転落王子の愛願奉仕

彩月野生

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簒奪者の困惑

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ヴァルドは鋭い痛みに目を覚ました。
上半身をゆっくり起こすと、暗闇に光が差し込んでいるのを見つめる。

その光は、重苦しい扉の隙間から漏れているのだと気づく。
記憶を辿れば、この部屋はロルフの城の一室だと思い出した。

あれから、どれくらいの時間が経ったのだろうか?

寝台から降りて部屋から出ようと扉に手をかけた時、誰かが叩いてきたのでこちらから開いた。

目の前には年老いた聖職者――大神官が苦々しい顔つきで佇んでいた。

ヴァルドに目を向けるとおもむろに口を開く。

「お目覚めですか」
「何故、お前が」
「ミハイル……いえ、貴方が復活させた神を止めるため、そしてエリオ様の罪を断罪する為です」
「……エリオ」

そう言えば、エリオはどうしているんだ。

ヴァルドは胸のざわめきを感じて、浅く呼吸を繰り返す。
まるで、水の中にいるようであった。

「……俺は、どれくらい寝ていた」
「七日です」
「な、んだと?」

バカな、神官の治癒術を施したならば、そんなに眠る訳はない!

ヴァルドはエリオについて尋ねた。
大神官は険しい目付きで告げた。

「処刑致しました」

「処刑?」

――一体、こいつは何を言っているんだ。
――大神官の口から処刑などと。

ヴァルドは喉の乾きを覚え、喘ぐように大神官の胸ぐらをつかむ。

「貴様! 何故、勝手な真似をした!?」
「ぐ、う……え、エリオさまは、我が国を棄てられたと民も臣下も怒りが治まらず、そうするしかなかったのです」
「ここはロルフの国だぞ! それに、妻となったエリオを殺すのを認めるはずが!」
「……この、水晶を」

差し出された水晶が光り輝き、ある映像が宙に映し出される。
処刑場に連れてこられたエリオが、目隠しをされて地に膝をつく。
首を前に突き出す体勢となると、隣に立った兵士が剣を思い切り振り下ろす。

鈍い音と共に血しぶきが飛び散った。
首が落ちるのを見た瞬間、ヴァルドは水晶を掴み大神官に突き返す。

「何故、処刑した!?」
「何故、とは」
「俺の指示もなく……!」
「ミハイル様に操られていたとはいえ、ロルフ様がヴァルド様を亡き者にしようとしたのは事実。エリオ様の処刑によってロルフ様の罪を赦す……そのような段取りでございます」
「き、貴様」

ヴァルドは困惑の中、呼吸もままならずその場に膝をついた。

「大丈夫ですか?」
「あ、ああ……ロルフを呼んでくれ」
「……わかりました」

背を向ける大神官にヴァルドは冷えた声をかける。

「貴様、俺があの子供だと知っているのは承知していたが……ミハイルについては、どうやって知った?」
「……私は神官です。国に危険が迫れば自ら調べもします」
「ミハイルは?」
「わかりません、消息不明です」
「……」

呼びつけたロルフから詳細を聞き出すと、エリオの処刑はロルフも立ち会っており、その様子は水晶の記録を投射して民に見せられたという。
民は、エリオの処刑についてはヴァルドの意によるものだと思い込まされており、ヴァルドへ対する信頼は厚くなったという。
エリオの弟とその従者について尋ねると、エリオは弟の命だけは助けて欲しいと懇願し、ロルフの意志もあり、どうやら安全な場所へ逃がされたようだ。

「もう、ニルスには手を出すなよ」
「ロルフ、お前は、エリオを……愛しているのではなかったのか」
「こんなんでも、一国の王だ。私情だけでこの国の行く末を決めるわけにはいくまい」
「勝手な奴だ」
「お前がいうか? それより、お前の過去についてはエリオから聞いているぞ。これで、復讐を遂げられたのだろう。嬉しくないのか」
「嬉しい?」

指摘されて、己の心の変化について戸惑っているのを実感する。

――俺は、何故、エリオが殺されて動揺しているんだ。

「とにかく、国へ戻れ」
「分かっている」
「ミハイルは我も探している。聞きたい事はあるが……今はこれ以上の混乱はまねきたくはない」

ロルフは静かに告げると、ヴァルドの前から立ち去った。
廊下を照らす光に気付いて窓の外を見ると、月が煌々と輝いている。

思考がうまく回らない。

手に入れた国を想っても、そこにはエリオの姿はない。

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