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【シリーズ1】ノラ・ジョイの無限の泉 ~みなしごノラの母の教えと盗賊のおかしらイサイアスの知られざる正体~
#4 湖畔の屋敷(3)
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アルロが出て行った後の空気は最悪だった。
「ああ……。だからわたくしは、あの子をアルロのそばに置いておくのはよした方がいいと申し上げたのです」
妻の言葉に、夫は顔をしかめた。
「君だって、彼女のおかげでアルロが変わったといっていたじゃないか」
レキュリテの琴線がピンと響いた。
――ああ、この人はノラのことが気に入っているのだわ。
アルロのためなどといっておいて、本当はご自分の手の届くところにあの娘を置いておいたいのだわ。
「ノラでなくとも、アルロを変えることはできますわ。たとえば、チェロ家のパトゥラ嬢。年頃もよく気立てもいい子ですわ。幸いチェロ家はレノ家と同じ銀行や企業にも出資していますし、婚約となれば互いの家の利にもなりますわ」
今度はフレーデリクセンの線に触れた。
「君は……、君はアルロを家同士の政略のために結婚させようというのか? アルロをこの屋敷に閉じ込めなくてはならなくなったとき、アルロの幸せのためにとあれほど誓い合ったのに! それを君は……!」
フレーデリクセンは自分の過去を、アルロの恋に重ね合わせていた。
「あなたは……あなたこそ……! アルロが使用人風情の女と結ばれてもいいと仰るの? それであの子が幸せになれるとでも? 本当にあの子のためを思っていっていらっしゃるの?」
「現にアルロは変わって来たではないか! それに幸せかどうかを決めるのはアルロだ! ノラを引き離すのが、あの子のためだって? 君は偽っている!」
「な、なにをおっしゃってるの?」
夫婦の間で何度となく繰り返された話し合いの中で、どうしても決着のつかない火種だった。
「君は、どうあっても胸の内を私に打ち明けてくれないつもりなのだね?」
「なんのことです……」
「どうして君は知らないふりをするんだ」
「い、一体なにをいってるのか、わたくしには……」
フレーデリクセンはレキュリテの瞳を見据えた。
「私とメイドとの間にあったことを知りながら、君はなにもいわない。なにも聞かない。なぜなんだ……」
崩壊した神殿のがれきが、レキュリテの胸にせりあがってくる。
レキュリテはすでに息が苦しくなっていた。
「私は君が心を開いてくれるのを待っていたんだ。長い間、それだけを待っていた。どうして君はひとりで頑なに抱え込もうとするのだ?」
レキュリテの体は震えていた。
見る間に唇が青ざめていく。
「レキュリテ、いってくれ。私を責めたいなら責めていい。泣きたいなら泣いていい。私は君のどんな思いも受け止めるつもりだ。私は君を愛しているのだから」
レキュリテの中で糸が切れるように、感情が爆発した。
「あ、あ、あ、愛してる……、愛しているですって!? 嘘を言うのはやめて!」
「レキュリテ……」
「あなたは今も、消えたメイドを愛しているくせに! アルロの顔を見ながら、メイドとの間にできた子どもの影をそこに見ていたくせに! わたくしは……、わたくしは!」
今まで押し殺していた思いに取りつかれて、レキュリテは涙をぬぐうことも知らずに声を上げた。
「生まれて間もないアルロに向かって、あなたが話しているのを、わたくしは聞いてしまったのよ! メイドのことをあなたは、あの人と呼んでいたわ! 遠くを見て、愛しそうに! そんな姿を見て、わたくし、わたくしは……! わたくしは一体どうすればよかったの! わたくしは一体なんなの! わたくしは……」
夫が妻を抱きしめた。
「レキュリテ、レキュリテ……! 君にそんな思いをさせて、本当にすまない」
レキュリテは泣き崩れた。
「レキュリテ……聞いてくれ。君に出会う前、私は彼女に惹かれ、心から愛した。彼女は私の将来を思って、身重の体でひとり旅立っていった。方々手を尽くしたが、結局見つからなかった。彼女のことは忘れることはできない。保証どころか当面の資金さえ持たせずに、たったひとりで旅立たせてしまったことを、今も後悔している」
フレーデリクセンは妻の泣き顔をその手に包んだ。
