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第二章<歪む世界と闇の国の王の執着>

果たさなければならない事

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地下牢へ案内されて、まっすぐに皆が閉じ込められてる檻に駆けて行く。
それぞれグレゴール、ロベルト王子と団長の二手に分けられて閉じ込められていた。
監視役の魔人に、グレゴールの檻に寄るのを止められそうになるが、後ろにいたヴァルターを見て後方へ引いた。

俺は念のため、指輪を外してポケットに隠してから、鉄格子を掴んでグレゴールに声をかける。

「グレゴール!」

呼びかけたグレゴールは、壁にもたれていた身体を身じろいで、顔を上げた。
俺を見ると勢いよく近づいて来て話しかけて来る。

「ナオキ、ナオキ! 大丈夫なのか!?」
「う、うん! グレゴールは?」
「ああ、食事も睡眠もとれてるし問題ないよ」
「良かった。手荒な真似はされてない?」

頷くのを確認して安堵する。
万が一拷問でもされてたらと想像していたので、良かった。
ロベルト王子と団長も、俺に気付いて声を上げているが、元気そうで何よりだ。
それより、グレゴールに伝えなければならない。
俺はゲルトラウトが邪神に乗っ取られた事、皆に呪いをかけた事実を話した。

グレゴールは眉間に皺を寄せて考え込む。
その視線は自分の手首に向けられており、やはり黒い紋が刻まれていた。

「そうか。突然浮かび上がったこの紋は、そういう事か。ナオキもか?」
「え?」

言われて、やっと自分の手首を確認する。
確かに刻まれているのを見て肩を落とす。
俺はあいつの操り人形になったのか。

「ナオキ」
「う、うん」
「邪神の近くにいるナオキだけが今は頼りだ」
「うん、でも」

どうすればいいのかと呟くと、格子の合間から手を差し出されて握られた。
久しぶりのグレゴールの温もりに、なんだか気分が落ち着く。
俺も握り返すと、グレゴールは微笑みを浮かべた。
そうやって笑う姿を見ていたら、安心感が胸の内に広がっていくのが分かる。

「ナオキ、ゲルトラウトが言っていた事をよく思い出してごらん」
「言っていた事を?」
「そう。邪神についてなんて言ってた?」
「え~と……」

脳裏でゲルトラウトの言葉を反芻する。

印象的だったのは、浄化という言葉だ。
浄化っていうのはどうやってするのだろう。

俺はグレゴールに疑問をぶつけてみた。

「浄化、か」
「うん。俺が邪神を浄化できるってどういう意味なのかなって」
「そうだね……単純に考えると、ナオキの体液を飲ませてって思うけど、浄化っていうからには」
「からには?」
「……心かな」
「心?」

手を握ったまま、グレゴールの目を見つめる。
心で浄化? ということは、思い当たる節は一つしかない。

愛するっていうこと?
俺が、邪神を愛すれば浄化できるっていうのか。
ゲルトラウトの姿をしているのが、まだ救いだった。

でも、愛なんて分からない。恋愛だってした事がないんだ。

しかも相手邪神だぞ? 愛するなんて自信ない。

グレゴールが手を放して、首を傾げて微笑む。

「ナオキ?」
「自信ない。だって、俺恋愛したことないし」
「ナオキは一緒にいる人の事をきちんと考えられるから、大丈夫だよ」
「グレゴール……」

全く自信ないけど、今は進むしかない。

ふいに耳を寄せるように指で指示されて、言う通りにする。耳打ちされた話の内容を聞いて、恥ずかしくなるのと同時に、キスをねだられて、唇をそっと重ねた。

視線を交わして頷きあい、グレゴールの牢から離れた。

ロベルト王子と団長を確認すると、体調に問題はないようで良かったけど、ロベルト王子は落ち込んでいる様子だった。

一体化している筈のステン王子は、すでに国に置いてきた肉体に戻っており、ロベルト王子は何もできなかったと声を荒げている。

「ロベルト様、これは仕方のない事なのです」
「何がだ!? 大人しく捕まれって言われて何か策があるのかと思えば、あの生意気なエルフはただ檻の中でじっとしてるだけなんだぞ!」
「ロベルト王子、いいですか」
「?」

俺はロベルト王子に顔を寄せて、耳元に囁いてある事実を伝えた。

それは、グレゴールの聖なる力で、エルフの森の結界は強固され、魔獣はまだ突破できず、人々にはエルフの加護の力が働いており守られているという事だった。

団長には後で、ロベルト王子から説明するようにと付け加える。
目を見開くロベルト王子の表情は、明らかに安堵の気持ちが見て取れた。

ただ、グレゴールの力を発揮できるのは、愛によるものだ。俺は、定期的にここを訪れて、グレゴールにキスをしなければならない。

それが、愛を与えているということに繋がっているかはわからないが、それでいいというのなら、そうするまでだ。

邪神の浄化か……やってみせる。
そう強く決意しなければ、成し遂げられない。
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