同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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七日間と少し

七日間と少し 八

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「もう少し身綺麗になったら連れ回してやるから」

 戻ってきた彼は相変わらず弧を描いたままの唇でそう告げると、子どもをあやすように頭を撫でてリビングを出ていく。おそらく着替えだろう。

 私も早く身支度をしておこうと、残ったパンを口に押し込んだ。

 階段を上がった奥、与えられた自室のクローゼットの中には新しいドレスが数着。

 どれほど悪趣味な、それこそ下着と変わらないようなものを着せられるものだと思っていたが、肌触りが良く上品で、見るからに高級なドレスを買われた。

 周囲から私の存在を隠して飼うのならばこんなものは必要ないはずだが、先程の発言からしてもロバートは私を外に出すことに抵抗はないらしい。その上勉強させることにも積極的で、留守を預ける間繋いでおく鎖も用意していない。

 私の逃亡を妨げるものが一切ないことが不気味だが、まさか犬猫と同じだと思われているのだろうか。

 考えてもどうしようもないことで頭を重くさせながら手早く着替えて髪に櫛を通す。

 ここに来て一週間しか経っていないというのに毛質が改善されたのか、絡まったり引っかかったりすることがかなり減っていた。

 生々しい傷も少しずつだが塞がってきていたし、常に脱力感に襲われていた体はいつになく軽い。

 ひょっとして傷ついた女の体を治していく過程が好きなタイプで、治す場所がなくなれば今度は自ら傷つけてくるのかもしれない。

 そんな思考が頭をよぎったが、それくらいでこの生活が続くのならば安いものだ。櫛を置いてドレッサーから離れる。

 扉を開けて部屋から出ると、ちょうど彼も支度が終わったところのようで、仕上げとばかりに革手袋をつけている最中だった。

「暗くなる前には帰る。不足してるものがあれば買ってくるが」
「ええと……特には」
「そうか」

 品良くかき上げられた前髪と明るい色のスーツにコート。つけたばかりの香水の匂いは、まだ軽く爽やかな甘さがあった。

 どこからどう見ても、美しく気品に溢れた若い紳士といった感じだ。唯一黒い手袋だけが冷たい秘密を帯びていて、その下を暴きたくなるような情を煽っている。

 彼に続いて階段を降り、玄関で履き替えられた革靴の紐を結んだ。

「行ってらっしゃいませ、ウォルトン様」
「……留守は頼んだよ、キャシー」

 この魔法の挨拶で、彼は昼の顔である『ハリー・ウォルトン』に、私は女中の『キャシー』になる。
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