「君と私は政略結婚だったとはいえ、家に帰れば君がいて、日々の疲れを癒してくれた。君と私によく似たアルロが生まれて、子どもが成長する姿が人生にどれほどの喜びを与えてくれるのかを知ったよ。私はこの上ない幸せ者だ。だが、自分が幸せであればあるほど、君とアルロがいる人生が喜びで溢れるほど、私の心には罪の意識が募っていった。私の幸せと引き換えに、苦労を背負って去っていった彼女とその子に対して……」
レキュリテの額に額を当て、フレーデリクセンは妻の顔を見つめた。
「私の贖罪の念が君を不安にさせてしまったことは、本当に申し訳なく思っている。アルロがああなるまで、私は君の優しさに甘えるばかりで、寄り添うことを知らなかった。君がここまで頑なに心を閉ざしてしまったのは、他でもないこの私のせいだ。私の愛を信じてもらえなくても仕方がない……。それでも私は君を支えたい。今私が心から愛しているのは、レキュリテ……君なんだよ」
「フレーデリクセン……」
「どうか私を許してほしい。私の愛にもう一度心を開いてほしい。私は君にそばにいて欲しいんだ……」
レキュリテの目から新しい涙が溢れて零れた。
夫婦の心がこれほどまでに寄り添ったことはなかった。
レキュリテの愛の神殿が再び築かれようとしていた。
春の訪れとともに、家族が再び始まろうとしていた。
***
波乱のパーティが済んで、フレーデリクセンは愛息子の部屋に男同士でそこにいた。
「アルロ、昼間いったあの気持は本当かい?」
「本当です。父上」
アルロは大まじめな顔を向けた。
「あの後ノラはなんて?」
「父上と母上のように一生共に生きるほどには好きではないのだと。自分の気持ちに嘘はつけないといっていました」
「正直な子だね、ノラは」
「ノラは僕の嘘のない心が好きだといってくれました。だから、僕もノラを好きな気持ちには嘘がつけないのです」
まっすぐな瞳を向ける息子の頬に触れた。
いつの間にか、大きくなっている。
体も、心も。
あの少女のおかげだろう。
「アルロ。実は私もレキュリテと出会う前、屋敷で働いていた女性を好きになったことがある。私は彼女に大変な負債を負っているのだ」
「……負債?」
「そうだ。アルロ、お前には腹違いの兄か姉がいるのだよ。彼女は私の子どもを孕んだまま、私のことを思って身を引いてくれたのだ。もちろん手を尽くして探したが、残念ながら見つからなかった。なんの偶然か、彼女の名前もノラというのだよ」
唐突な父の告白に驚いた。
「……僕には兄上か姉上がいるのですか?」
「そうだ。きっとこの国のどこかにいるはずだ」
アルロの中にあらゆる思いが廻ったが、父がこんな話をしてくれたのも、自分を認めてくれた証拠だろう。
アルロはうれしさと誇らしさに高まった。
「父上、いつかきっと兄上か姉上に会えますよね?」
「ああ、そうだとも。お前がそういってくれて私はうれしいよ」
互いの思いを知った今、父子はこれからもっと深く理解しあえるはずだ。
「レキュリテはまだ反対しているようだが、私はお前を応援するぞ。いずれレキュリテもお前の偽りのない心を理解してくれるだろう」
翌朝、いつも通り朝食の支度をするノラのもとに、フレーデリクセンがやってきた。
少女はコマのようにくるくるとよく動く。
小さく、よしと言っている。
スープの味が決まったようた。
「ノラ」
「おはようございます。あの、紅茶なら今セディンさんがお持ちしたところでございますが……」
「紅茶はもらったよ。アルロの父親として君に伝えておきたいことがあって来たのだよ」
「はい……」
ノラが顔を上げると、淡い緑の瞳が光を浴びて宝石のように光った。
きれいな子だ、とフレーデリクセンは思った。
「昨日のアルロには私も妻も驚かされたが、私としてはアルロの意思を尊重したいと考えている。この先アルロと君がどのような関係になるかはわからないが、私は君さえ構わないのなら、アルロの思うようにしてやりたいと思う」
困ったようにノラが一瞬瞳を伏せた。
その表情を汲み取って、フレーデリクセンは言葉を重ねた。
「これは命令ではない。断ったからといって、屋敷を出て行けなどというつもりもない。君がアルロの気持ちに応えてもいいと思うようになったのなら、そのときは今の言葉を思い出してほしい」
「あ、あの……」
ノラは昨日アルロに話したことを説明しようと口を開いたのだが、フレーデリクセンは口元に笑みを浮かべた。
「今すぐ答えを出さなくていい。ときが来たら聞かせてくれ」
去っていく侯爵の背中を目で送り、ノラは小さく息を吐いた。
確かにアルロは可愛いが、恋というより、弟みたいな存在だ。
侯爵のいうそのときとやらが、いつかやって来るのだろうか。
恋を知らないノラにはまだわからなかった。
恋……。
