。
「あ」
見れば、クリスタルにヒビが入って縦に横に広がっていく。
やがて中心に大きな亀裂が入り、そのタイミングでリフを抱えてさっと後退した。
とうとうクリスタルが破裂して、中から神様が現れる。
まるで風に舞うように優雅な動作で、地に足をつけた。
「……神様?」
呼びかけると、金髪の綺麗な人は微笑みを浮かべた。
「ナオキ」
「神様!」
両手を広げる姿に俺の胸は震えて、自然に抱きついていた。
神様の身体は冷たくて、生命を感じさせない。
それでも心臓の脈打つのが聞こえて、生きているのだと実感させた。
視線が絡んで神様は全て知っているのだと思った。
「ご主人様~♡」
「リフ、つらい思いをさせたね」
「うにゃあ~」
身を寄せている俺達の上から、ひっついてきたリフの耳としっぽがくすぐったくてつい笑ってしまう。
〝アルヌルフ……〟
俺の中に入っていた邪神アウグスが、神様の元へすうっと取り込まれていく。
神様はそれを受け止めて、深く息を吸い込むと口元を緩めた。
「良かった。もうアウグスは負の存在ではない」
「それって?」
「ナオキのおかげだよ」
神様の細くて長い指が、俺の頬をなぞる。
ひやりと冷たくて肌がぞわっとした。
決して嫌じゃない。その手の甲の上から、手の平を重ねると、びくりと神様が震える。
暗い目を向けられて俺は口角を上げて見せた。
「ナオキ、もう分かっていると思うが」
「はい。神様が、リフを使って俺を……」
「にゃに?」
リフは分かってないみたいだ。
この場では詳しく話さない方が良いだろう。
俺は、心の中で神様に自分を愛してくれた人達に、どうすればいいのかと問いかけた。
返ってきた神様の答えは、とてもシンプルなものだった。
王都には各種族の重鎮が集結していた。
俺は王の伴侶として同席していたが、隙をついて城を抜け出すと、ある場所を目指す為に海へと続く道を走って行く。
城では今もグレゴールとロベルト王子、エルフ王が、この世界の命運をかけた会議に熱中している筈だ。
そこにはゲルトラウトの姿はない。
魔力を奪われた彼は、心身のバランスを崩してしまい、寝込んでしまっていた。
この状況は異常だ。
新しく闇の王になったグレゴールの俺への執着は激しくて、自由に動くのを許してくれない。
城を抜け出したのは奇跡的な事なのだ。
港町についた頃には足がすっかり棒になっていた。
ちょうど船が出航の準備を始めているので、船員に声をかける。
ルランに連れて行ってもらいたいと懇願すると、渋々ながらも、初老の船長は承諾しくれてたので乗り込めた。
島が近づくにつれて、その全貌がはっきりと視界に映って口を開けて顔を上げる。
島の端から端まで、巨大な鉄の建物がみっちりと詰まるように建造されていた。
接岸してもらって少しの間待ってて貰いたい旨を伝えたけど、逃げるように漕いで離れてしまう。
「おいおい~」
まあ、仕方ないか。監獄島なんて誰も近づきたくないもんな。
それにしても、番人の姿がない。
ここには囚人達が捕らわれているのではないのだろうか。
足を進めて建物の入り口へと辿り着き、天をつくような鉄の扉に手を当てて押してみるが、やっぱりびくともしなかった。
「まいったなあ」
巨大すぎる扉を見上げると、首が痛くなってくるな。
こうなったら、誰かいないか探し回ってみるしかない。
番人がいる可能性はまだある。
踵を返して歩き出した時、背後から気配を感じて「にゃおき~!」とう叫び声と共に飛びつかれて地面に膝をついた。
「うわあ!」
「ひさしぶりだにゃああ~」
「あれ、リフ!」
すりすり密着してくる、白いふわふわ髪の猫耳っ子を両手で持ち上げて抱きしめると、嬉しそうに鳴いた。
「にゃあん♡ にゃおきとまたあえて嬉しいにゃあ」
「俺もだよ、えっとどうしてここに?」
「ご主人様を見つけたにゃ」
「神様を?」
「この間夢に出てきてくれて、ここにいるって」
「やっぱりこの建物の中に」
しかし、こんな巨大な扉どうやって開けたのだろう。
リフに訪ねると「簡単にゃ」と言ってのけて、両手をかざして「開いてにゃ」と叫んだ。
同時に重苦しい音を立てて、扉が内側にゆっくりと開いてく。
「え~!?」
これには驚いた。
バカみたいに声を上げる事しかできない。
リフに促されて内部へと進んで行と、中はとてもヒヤッとしていて、クリスタルで覆い尽くされていた。
部屋の中心にクリスタルの柱が鎮座しており、中に人がいるのが透けて見えている。
「神様!」
その前に走っていって様子を伺うと、胸が上下しているのでひとます安心した。
リフに聞くと、神様とは心の中で会話できており、間もなく目を覚ますらしい。
俺も心の中で神様に問いかけてみる。
――神様、俺です。ナオキです。
祈りを込めてクリスタルに身を寄せた。
キスをしてひたすら神様に語りかける。
リフが俺にひっついて、心配そうに鳴いているのが聞こえた。
――大丈夫、きっと神様は目を覚ましてくれる!
どれくらいそうしていただろう。
パキパキと何かが割れる音が耳に届いて、そっと目を開いてみた。
「あ」
見れば、クリスタルにヒビが入って縦に横に広がっていく。
やがて中心に大きな亀裂が入り、そのタイミングでリフを抱えてさっと後退した。
とうとうクリスタルが破裂して、中から神様が現れる。
まるで風に舞うように優雅な動作で、地に足をつけた。
「……神様?」
呼びかけると、金髪の綺麗な人は微笑みを浮かべた。
「ナオキ」
「神様!」
両手を広げる姿に俺の胸は震えて、自然に抱きついていた。
神様の身体は冷たくて、生命を感じさせない。
それでも心臓の脈打つのが聞こえて、生きているのだと実感させた。
視線が絡んで神様は全て知っているのだと思った。
「ご主人様~♡」
「リフ、つらい思いをさせたね」
「うにゃあ~」
身を寄せている俺達の上から、ひっついてきたリフの耳としっぽがくすぐったくてつい笑ってしまう。
〝アルヌルフ……〟
俺の中に入っていた邪神アウグスが、神様の元へすうっと取り込まれていく。
神様はそれを受け止めて、深く息を吸い込むと口元を緩めた。
「良かった。もうアウグスは負の存在ではない」
「それって?」
「ナオキのおかげだよ」
神様の細くて長い指が、俺の頬をなぞる。
ひやりと冷たくて肌がぞわっとした。
決して嫌じゃない。その手の甲の上から、手の平を重ねると、びくりと神様が震える。
暗い目を向けられて俺は口角を上げて見せた。
「ナオキ、もう分かっていると思うが」
「はい。神様が、リフを使って俺を……」
「にゃに?」
リフは分かってないみたいだ。
この場では詳しく話さない方が良いだろう。
俺は、心の中で神様に自分を愛してくれた人達に、どうすればいいのかと問いかけた。
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