上 下
19 / 42
第一章<新しい世界と聖者の想い>

騎士団長の嫉妬

しおりを挟む

「楽にしていいぞ」
「はっ」

騎士団長アンドリューは跪き、ロベルト王子の命令で顔を上げる。

黒髪黒目の日に焼けた体格のいい人だ。
腕の筋肉が盛り上がってて俺の倍はある。
ゲルトラウトよりも筋肉質で、体育会系って感じだな。
まあ、この世界でそんな概念はないか。

「調子はどうだアンドリュー」
「はっ、問題ございません」
「うむ。早速だが、騎士団を引き連れて闇の国へと向かってもらいたい」
「闇の国、ですか」
「ああ。エルフ王からの直々の依頼だ。詳しくはのちほど……」
「ならば今夜、私の腕の中で説明して頂きたい」

「ふあ!?」

やばい! 変な声出しちゃった!

俺は両手で口を塞ぐが、グレゴールに小突かれて反省する。
だって、あいつ今なんて言ったんだ!?

ロベルト王子が、険しい顔つきで騎士団長を睨み着けて玉座から立ち上がる。

「貴様、誰に向かって言っている!? 無礼だぞ!」
「私というものがいながら、異世界の魂などにうつつを抜かすとは……婚姻をすると聞きましたぞ」
「そ、それは」
「貴方が悪いんですよ、騎士団長」
「え?」

俺はステン王子が、騎士団長の前に進み出るのを見守った。

「貴方が兄上を愛していると素直に認めないから、ナオキに助けを求めたんです」
「す、ステンなにを言い出すんだ」
「兄上、ナオキのところへ」
「なに?」

弟のいうことを聞いて、兄が俺の元へ駆け寄ってきた。
一緒にこの状況を見守る。
ステン王子の真剣な目と威圧的な態度に、騎士団長も気圧されている様子だ。

「僕たちの両親の死の秘密を盾に、兄上の気持ちを利用して無理矢理犯した癖に、貴方は兄上に惹かれて愛してしまった……」
「何をおっしゃられているのでしょうか」
「貴方に、兄上とナオキが愛し合っているところを見て貰います」
「な、なんですと? どういう事です!?」

俺は、騎士団長と同じ問いかけをロベルト王子に聞いていた。

「え、ロベルト王子これってどういう事なんです!?」
「わ、わからない。ステンの考えを一方的に話しているだけだ」
「……あの~、この茶番いつまで続けるつもりなんですかねえ~時間ないんですけどお~」

いよいよグレゴールがキレそうで声が低い。
それに妙な光が身体から出現してて怖い。

そんな不穏な空気を醸し出す自分を、聖者とのたまうエルフには目もくれず、ステン王子は勝手に話を進めてしまう。

「準備を整えたら呼びますから、兄の部屋に来て下さい」

結局、俺はロベルト王子との公開セックスをさせられる羽目になった。

この状況を頭で整理しよう。

「つまり、ロベルト王子は騎士団長の事が好きなんですね?」
「い、いや、そんなことは」
「俺と結婚したいっていうのは、嘘なんですよね?」
「そうじゃない!」
「兄上はお母様の魂のニオイをナオキに求めただけ」

ステン王子が、愉しそうに笑っている。
その病んだ笑顔、とっても怖い。

「本当は僕と同じ理由でナオキを欲しがってたのに、バカだよね」
「ステン、お前……!」
「あの契約書は、僕があらかじめ無効になるように細工しておいたよ?」
「は!?」
「ナオキを独り占めするの許せないから」

盛り上がる二人を見守っていたらなんだか疲れてきた。
これって、二人は俺に母親と同じ愛情を求めてるって事なのだろうか?

どう接すればいいのか困るんだけどなあ。

……やばい、ちょっと尿意が……。

俺はそっと部屋を抜け出して、お手洗いを探して歩き回った。
どうせならまた隔離されたグレゴールのところに助けを求めようかなと思っていたが、違和感に足を止める。

「兵士がどこにもいない?」

必ず見張り役はいるはずなのに、ロベルト王子の部屋の前にもいなかった。

「ナオキ=エーベル、出て行って貰おうか」
「!」

背後から殺気を感じてそっと振り返る。
その瞬間、切っ先を喉元につきつけられていた。

「団長?」
「これ以上、ロベルト様を惑わす輩を放っておくわけにはいかん!」
「え、えっと」

どうしよう、まさか俺を殺すつもりなのか!?
一歩ずつ後ずさると団長も前に進み出る。
助けを求めても人の気配もない、絶望的だ。

「世界の危機だ、闇の国へはいってやるが、お前はいらん! この場から去らないというのであれば、このまま首を斬ってやる!」
「ま、待ってくれ……!」

こいつ、まさか嫉妬で俺を殺したくて仕方ないって言うのか! こんな奴が騎士団長だなんてあり得ないだろ!
魔獣と戦った事はあるけど、人から剣をつきつけられるなんて初めてだ。
足が震えてくる。

――ここで、死ぬわけにはいかない!