ノラが恋と考えるとき、いつも母と母の愛した父とのことを思い浮かべるのだけれど、ノラは父の顔を知らない。
うまく想像ができない代わりに、ジョコラータ夫妻の姿が頭に浮かぶ。
アルロを親しく思うこの気持ちの先に、あの夫妻のような深く互いを思い合うものが生まれるだろうか。
いつか、わたしはアルロ様に恋をするのかしら……?
ノラにはまだわからなかった。
午後、空を漂っていたかすみ雲は春風に流されて、気持ちのいい快晴になった。
「ノラ、散歩に行こう!」
「はい、王子様」
仲良く手をつないで屋敷を出て行く姿を見送って、夫妻は穏やかな時間を過ごしていた。
「レキュリテ、君はまだノラのことを認められないだろうけど……」
「いいえ」
「……え?」
レキュリテは夫を見ると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ああいったのは、あなたがかつて愛した人に嫉妬していたからですわ。わたくしもノラはいい子だと思います。今はあなたと同じような思いを、あの子にはさせたくないとも思います」
「レキュリテ……」
「未来がどうなるかはわかりませんが、あの子にとって幸せな結婚をさせてあげたいと思いますわ」
夫婦は優しいキスをした。
お互いに寄せる信頼を感じる至福のキスだった。
湖のほとりでは、アルロとノラがは春を探して歩いていた。
「ノラ、見ろ、すみれだ」
「わあ、可愛いですね」
ふと、アルロは尋ねてみたくなった。
「ノラは、どうしてこのフリューゲルに来たんだ? 街へ行く道からは外れるだろう?」
「それは、母を思い出したからでございます」
「母君を?」
少女が少し遠い眼をした。
ノラには、もうずいぶん昔のことのように思える。
「わたしの母は素晴らしい人でした。病で亡くなるまで、私に多くのことを教えてくれました。母はわたしに五つの口伝を残しました。そのおかげで、わたしはこれまでやってこれたのです」
「五つの口伝?」
「一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。
二つ、つらいときこそ、相手を思いやりなさい。
三つ、欲しければまず与えなさい。人を救うことは、自分を救うことと同じです。
四つ、あなたのためにという言葉に注意しなさい。あなたにとって本当に大切なことは、あなたにしかわからないのだから。
五つ、子どもは幸せになりなさい。子どもが幸せならば、親はいつだって幸せなのだから」
「ま、待て! いっぺんには覚えられん」
「また教えて差し上げますよ。初めの三つを祖母から教わったものだそうです。五つ目は祖母が子どものとき自分の母親から教わったものだそうです」
「それはすごいな。家訓みたいなものだな。すると、四つ目は?」
「それは母が作った口伝です。わたしもどういう意味なのかまだよくわからないのですが」
「そうか、なるほど、よし……。一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。二つ、つらいときこそ……、ええと……」
ノラはくすりと笑った。
「王子様、覚えなくともまた教えて差し上げますよ」
アルロは首を振って見せた。
「僕は覚えたいのだ! お前の母君の伝えてきた口伝を、僕はちゃんと覚えたいのだ!」
少年は少しでもノラに近づきたい一心なのだった。
ノラはアルロが覚えるまで何度も復唱してやった。
その日、夕食の席では、食事が給仕されるのを待っている間もアルロはぶつぶつとやっていた。
「一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。二つ、つらいときこそ、相手を思いやりなさい。三つ、欲しければまず与えなさい。人を救うことは、自分を救うことと同じです。四つ……」
「アルロ、なにをぶつぶつ唱えているの?」
レキュリテの言葉に、アルロは顔を上げた。
「ノラから教わったのです。ノラが母君から教わった口伝だそうです。全部で五つあるのですが……。ええと四つ……子どもは幸せになりなさい。子どもが幸せならば、親はいつだって幸せなのだから……。いや、これは五つ目だ」
「アルロ、今なんといった?」
フレーデリクセンの声がわずかに上ずった。
「五つの口伝です。初めの三つは母君の母君が、五つ目はそのまた母君が……。ああ、だめだ、また四つ目が思い出せない。あんなにノラに教えてもらったのに」
信じられない思いで、フレーデリクセンは息子の言葉を聞いていた。
そんな、まさか……。
いや、まさか……!
