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第二章<歪む世界と闇の国の王の執着>

灰色の国

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ゲルトラウトは俺を抱えて、なんとエルフの森から出て行ってしまった。
気付けば、灰色の空が広がっている世界にやって来ていた。

「こ、ここは?」
「俺の国だ」

俺は、ゲルトラウトにお姫様だっこされた状態で周囲を見回す。
民家の建ち並ぶ街の中のようだ。
俺達以外に人影はないと思っていたら、急に目の前に、大きな影が出現して、あっという間に人型になる。
緑肌の巨漢。オークだ。

「うわ!」
「心配するな、側近だ」
「陛下、無事に贄を奪取されたようで何よりです」
「に、え?」

今、なんて言ったこのオーク。
贄って、生け贄って事だよな!?

ゲルトラウトが俺を抱えたまま軽く笑う。

「その言い方には語弊があるんじゃねえのか」
「しかし……」
「待てよ! おまえ、最初っから俺を狙って?」」
「当たり前だ。だいたい初めてお前を襲った時に気付くべきだろうが」
「んな!」
「俺の目的は、お前の奪取と、エルフ共の精霊の力で魔力を回復させる事だったんだ、世界の危機と聞けば、平和主義のエルフ共は協力するだろうし」
「で、でも! 皆で協力して魔獣を倒してお前の国を、神様を助けようっていう話は……」
「……俺の目的を果たすために、利用させてもらったんだよ」
「お前、皆を利用するなんて、なんて事を!」
「あいつら俺が闇の者だって忘れてるんじゃねえの――」

パアンッ!!

俺はゲルトラウトの頬を思い切り平手打ちした。
本当は拳で殴ってやりたい所だが、抱えられているせいで力が入らないので、仕方がない。

荒い息をつく俺を、ゲルトラウトの瞳が静かに見据える。
俺は怒っているのと同時にショックを受けていた。
どうしてなのかは、理由がはっきりと思い浮かばないけど。

「貴様、闇の王を平手打ちするとはいい度胸だなあガキが」
「ガキじゃない、俺を皆のところに返せ! グレゴールの所に!」
「聖者のところ?」
「そ、そうだよ」

グレゴールの名前を聞いた途端、殺気を放つのを感じて息を飲んだ。
その口の端は、ゆっくりとつり上がっていく。
俺はその瞬間、ゲルトラウトの強い感情を悟り、口を閉じた。


そのまま城へ連れて行かれて、風呂場に放り込まれた。
すっかり忘れてたけど、俺もあいつも素っ裸だった。

「綺麗にしたら王間へ来い。陛下が待っている」
「はあ」

ため息に似た返事を返すと、側近はドシドシと足音を響かせて去って行く。
それにしても、だだっぴろい風呂場だ。
ふいに前世の記憶が蘇り、映像で見た異国の大浴場に似ているなと感じる。
身体を洗った後、そっと湯に足をつけると、熱すぎて豆粒のようにとけてしまいそうだ。

ちょうどいい湯加減の場所を探し当てて、ゆっくりと肩まで浸かる。
こうしていると、自分が何者で今どこにいるのか分からなくなるし、どうでも良くなってくるな。

つかの間の現実逃避を堪能して、風呂から上がると、脱衣所に衣服が用意されていた。
広げてみると、白生地のローブだった。
袖を通してみたら、肌触りがなめらかで上質な生地なのだと実感する。

迎えに来た側近に最上階にある王間に案内されて、巨大な扉の向こうへ足を踏み入れると、そこは別世界だった。
天井からはまるで針のような水晶が、地上へ向けて無数に突き出ている。
天井が高すぎてなんだか星のようにも見えた。
前に向き直ると、玉座には王らしい衣装を身に纏ったゲルトラウトが、腰を落ち着けている。
俺を見てにやにやしていた。

なんとなく両腕で胸部分を覆ったが、側近に背中を小突かれて「挨拶をしろ」と耳打ちされる。

やってられるかっていう気持ちだが、渋々従う。
ここはあいつの国だもんな。

跪き、頭を垂れた。

「ただいま参りました」
「うむ。傍に来い」
「……」

王の命令だ、しかたない。
傍に寄ると腰に腕を回されて、胸元に顔をこすりつけられた。
くすぐったさとその体温の熱さに戸惑って声を上げる。

「ちょ、ゲルトラウト!」
「大人しくしてろ」
「う……」

それきりゲルトラウトは黙ってしまい、なんとなくその頭を撫でてやった。

結局ゲルトラウトとは会話はできず、俺は与えられた一階の部屋のベッドで、仰向けに倒れ込んで天井を見つめていた。

頭の中がごちゃごちゃだ。
答えの出ない疑問まみれで、それだけで精神が疲労する。

さっきのゲルトラウト、なんか疲れてたなあ。
子供みたいだったし。

なんか、喉が乾いたな。
部屋に来る前に水をがぶ飲みさせてもらったけど、まだ足りない。
ベッドの上で上半身だけ起き上がり、部屋の中を探る。
窓際の鏡台の前に、水入りの瓶が置いてあるのを見つけて、ベッドから這い出た。
どうしてこんな所に水を……。
考えてみれば使っていなかった部屋なら、この水、いつのだろう。

「ん?」

ふと目の前の鏡を覗き込む。
そこには紛れもなくナオキ=エーベルが存在している。茶色の髪に焦げ茶のちょっと大きめの瞳。
整った顔立ちとは言えるが、特に可愛いだとか綺麗だとか、はっきりと形容できるような容姿ではない。

彼らは、俺が異世界の魂を持つ特別な存在だから、欲しがるのだ。

だって、そうだろう? グレゴールもゲルトラウトも。
ロベルト王子もステン王子も。

なんでこんなに考えこんでるんだ、俺、それよりゲルトラウトから早く神様について聞き出さないと。

「にゃおき~」

え? 今、何か聞こえなかったか?
俺は鏡台の前の椅子から立ち上がって周囲を確認する。

異変はすぐに分かった。

部屋の窓の外から、ちょこんと飛び出ていたのだ。
それは獣の耳だった。


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