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第一章<新しい世界と聖者の想い>
心に残されたもの
しおりを挟む俺はロベルト王子の指示で、ステン王子の隣に寝転がる。
これからステン王子の意識に俺の意識を相対させるというのだが、どうも想像できずに不安になった。
瞳を閉じると、腹のそこからすうっとしてきて……真っ白な世界に立っていた。
少し先に、ステン王子が背中を向けて立っているのが見える。
俺は駆け寄ると肩に手を置いて呼びかけた。
「ステン王子!」
「気安く触るな!」
「――っ!?」
ばしっと手を振り払われてその勢いで足がよろける。
「おっと」
「兄上を惑わす者は誰であろうと許さない!」
「え、ま、まて!」
拳を突き出されて殴られそうになった。
あのステン王子がこんな暴力的になるなんて、まるで別人だ。
これが本来のステン王子の性格なのだろうか。
「おまえは、愛など分かっていない! 兄上から離れろ!」
「うわ!?」
身体が押し上げられて吹っ飛ばされた。
同時に視界がぼやけて我に反る。
俺はベッドの上から転がり落ちてしまっていた。
「いてて」
「大丈夫?」
背中をさすりつつ上半身を起こすと、グレゴールが手を差し伸べてくれる。
その手を取って状況を確認すると、ステン王子は眠ったままだ。傍で見守っていたロベルト王子が肩を竦めた。
「ダメか」
「性格がまるで違ってて……あれが、本当のステン王子なのかよ?」
「なんて言っていたのか教えてくれ」
「う……」
俺はステン王子にかけられた言葉を、そのままロベルト王子に話してみた。
何やら考え込んでしまって、グレゴールを手招きして相談している。
すっかり蚊帳の外にされて、眠っているステン王子を見ていたら眠くなって、再びその隣に寝転がって目を閉じた。
目の前に青空が広がっている。
「ふああ」
欠伸をしつつ背筋を伸ばしていると、靴音がして振り返る。
ワイシャツの上からもわかる筋肉質な肢体に、人なつっこい笑顔――木暮がドリンクを差し出す。
それを受け取って休憩室の窓から外の景色を眺めた。
会社でこんな風に木暮と休憩したことなんてなかった。
それが、これが夢である事を裏付けている。
俺の願望でこんな夢を見ているのだとしたら、無意識って怖いなって思う。
「なあ、佐原」
隣の席に腰を落ち着けた木暮が、ストローで中身をすすりつつ話かけてきた。
俺も中身を啜って耳を傾ける。口の中にコーヒーの苦みが広がって、目が覚めるような感覚に戸惑う。
え、これって夢、だよな。
「俺がお前を守りたいから、傍にいるんだっていうのは」
「うん?」
「お前の欠けた心を埋めたいって願ってたからなんだ」
「欠けた心?」
また聞き慣れない言葉だな。
こんなキャラだったっけ。
木暮はずずっと水分補給を終えて一息つくと、視線を向けた。
「な、佐原顔寄せて?」
「え、え?」
「いいから」
「……っ」
木暮の声にはなんとなく従う力がある。
気のせいかもしれないけど、言われるまま顔を寄せていた。
頬を指でなぞられて唇を塞がれる。
ぴくんっと身体が反応してしまう。
舌は入ってこない……ついばむようなキスだった。
そんな優しいキスを、木暮の気が済むまで付き合う。
唇の柔らかさと頬や頭を撫でる仕草に、鼻の奥がつんとしてくる。
どうして涙が……。
「ふ、んう」
「……佐原、ありがとな」
「木暮?」
ぎゅうっと抱きしめられて、胸が締め付けられる感覚がする。
「お前には、言葉よりもこうした方が伝わるんじゃないかなって思ってさ」
俺は黙って木暮の言葉を聞いていた。
だんだん木暮の身体が軽くなっているのに気付いたから。
涙を止めることができなくて、鼻をすする。
「さっきのキスは、お守りだ。お前の心が壊れないように……佐原、きっとこの世界で誰かを愛せるよ……」
その言葉に思い当たる節があって息が詰まった。
俺が誰かを受け入れるという事ができないのを、見抜かれていたのだと。
〝怯えなくていい〟
木暮の声が遠くなって、姿はかき消えた。
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