「アルロ、それは、四つ……、四つじゃなかったかい?」
「いえ、五つです」
違う。四つだった……!
私が聞いたのは四つだ。
確かに、最初の三つは母親から、もう一つは祖母からだと。
フレーデリクセンの頭の中に、激しい嵐が起こっていた。
あの人は確かに、四つの口伝だといった。
あの人が、いつも口にしていたのは、四つの口伝だった。
彼の脳裏に、在りし日の姿がありありとよみがえった。
「フレーデリクセン様。つらいときこそ相手を思いやるのです。フレーデリクセン様の心の中には、無限の泉がございます。必要とする人にいくらでも水を与えて差し上げるのです。あげてもあげても、水は湧いてきます。いつか、もうこれ以上水を汲めない。水が湧き出ない。そう思う日が来たら、周りを見渡してごらんなさい。きっと、知らぬ間にご自分自身が癒され慈しまれていることに気づくはずです」
フレーデリクセンは思わず席を立ち、大声をあげていた。
「ノラ!」
パンの籠を運んでいたノラは、びっくりして思わずトングを落としてしまった。
「はい……」
フレーデリクセンの目の前には、淡い緑色の目をした少女がいる。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
あの人と同じ目をしているのに……!
フレーデリクセンの顔色に――困惑が、贖罪が、哀愁が、そして行き場のなかった愛慕が溢れ出した。
「す、すまない……。私は少し……気分がすぐれない……」
ふらふらとフレーデリクセンが食堂を後にした。
不可解な顔をした面々を残して。……
「わたくしが行って様子を見てきますわ……」
すぐにレキュリテが後を追った。
アルロが心配そうな顔でノラを見上げた。
「どうしたのだろう、父上は……」
「どうされたのでしょう……」
ノラもアルロも、彼の中の嵐をなにひとつ知るよしがなかった。
レキュリテがドアを開けると、フレーデリクセンは崩れるようにベッドに突っ伏していた。
大きな体がぶるぶると小さく震えている。
こんな夫の姿を見たことがなかった。
「ど……どうされたのですか……」
「レキュリテ……」
フレーデリクセンの顔は真っ青だった。
レキュリテがそっと触れると、フレーデリクセンは妻に抱きついた。
「私を……、私を、罰してくれ!」
「あ、あなた……! どうされたのです」
フレーデリクセンは唇まで青くなったその顔で、彼だけが知る真実を打ち明けた。
消えたメイドの名はノラ、正確にはノラ・リザベス。
彼女は自分と同じ名前を娘につけたのだ。
ノラ・ジョイ。
ジョイはおそらく、彼女の母親の旧姓か何かだろう。
彼女自身はきっと別人の、例えば母親かなにかの名を名乗って暮らしていたに違いない。
いくら探しても見つからないわけだ。
四つの口伝は、彼女の口癖だった。
彼女のその言葉に、フレーデリクセンは何度救われたことだろう。
心折れそうな時、何回励ましをもらっただろうか。
忘れるはずがなかった。
フレーデリクセンの心の中に息づいた、四つの口伝。
母から娘へ、そしてまた母から娘へと口伝された生きる知恵。
「ノラは、私の娘だ……!」
運命が、こんな形で現実を運んでくるとは……!
