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水と籠の中のカナリア
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一年前 反逆者の身内…として
一度は見せしめの処刑の危機にありながら 僕は生き延びた…
噴水のある 花が溢れた中庭… カゴが置かれカナリアが鳴いていた…
息を深く吸い込み ベンチに腰かけ ゆっくりと楽器ウードをつま弾いた…
※ウードはリュートやギターの原型
「いい音色だ…」男が声をかける
演奏を続けながら
「今晩の主(あるじ)の為の宴の練習です」 ナジュサナ自身でも…
内心は驚くほどに 穏やかに答えられた
「私に対して憎しみも恐怖も感じられない 穏やかな目をしてるな…」
「そうですか…僕には分かりません…」
「久しぶりに会ったが…
私に対して 憎しみの情は消えたとは思えないが… 何か言たい事はないのか…」
あの時の兄の言葉 抗わず 生き延びろ・・と言った言葉を思い出して
僕は言葉を選びながら… 努めて 穏やかに答えた
「私は反逆者の身内ですから…
本来なら処刑されていた・・ 頼る者さえない身の上…」
「そのような者が親衛隊長様に何を申し上げてよいのやら…」
「以前は地下牢での捕囚・・・今は待遇は変わったが 捕囚には変わりはないか…」
愉快そうに、喉の奥で笑う
「傷は癒えたか…?」
何も答えない僕にもう一度問いかけた 演奏を止めて 僕は答えた…
「一年前に地下牢で あなた方が僕にムチ打った時の傷…?
足裏につけた 小さな焼きゴテの火傷の後? まだ少し残っています…」
「でも…一番辛かったのは、あの時のコップ一杯の水」 僕は呟いた…
連日の拷問で熱を出し 与えられたコップ一杯の水
それを目の前にいる男は取り上げ 「水が欲しいか」 と囁いた
コップの僅かな水は目の前で捨てられた…
「お願いします…と言ってごらん…」 熱で喉は渇き やっとの思いで…声を出し
「お願いしますと言う 彼は 水を渡す
それから 牢の小さな窓を指さし こう問う
「あの塔が見えるか?」
「? 」
塔の窓から ぶらさがっているのは・・人!
人間が数人吊るされていた
「死体だ・・見せしめだよ・・
お前も 早く 問われた事と 忠誠を誓った方が身のためだ・・」
「ああ・・それから 三番目の吊るされてる死体 あれは お前の・・兄貴の一人だろう?」
僕はコップを落として そのまま昏倒した・・
「おい!この囚人はまだ 生かしておく 拷問は中止して 手当てしろ!」
抱きかかえられて 遠くなる意識の中で この男は言う
庭先で 籠の中のカナリアが鳴く
心の激しい痛み・・うずき・・・それから・・閉じた瞳を開けて 複雑な思いで一年後の僕は ・・
ナジュサアナは彼に言う
「兄は大事な人でした・・・兄は僕に抗わず 生き延びるように・・言いました・・。」
「少なくとも・・貴方のおかげで あれから
拷問を受けずに済んだことを 感謝すべきなのでしょうか?」
「ふん・・・お前は この籠のカナリアのように 素晴らしい楽器の演奏手だ・・・
それに 誰よりも美しい・・」
「その美しい姿が 人を魅了する・・」
「・・・そうだ・・妹は生きてるぞ! 妹は お前によく似てるというから・・
会える日がくれば 楽しみだ」 彼は笑った
親衛隊長である・・
私は? じっと?美しい少年ナジュサアナの顔を見ていた・・
彼は その青い瞳を見開き 一瞬 表情を変えて・・
何かをいいかけたが?押し黙ってしまった・・
妹・・・妹をどうするのですか?
別に・・何もしない
それとも お前にとって敵である私が 妹に危害をくわえると思うのか?
・ ・・・・僕は・・あなたにとって・・価値のあるものですか?
・・彼は じっとこちらを見てる?不安と絶望の表情
・・・・・僕が欲しいのですか? 僕は 今は主(あるじ)の所有物・・・奴隷です?
欲しいなら 主の許可をとってください
数々の成果をあげてる 貴方は 主のお気に入りの一人・・
その望みならば すぐに貸し与えてるはずですから・・・
明日にでも 貴方の床にはべるように命令するでしょうね・・・
まるで・・・人事のように淡々と彼は語る・・・
それとも すぐに欲しいのですか??
なら・・ あの時の地下牢でのように 僕を力づくで奪えばいい・
あの向こうの部屋は・・
今 誰もいない 来いといわれたら 行きます・・・
僕は・・貴方が望むとおりに・・します・・。
許可は・・貴方が僕に黙っているように命令するか・・
後から主の事後承諾を得れば済むこと!
彼の瞳から 涙がこぼれ落ちる
お前の望みは?
