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奇跡の夜
しおりを挟むロイスとヴィルの勝敗が一瞬で決まり、決着がついた。
圧倒的なロイスの勝利に、観衆はわいた。
文斗も歓喜に胸を震わせると、拳を振りあげてジャンプする。
「さすがロイス様~!!」
剣を鞘にしまったロイスが、文斗に顔を向けて微笑む。
軽く手まで振って嬉しそうだ。
文斗は今すぐにでも飛び込んで行きたいが、この人の多さでは身動きが取れず、仕方なくロイスがこちらにやって来るのをまった。
その後ろで伸びていたヴィルがおもむろに起き上がると、そぐ傍に転がっていた剣を手に取り、腕を振る。
「ふっざけるなああ――っ!!」
「ロイス様!!」
剣がロイスの後頭部めがけて投げられ、猛スピードで刃先が向かっていく。
突き刺さる――文斗が目を瞑った瞬間、懐から何かが飛び出して瞼を開いて見つめると、ロイスの元へと放たれた。
青く輝く光の球は、雫である。
「雫!!」
文斗の叫びと共に、青い光が会場を包み込んだ。
結果的に、雫の力によって剣は粉々に砕け散り、ヴィルは目を回してぶっ倒れていた。
今度こそ、決闘は終わった。
安堵の息を吐いて、文斗はじゃれあうロイスと雫を見つめていた。
圧倒的な強さを見せたロイスに誰もが賞賛の声を送る。
その伴侶となる文斗も、ようやく人々から受け入れられるような空気が漂っていた。
その日の夜は、ロイスを労うために料理を頑張っていたのだが、雫の様子がおかしいので心配で手を止めた。
文斗が両手を掲げると、手の平の中に飛んで来て蹲る。
震えているので、風呂に入っていたロイスを慌てて呼んだ。
「これは?」
「わからないです」
淡く光りながら震えてぐったりしている雫を見守るが、誰に相談すればいいのか見当も付かず、困り果てた。
その時、家のドアを叩く音が聞こえて顔を向ける。
ロイスがそっとドアに近づいて声をかけた。
「どなたかな?」
「夜分遅くにすみません、私は森の管理者のエルフです」
「!?」
森の管理者……あのエルフか!
ロイスが文斗に顔を向けるので頷いた。
ドアを開けると目の前にいたのは、確かにあの森のエルフである。
中に招き入れて事情を尋ねると、苦しんでいる雫を見つけて息を吐いた。
二人に向き直り、雫について語り始める。
「この子の、進化を感じて来ました」
「進化?」
ロイスの疑問に満ちた目線に、エルフは頷くと手招きした。
二人で雫を覗き込むと、雫はぷるぷる震えて、なんと成長したのだ。
気づけば、人間サイズになっており、五歳くらいの男の子が文斗に抱きついて笑っていた。
「お母さま!」
「え、え?」
とんでもない事態に硬直した文斗の肩を、ロイスが引き寄せて歓喜の声をあげる。
「子供だ! 雫が、人間の子供になったぞ!!」
「は!?」
「お父さまあ」
「よしよし、いい子だ!」
雫を抱き上げるロイスはただただ嬉しそうで、文斗もようやく笑顔になれた。
「良かった、無事に成長できて」
エルフはそれだけ言い残すと家から出ていく。
「待って!」
追いかけると、エルフは立ち止まり、背を向けたまま、答えた。
「貴方達の愛が本物だから、あの子は人間になることを望み、見事に成長できたのです。どうか大切にしてあげてください」
遠ざかる背中を見送り、文斗はなんとなく頭を下げた。
エルフは物語に出てくるように、不思議な存在だなあと思い、口もとをゆるめた。
さあ、愛する二人のもとへ帰ろう。
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