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何を求めているのだろう
しおりを挟む部屋の窓から柔らかい日差しが降り注ぐ。
穏やかな朝だ。
隣で寝息を立てているニルスに気づかれないように、エリオは寝台から抜け出すと、寝巻のまま部屋を出ていく。
「どちらへ?」
「クラートに話がある」
どうやら地下室にこもっているらしい。
兵士の監視の中、エリオは通路の突き当たりから地下室への階段をおりていく。
鉄の扉を叩くと気だるそうな返事がして、エリオの代わりに兵士が開ける。
「ん?」
むわあっと甘い香りが鼻孔をつく。
果実が熟れたような強いニオイに一瞬めまいがするほどだ。
部屋の中はほの暗く、窓がしまっている。
四隅に備え付けられた蝋燭と、座っている机上の蝋燭の灯りだけですごしているらしい。
まるで闇魔術師が住んでいるようだ。
「何かご用ですか」
クラートが座る机上には大きな器があり、何やら液体が波うっている。
強い香りはそこから漂っているようだ。
エリオは近づいてクラートを見ると息を飲む。
蝋燭の灯りに照らされたその顔には、疲労の色が浮かび、目の下には隈までできている。
「エリオ様?」
「いつまでこんな場所に閉じこもるつもりだ?」
「と、いうのは?」
「……ニルスが、お前にあいたがっているんだ」
昨夜も「クラートが部屋に入れてくれない」と泣いていたのを思い出し、唇を噛んだ。
――本当はこんな奴から離したいが、あんなに泣かれては……。
「急ぎます」
「? 何をしているんだここで」
「大切な研究です」
「研究?」
液体を指差し、クラートは愉悦に満ちた笑みを浮かべる。
「ニルス様を不老にするための秘薬です」
「不老?」
何を言い出すのだこの男は。
「そろそろ時間です」
エリオは聞きたい事も言いたい事もたくさんあったのだが、兵士に強引に引っ張られて部屋から出されてしまい内心で「しまった」と吐き捨てる。
自由になれる時間は限られているのだ。
兵士を睨むと無表情で伝えられた。
「ヴァルド様がお呼びです」
言われた通り、エリオはヴァルドがいる王の間に向かうが、足取りは重い。
あの日からしばらく会っていないのもあり、心臓が高鳴るのを自覚するが、掌には汗をかいていた。
――大丈夫だ、しっかりしろ。
深呼吸を繰り返し、兵士に途中背中をつつかれて足早になる。
見慣れた巨大な扉が見えて来た。
扉を守る兵士二人が扉を開き、エリオは中へと進む。
玉座から腰を上げたヴァルドが、ついてこいと背を向けて歩きだす。
その部屋は、王が使用していた広々とした部屋であり、百人近くは入ることができた。
部屋は、様変わりしていた。
何より、繰り広げられる光景がまるで夢の中のように思えてならない。
「な、なんだこれは」
華奢な男たちを、屈強な男達が、その剛直でなぶり続けていた。
犯されるほうは快楽に泣き、犯すほうは興奮した声や卑猥な言葉を口走りながら、激しく腰を使い楽しんでいる。
エリオはたまらず目を閉じて顔を背けた。
「いまヤられている連中は、お前を助けようとした兵士や従者だ」
「なっ?」
「その中でも好みの輩を連れてきた」
エリオは淫らな行為が行われている宴の傍でヴァルドを見つめた。
――この男の目的は、いったい。
ヴァルドがほくそ笑む。
「可愛がってやろう」
欲情が滲む声音に、エリオは胸が切なく疼くのを感じて、小さな悲鳴を上げた。
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