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第一章<新しい世界と聖者の想い>

奇妙な双子の王子

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なんなく入国できるかと期待していたのに、衛兵に取り押さえられてしまった。

「こ、これは?」
「どうやら僕たちが来るのが分かっていたようだね」

焦る俺とは違って冷静なグレゴールが、自分を拘束する衛兵を睨みつける。
すると兵士は口の端を吊り上げて嗤って答えた。

「その通りだ、ロベルト様には全てお見通しだ」
「闇の国とエルフの異変にも気付かれている」
「え」
「ロベルト王子か」

そんな所まで把握しているんだ……。
流石大国シュティーナの王子だ。

「エルフ、お前は牢獄に入れるように命令を受けている」
「なに!?」
「ま、まてよ! なんで、グレゴールを、聖者を捕らえるんだよ!?」
「すべては王子のご命令だ、我らが知る必要などない」
「そんなバカな!!」

独裁国家なのかよ!?
そんな王子に世界を守る為に力を貸してくれって、いうのか!? 絶対貸さないだろ!!

「グレゴール!」
「ナオキ!」

(大丈夫だ、後であおう)

「え?」

今の声は……木暮か?

「お前はこっちだ、身体を綺麗にして用意した衣装に着替えろ」
「は、はあ?」

逆らえばグレゴールの身が危ない、か……。
入国した途端これかよ。
落胆している暇はない。指示通りに動いて、俺は身体を洗って着替え、兵士に連れられて馬車に乗せられて城へと向かった。
馬車から外を眺めていると、働く農民や、商人、人々の生き生きした表情が印象的だった。

途中で通った城下街も活気に溢れていて、悪政だとは断言できない雰囲気なので、国王と王子がどんな人物なのか余計気になる。

城の裏門らしい場所から城内に足を進めていく。
俺の前後に兵士が並んで歩いており、手首は拘束されていた。
こんな事しなくても、無茶な逃走はしないのに。

グレゴール、大丈夫かな。
木暮にはなにか策がありそうな声色だったけど。

「ロベルト様! ナオキ=エーベルをお連れしました!」
「入れ」
「はっ」

天井まで届く扉が重苦しい音を立てて開かれていく。
赤い絨毯の先は玉座に繋がっていて、そこに銀髪の王子が座っており、隣にも同じような容姿の王子が佇んでいた。

――双子の、王子。

うり二つだ。玉座に座っている方は長髪を腰部分でゆるく結っており、その茶色の瞳を細めた。

対して玉座によりかかっている方は、肩よりちょっと上に切りそろえたくせのある髪と、大きく見える瞳が特徴的だった。
何故かその手にうさぎのぬいぐるみを持っているのが気になった。

「お前達は下がれ」
「はっ」
「ナオキ=エーベル、やっと会えたな」
「あ、あの王子様? これは、なんなんです?」

なんて呼んだらいいのかわからず阿呆みたいに尋ねてしまった。
二人は顔を見合わせると声を上げて笑い出す。

「「あはははははは!」」

いや、そんなにおかしいか。
むかつくなあ、このガキども。
俺は見た目は十代だけど精神は三十代なんだぞ。
おっさんをからかいやがって。

「ま、無理もないか」
「兄上遊んでいい?」
「まだダメだ」

玉座から腰を上げたほうが兄か。弟は幼く見えるな。
二人ともグレゴールより年下かな。
兄が俺の前に歩いてくると、顔をのぞきこむ。

「ふ~ん、こういう顔だったかな」
「な、なんですか」
「口をあけろ」
「え」

そっと開けてみると――くちゅ。
唇を奪われて舌を絡まれた。

う、嘘だろ!

「んむううう!?」

いきなりキスされたああ!!
王子もそういう趣味なのか!?

「……ん、ふ」

ちゅぽ。

音を立てて王子が俺の唇を解放した。
その反動で俺は尻餅をついて呼吸を整える。

「はあ、はあ……」
「んむ。自然と絡めるくらいには可愛がられているらしいな」
「ふ、ふへ?」
「あ~! 兄上だけずるい!!」
「まあ、待て。ナオキよ、お前の望みを知っているぞ」
「!」

王子は俺の目的を理解していた上で、こんな真似をしたのか。
嫌な予感しかしないが、言葉を待つしかなかった。

「我が国の騎士団を使いたければ、俺と婚姻しろ」
「は、はあ!? い、今なんて!?」
「結婚しろって言ったんだ」
「はう?」

え、なんで俺が王子様と!?
俺は慌てて起き上がろうとするが、手首が拘束されているから、結局床に転がったまま声を荒げた。

「俺、男ですよ!?」
「分かっている」
「こ、子供産めませんし、それになんで俺を?」
「お前の事は数年前から認識していた、成人して旅立ち、この国に来る事も予知夢で知っていた」