「ぐ、グレゴール」

思わず呟いた時――突然身体が宙に浮いて悲鳴を上げてしまう。

「うわあ!?」
「ナオキ! 大丈夫!?」
「あ、ステン王子?」

俺はステン王子の力で天井まで浮かび上がっていた。
見下ろすと、ステン王子とロベルト王子が団長を挟んで立っている。

険悪な雰囲気で、今にもぶつかりあいになりそうで、ハラハラする。

「アンドリュー、お前、正気か!」
「……もうしわけありませんでした」
「もお、二人で話し合いなよ! ナオキがかわいそうでしょ!!」
「ステン王子」

こうして俺は、ロベルト王子との公開セックスを逃れる事ができた。
それは良かったのだが、アンドリューから目をつけられてしまい、なんとも居心地が悪い日々を過ごす事になり、うんざりした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結R18】異世界転生で若いイケメンになった元おじさんは、辺境の若い領主様に溺愛される

八神紫音
BL
 36歳にして引きこもりのニートの俺。  恋愛経験なんて一度もないが、恋愛小説にハマっていた。  最近のブームはBL小説。  ひょんな事故で死んだと思ったら、異世界に転生していた。  しかも身体はピチピチの10代。顔はアイドル顔の可愛い系。  転生後くらい真面目に働くか。  そしてその町の領主様の邸宅で住み込みで働くことに。  そんな領主様に溺愛される訳で……。 ※エールありがとうございます!

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

【BL】【完結】闇属性の兄を助けたら魔力がなくなり、王太子候補から外された

まほりろ
BL
【完結済み】闇属性の兄を救うため、光属性のボクの魔力を全部上げた。魔力かなくなった事を知った父(陛下)に、王子の身分を剥奪され侯爵領に送られた。ボクは兄上を救えたから別にいいんだけど。 なぜか侯爵領まで一緒についてきた兄上に「一緒のベッドで寝たい」と言われ、人恋しいのかな? と思いベッドに招き入れたらベッドに組敷かれてしまって……。 元闇属性の溺愛執着系攻め×元光属性鈍感美少年受け。兄×弟ですが血のつながりはありません。 *→キス程度の描写有り、***→性的な描写有り。 「男性妊娠」タグを追加しました。このタグは後日談のみです。苦手な方は後日談は読まず、本編のみ読んでください。 ※ムーンライトノベルズとアルファポリスにも投稿してます。 ムーンライトノベルズ、日間ランキング1位、週間ランキング1位、月間ランキング2位になった作品です。 アルファポリスBLランキング1位になった作品です。 「Copyright(C)2020-九十九沢まほろ」 ※表紙イラストは「第七回なろうデスゲーム」の商品として、Jam様がイラストを描いてくださいました。製作者の許可を得て表紙イラストとして使わせて頂いております。Jam様ありがとうございます!2023/05/08

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

母の再婚で魔王が義父になりまして~淫魔なお兄ちゃんに執着溺愛されてます~

トモモト ヨシユキ
BL
母が魔王と再婚したルルシアは、義兄であるアーキライトが大の苦手。しかもどうやら義兄には、嫌われている。 しかし、ある事件をきっかけに義兄から溺愛されるようになり…エブリスタとフジョッシーにも掲載しています。

【完結】目が覚めたら縛られてる(しかも異世界)

サイ
BL
目が覚めたら、裸で見知らぬベッドの上に縛られていた。しかもそのまま見知らぬ美形に・・・! 右も左もわからない俺に、やることやったその美形は遠慮がちに世話を焼いてくる。と思ったら、周りの反応もおかしい。ちょっとうっとうしいくらい世話を焼かれ、甘やかされて。 そんなある男の異世界での話。 本編完結しました よろしくお願いします。

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

推し様の幼少期が天使過ぎて、意地悪な義兄をやらずに可愛がってたら…彼に愛されました。

櫻坂 真紀
BL
死んでしまった俺は、大好きなBLゲームの悪役令息に転生を果たした。 でもこのキャラ、大好きな推し様を虐め、嫌われる意地悪な義兄じゃ……!? そして俺の前に現れた、幼少期の推し様。 その子が余りに可愛くて、天使過ぎて……俺、とても意地悪なんか出来ない! なので、全力で可愛がる事にします! すると、推し様……弟も、俺を大好きになってくれて──? 【全28話で完結しました。R18のお話には※が付けてあります。】

処理中です...