同じ地獄で眠りたい

佐藤シオ

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七日間と少し

七日間と少し 七

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 スライスしたホワイトブレッドに焼き色をつけて、ジャムの瓶と一緒に食卓へ運んだ。私の分も一緒に。

 朝食の時間は二人にとって、今日も平穏に一日を過ごすための作戦会議も兼ねている。

「……おはよう、マリア」
「おはよう、ロバート。今日のご予定は?」

 迷いのない動きでトーストにジャムを塗り始めるところを見ると、今日もちゃんと目覚めてくれたらしい。

 こうなってしまえば、温もりを求めて甘ったるく私を抱きすくめたことも全く覚えていない。面白いので今後も遊ばせてもらうことにしよう。

「お前用の寝具を受け取りに行く間、留守番を頼む。そう時間はかからない」
「……連れて行ってくれないの?」
「なんだ、外に出たいのか?」

 一週間前なら怖気づいていたかもしれないが、彼が凄んでいるわけではないと今ならわかる。

 よく整った美人というものは、だいたいどんな表情をしていてもある種の威圧感があるものらしい。

「人を探してるの」

 彼はあまり大口を開けているわけではないのに一口が大きい。あっという間にトーストを一枚食べ終え、二枚目にバターを塗り始めていた。

 しかし私の話には多少の興味があるのか、手は休めずにこちらへ視線を寄越している。

「……私のお母さん。キャサリンって名前。私が七歳のときにいなくなった。私を捨てたのか男に攫われたのか知らないけど、生きてるなら会いたい」

 記憶の中にはほんの一欠片しかない母の姿。私と同じ赤髪で、私とは違う青色の目。あんたのグレーの目は父親似ね、なんて言われたのをぼんやりと覚えている。

 私が知る父親の情報はたったそれだけだし、私の過去の記憶には大きな穴が空いていて、おぼろげな母の姿すらその底なしの闇に吸い込まれてしまってほとんど思い出せない。

 それでも、優しく頭を撫でる手の温かさはどこかに残っていた。

「……キャサリン、ねぇ」

 二枚目のトーストを全て飲み込んだ彼は何か含んだ笑いをしながら、カップに残ったコーヒーを飲み干した。

「事情はわかったが今日はまだ駄目だ。こんなに痩せ細った女と歩いてみろ、わけを知らない奴らに俺が虐待してると思われるだろ」

 言い返す言葉もなく、無言でパンを咥えた。そんな私の様子を見てこれ以上の反論はないとわかったのか、食器をキッチンに運んで席に座り直し、新聞を読み始める。

 確かに、決して健康的とは言えない生活を送ってきた私の体は見るからにみすぼらしい。骨が浮いてばかりだし、胸も尻も薄っぺらい。

 娼館で売れていた理由は、たまたまその貧相さより若さやキャラクターがウケていたというだけ。彼は外面をかなり気にしている人だから、そんな私と街中を歩きたいとは確かに思わないだろう。
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