カツン。
王子の靴音が響いて、涼やかな目が俺を見つめる。

「特別な魂を持つ者、その体液も特別だ。我が伴侶にふさわしいだろう、なあ」
「う~ん、僕だってナオキと遊びたいのにい!」
「相手ならさせてやるから、大人しくしてろ」
「ほんと? やったああ!」

弟王子の喜び方になんとなくグレゴールを思い出してげんなりする。
俺の周りの男ってみんなテンション高くないか?
あと、変態ばっかり。

「さて、ナオキ。承諾するか?」
「え、えっと!」
「しないなら騎士団は出さないし、この国を守る事に徹するぞ」
「そ、それは困ります! 邪神が世界を壊してしまうかもしれないんですよ!?」
「ならば、結婚するか?」
「う、ぐぐ」
「しちゃいなよ~」

弟王子が、うさぎのぬいぐるみの手で俺の鼻をちょんちょんする。
なんだ、これ……どんな状況なのだろうか……。
疲労感が半端ないけど、もう受け入れるしかなかった。

「わかりました」
「ほう。潔いな?」
「やったね兄上! 毎日ナオキと結婚できるか悩んでたから、悩みから解放されるね!」
「よ、余計な事をいうな!!」
「……」

なんていうか、脳天気兄弟なのかこいつら。
世界が崩壊するかも知れないってのに。

まあ、でも。結婚なんてどうでもいいか?
王子様だって俺にすぐ飽きるかもしれないし。

「手首の拘束を外す前に、ここに誓え」
「え?」
「契約書だ。誓いの言葉を刻む」
「え~と、私ナオキ=エーベルは王子と伴侶になる事を誓います」

こんな感じで良いのだろうか。
王子に目線をやると、満足そうに頷いて頬を緩める。
なんか乙女を感じておかしくなった。

「なにを笑っている?」
「あ、いいえ」
「時間がないのだろう。聖者も呼んで作戦会議だ」
「は?」

意外にもあっさりとグレゴールを解放してくれるというので、拍子抜けする。
俺と契約を交わす邪魔をさせない為に捕らえたようだ。
地下牢から出てきたグレゴールが、俺に走り寄ってきて抱きしめてくる。

あまりの力強さに身体が軋んだ。

「いて、いてて!」
「あ、ごめん! 何もされてない?」
「ああ、うん……えっと」
「ナオキ?」
「気安く俺の物に触るな!」

王子がどこからともなく鞭を取り出すとグレゴールの背中を叩く。

「うぐ!?」
「ちょっと王子様!」

この王子は人をなんだと思っているのだろうか。
鞭で攻撃するなんて。
しかも聖者だぞ!?

「どういう、意味だ」
「ふん。こいつはついさっき俺との結婚を受け入れたんだ」
「は、はあ!?」

素っ頓狂な声をあげて、グレゴールが俺と王子を見比べては目を白黒させて、狼狽えた様子だ。
何故だという言葉を繰り返して王子に迫る。

「王子よ、ナオキを脅したのですか!?」
「さあ、なんの事だ?」
「グレゴール落ち着けって」
「落ち着けるものか! どうしてナオキもこんな理不尽な申し出を受け入れたんだ!?」
(そうだぞ! あんまりだ!)
「う」

木暮まで俺の頭の中に思念を送って責めてきた。
俺は心の中で返答する。

(仕方ないじゃないか。王子様が俺が結婚を受け入れないなら騎士団を出さないっていうから)

「なんと卑怯な!」

叫んだのはグレゴールで、木暮は黙っている様子だが、今の彼を見ると一心同体化しているようにしか見えず、唾を飲んだ。

「なんとでも言え。契約はもう済んだ。あの誓いの印がある限り、ナオキ=エーベルは俺の物だ」
「そうだよ~! 僕たちの物だよ~!」
「……俺のだっていってるだろ!」

弟王子がぬいぐるみを突き出してけらけら笑う。
そんな王子達の態度に、グレゴールが憤怒の顔で睨みつけている。

――どうしよう。俺、悪い事したか!?

「グレゴール、ちょっと」
「ナオキ……」

剣を抜きそうな気配に危機感を感じて、グレゴールを壁際に引き寄せて、一部始終を伝えた。
拳を震わせて、怒りが収まらない様子だったものの、突然腰をだかれてキスをされた。
舌を吸われる激しいキス。

「ふむう」

グレゴールの背後に、王子がいつの間にか立っていて、怒声を張り上げた。

「離れろ貴様らぁ!!」

あやうく乱闘になりかけたものの、兵士の介入で強制的に喧嘩は終了する。

作戦会議を諦めるわけにはいかず、俺はグレゴールからエルフ王の書簡を受け取って王子に手渡した。
一応目を通してくれた王子は、渋い顔つきで俺を見据えた。

「事態は承知した。騎士団を派遣するには準備が必要だ」

そう言うと、王子は黙り込み、書簡に再び視線を落とした。

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