泣き崩れた彼に声をかける
妹は そっとしておいて・・・ か細く 呟くように答える
・・・それから ムチだけは いやです・・跡が残るから
私は 泣きじゃくる彼に近くにいき
一瞬 怯えて逃げようとした 彼の腕をつかみ
耳もとで 妹の居場所を告げた ・・
うまい隠れ場所だ・・主でも そうそう手がだせない 欲望のまま お前をひどく扱った・・・すまなかった・・
謝罪の言葉を口にだして・・押し黙る 泣き崩れた彼・・ナジュ
そっと長い彼の髪の端を手に取り 髪の先にくちずけをすると・・
私は 早々に立ち去ることにした・・。
ちらりと遠目から 彼を見る
彼は泣き止み それから大きく息を吐きだし 再び 楽器の演奏を始める・・・
籠の中のカナリアが 演奏に添うかのように 囀りだした
FIN
一度は見せしめの処刑の危機にありながら 僕は生き延びた…
噴水のある 花が溢れた中庭… カゴが置かれカナリアが鳴いていた…
息を深く吸い込み ベンチに腰かけ ゆっくりと楽器ウードをつま弾いた…
※ウードはリュートやギターの原型
「いい音色だ…」男が声をかける
演奏を続けながら
「今晩の主(あるじ)の為の宴の練習です」 ナジュサナ自身でも…
内心は驚くほどに 穏やかに答えられた
「私に対して憎しみも恐怖も感じられない 穏やかな目をしてるな…」
「そうですか…僕には分かりません…」
「久しぶりに会ったが…
私に対して 憎しみの情は消えたとは思えないが… 何か言たい事はないのか…」
あの時の兄の言葉 抗わず 生き延びろ・・と言った言葉を思い出して
僕は言葉を選びながら… 努めて 穏やかに答えた
「私は反逆者の身内ですから…
本来なら処刑されていた・・ 頼る者さえない身の上…」
「そのような者が親衛隊長様に何を申し上げてよいのやら…」
「以前は地下牢での捕囚・・・今は待遇は変わったが 捕囚には変わりはないか…」
愉快そうに、喉の奥で笑う
「傷は癒えたか…?」
何も答えない僕にもう一度問いかけた 演奏を止めて 僕は答えた…
「一年前に地下牢で あなた方が僕にムチ打った時の傷…?
足裏につけた 小さな焼きゴテの火傷の後? まだ少し残っています…」
「でも…一番辛かったのは、あの時のコップ一杯の水」 僕は呟いた…
連日の拷問で熱を出し 与えられたコップ一杯の水
それを目の前にいる男は取り上げ 「水が欲しいか」 と囁いた
コップの僅かな水は目の前で捨てられた…
「お願いします…と言ってごらん…」 熱で喉は渇き やっとの思いで…声を出し
「お願いしますと言う 彼は 水を渡す
それから 牢の小さな窓を指さし こう問う
「あの塔が見えるか?」
「? 」
塔の窓から ぶらさがっているのは・・人!
人間が数人吊るされていた
「死体だ・・見せしめだよ・・
お前も 早く 問われた事と 忠誠を誓った方が身のためだ・・」
「ああ・・それから 三番目の吊るされてる死体 あれは お前の・・兄貴の一人だろう?」
僕はコップを落として そのまま昏倒した・・
「おい!この囚人はまだ 生かしておく 拷問は中止して 手当てしろ!」
抱きかかえられて 遠くなる意識の中で この男は言う
庭先で 籠の中のカナリアが鳴く
心の激しい痛み・・うずき・・・それから・・閉じた瞳を開けて 複雑な思いで一年後の僕は ・・
ナジュサアナは彼に言う
「兄は大事な人でした・・・兄は僕に抗わず 生き延びるように・・言いました・・。」
「少なくとも・・貴方のおかげで あれから
拷問を受けずに済んだことを 感謝すべきなのでしょうか?」
「ふん・・・お前は この籠のカナリアのように 素晴らしい楽器の演奏手だ・・・
それに 誰よりも美しい・・」
「その美しい姿が 人を魅了する・・」
「・・・そうだ・・妹は生きてるぞ! 妹は お前によく似てるというから・・
会える日がくれば 楽しみだ」 彼は笑った
親衛隊長である・・
私は? じっと?美しい少年ナジュサアナの顔を見ていた・・
彼は その青い瞳を見開き 一瞬 表情を変えて・・
何かをいいかけたが?押し黙ってしまった・・
妹・・・妹をどうするのですか?
別に・・何もしない
それとも お前にとって敵である私が 妹に危害をくわえると思うのか?
・ ・・・・僕は・・あなたにとって・・価値のあるものですか?
・・彼は じっとこちらを見てる?不安と絶望の表情
・・・・・僕が欲しいのですか? 僕は 今は主(あるじ)の所有物・・・奴隷です?
欲しいなら 主の許可をとってください
数々の成果をあげてる 貴方は 主のお気に入りの一人・・
その望みならば すぐに貸し与えてるはずですから・・・
明日にでも 貴方の床にはべるように命令するでしょうね・・・
まるで・・・人事のように淡々と彼は語る・・・
それとも すぐに欲しいのですか??
なら・・ あの時の地下牢でのように 僕を力づくで奪えばいい・
あの向こうの部屋は・・
今 誰もいない 来いといわれたら 行きます・・・
僕は・・貴方が望むとおりに・・します・・。
許可は・・貴方が僕に黙っているように命令するか・・
後から主の事後承諾を得れば済むこと!
彼の瞳から 涙がこぼれ落ちる
お前の望みは?
泣き崩れた彼に声をかける
妹は そっとしておいて・・・ か細く 呟くように答える
・・・それから ムチだけは いやです・・跡が残るから
私は 泣きじゃくる彼に近くにいき
一瞬 怯えて逃げようとした 彼の腕をつかみ
耳もとで 妹の居場所を告げた ・・
うまい隠れ場所だ・・主でも そうそう手がだせない 欲望のまま お前をひどく扱った・・・すまなかった・・
謝罪の言葉を口にだして・・押し黙る 泣き崩れた彼・・ナジュ
そっと長い彼の髪の端を手に取り 髪の先にくちずけをすると・・
私は 早々に立ち去ることにした・・。
ちらりと遠目から 彼を見る
彼は泣き止み それから大きく息を吐きだし 再び 楽器の演奏を始める・・・
籠の中のカナリアが 演奏に添うかのように 囀りだした
FIN
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