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第一章<新しい世界と聖者の想い>
騎士団長の嫉妬
しおりを挟む「楽にしていいぞ」
「はっ」
騎士団長アンドリューは跪き、ロベルト王子の命令で顔を上げる。
黒髪黒目の日に焼けた体格のいい人だ。
腕の筋肉が盛り上がってて俺の倍はある。
ゲルトラウトよりも筋肉質で、体育会系って感じだな。
まあ、この世界でそんな概念はないか。
「調子はどうだアンドリュー」
「はっ、問題ございません」
「うむ。早速だが、騎士団を引き連れて闇の国へと向かってもらいたい」
「闇の国、ですか」
「ああ。エルフ王からの直々の依頼だ。詳しくはのちほど……」
「ならば今夜、私の腕の中で説明して頂きたい」
「ふあ!?」
やばい! 変な声出しちゃった!
俺は両手で口を塞ぐが、グレゴールに小突かれて反省する。
だって、あいつ今なんて言ったんだ!?
ロベルト王子が、険しい顔つきで騎士団長を睨み着けて玉座から立ち上がる。
「貴様、誰に向かって言っている!? 無礼だぞ!」
「私というものがいながら、異世界の魂などにうつつを抜かすとは……婚姻をすると聞きましたぞ」
「そ、それは」
「貴方が悪いんですよ、騎士団長」
「え?」
俺はステン王子が、騎士団長の前に進み出るのを見守った。
「貴方が兄上を愛していると素直に認めないから、ナオキに助けを求めたんです」
「す、ステンなにを言い出すんだ」
「兄上、ナオキのところへ」
「なに?」
弟のいうことを聞いて、兄が俺の元へ駆け寄ってきた。
一緒にこの状況を見守る。
ステン王子の真剣な目と威圧的な態度に、騎士団長も気圧されている様子だ。
「僕たちの両親の死の秘密を盾に、兄上の気持ちを利用して無理矢理犯した癖に、貴方は兄上に惹かれて愛してしまった……」
「何をおっしゃられているのでしょうか」
「貴方に、兄上とナオキが愛し合っているところを見て貰います」
「な、なんですと? どういう事です!?」
俺は、騎士団長と同じ問いかけをロベルト王子に聞いていた。
「え、ロベルト王子これってどういう事なんです!?」
「わ、わからない。ステンの考えを一方的に話しているだけだ」
「……あの~、この茶番いつまで続けるつもりなんですかねえ~時間ないんですけどお~」
いよいよグレゴールがキレそうで声が低い。
それに妙な光が身体から出現してて怖い。
そんな不穏な空気を醸し出す自分を、聖者とのたまうエルフには目もくれず、ステン王子は勝手に話を進めてしまう。
「準備を整えたら呼びますから、兄の部屋に来て下さい」
結局、俺はロベルト王子との公開セックスをさせられる羽目になった。
この状況を頭で整理しよう。
「つまり、ロベルト王子は騎士団長の事が好きなんですね?」
「い、いや、そんなことは」
「俺と結婚したいっていうのは、嘘なんですよね?」
「そうじゃない!」
「兄上はお母様の魂のニオイをナオキに求めただけ」
ステン王子が、愉しそうに笑っている。
その病んだ笑顔、とっても怖い。
「本当は僕と同じ理由でナオキを欲しがってたのに、バカだよね」
「ステン、お前……!」
「あの契約書は、僕があらかじめ無効になるように細工しておいたよ?」
「は!?」
「ナオキを独り占めするの許せないから」
盛り上がる二人を見守っていたらなんだか疲れてきた。
これって、二人は俺に母親と同じ愛情を求めてるって事なのだろうか?
どう接すればいいのか困るんだけどなあ。
……やばい、ちょっと尿意が……。
俺はそっと部屋を抜け出して、お手洗いを探して歩き回った。
どうせならまた隔離されたグレゴールのところに助けを求めようかなと思っていたが、違和感に足を止める。
「兵士がどこにもいない?」
必ず見張り役はいるはずなのに、ロベルト王子の部屋の前にもいなかった。
「ナオキ=エーベル、出て行って貰おうか」
「!」
背後から殺気を感じてそっと振り返る。
その瞬間、切っ先を喉元につきつけられていた。
「団長?」
「これ以上、ロベルト様を惑わす輩を放っておくわけにはいかん!」
「え、えっと」
どうしよう、まさか俺を殺すつもりなのか!?
一歩ずつ後ずさると団長も前に進み出る。
助けを求めても人の気配もない、絶望的だ。
「世界の危機だ、闇の国へはいってやるが、お前はいらん! この場から去らないというのであれば、このまま首を斬ってやる!」
「ま、待ってくれ……!」
こいつ、まさか嫉妬で俺を殺したくて仕方ないって言うのか! こんな奴が騎士団長だなんてあり得ないだろ!
魔獣と戦った事はあるけど、人から剣をつきつけられるなんて初めてだ。
足が震えてくる。
――ここで、死ぬわけにはいかない!
「ぐ、グレゴール」
思わず呟いた時――突然身体が宙に浮いて悲鳴を上げてしまう。
「うわあ!?」
「ナオキ! 大丈夫!?」
「あ、ステン王子?」
俺はステン王子の力で天井まで浮かび上がっていた。
見下ろすと、ステン王子とロベルト王子が団長を挟んで立っている。
険悪な雰囲気で、今にもぶつかりあいになりそうで、ハラハラする。
「アンドリュー、お前、正気か!」
「……もうしわけありませんでした」
「もお、二人で話し合いなよ! ナオキがかわいそうでしょ!!」
「ステン王子」
こうして俺は、ロベルト王子との公開セックスを逃れる事ができた。
それは良かったのだが、アンドリューから目をつけられてしまい、なんとも居心地が悪い日々を過ごす事になり、うんざりした。
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