我が息子アルロが愛しているのは、紛れもない我が娘。
そうと知らずにアルロが思いを寄せているのは、血をわけた姉だ。
身分違いの恋という自分と同じ道を行くゆえに、息子の恋を心から応援しようと思っていた。
それなのに、自分がまさかその絶縁の元凶になろうとは。
なんという皮肉。なんという皮肉……!
「私を罰してくれ……、罰してくれ、レキュリテ……!」
嘆きさいなむ夫を胸に抱き、レキュリテにできることは、罪を裁くことでも罰を与えることでもなく、ただ共に許しを乞うことだけだった。
***
嵐の一夜が過ぎ去り、フレーデリクセンはひどく疲れていた。
唐突な勧告を彼はメイドに言い渡した。
「ノラ、君に行って欲しいところがある。私の知人で、君のような優秀な使用人を求めている。すぐ発って欲しい。もちろん、俸給はここと同等を保証する」
フレーデリクセンは父と名乗ることを先送りにした。
メイドのノラは面食らうだろうが、それでも後で説明すれば理解してもらえるはずだ。
それよりも、今は速やかにふたりの間に距離を置き、アルロの心が静まることを祈るだけだ。
それ以上、今他になにができるだろうか?
これ以上の対処に当たることを妻は了承しなかった。
贖罪と後悔で深く傷ついた夫の心は、すぐに癒せるものではなかったからだ。
ノラにはそんな事情がわかるはずもなかったが、拒否することもできなかった。
「そ、それでは……、あの、アルロ様にお別れを……」
「アルロには私から話そう。君はすぐに準備を始めてくれ」
フレーデリクセンは娘の顔を見ることはできなかった。
目も合わさずに去っていく主人の姿に、ノラは思い当たる節を見つけられずただただ戸惑うほかなかった。
有無はいわせない雰囲気だけが漂っており、ノラは黙ってエプロンを解くほか道はなかった。
服を着替え、荷物をまとめた。
なにがなんだかわからない。
なにをして、嫌われたのだろうか……。
鞄を持って立ち上がったとき、ばたんとドアが開いた。
「ノラ!」
大声を上げて部屋に入って来たのはアルロだった。
「王子様……」
「来い、ノラ!」
アルロは顔を真っ赤にして怒っていた。
強引にノラの手を引くと、アルロはノラを外へ連れ出した。
「ど、どこへ行かれるのです、王子様!」
アルロは答えない。
「お待ちください! わたしは旦那様から今日出立するようにと……」
「どこへも行かせない! 父上が突然、お前を都の知人のもとにやるといいだした! 僕は許さない! 行くな、行くなよ! ノラ!」
フレーデリクセンはまだ真相を伝えていなかった。
できればアルロにはなにも知らせずに、ひとまずノラと離れさせたかったからだ。
だが、使用人の口から洩れ聞いてしまったらしかった。
アルロが反発するのは仕方のないことだった。
「王子様……」
息巻くアルロにノラは目線を合わせた。
「王子様……。わたしも突然のことで驚いております。でも、旦那様がそうしろというのなら、わたしはそうするしかありません。きっとなにかお考えがあるのでしょう」
「僕はノラにそばにいてほしいんだ!」
「わたしもおそばを離れるのは大変さみしいです。しかし俸給をお支払いくださっているのは、アルロ様でなく旦那様でございます。旦那様が他へ移れといわれるのならそうするほかありません」
「ノラ!」
堪らずアルロはノラに抱きついた。
子どもの体温を感じながら、ノラはアルロ後ろ髪をなでた。
「王子様、いえアルロ様……。わたしの母の口伝を覚えておいでですか? つらいときこそ相手を思いやりなさい。母はわたしにいいました。どんなにつらく悲しいことが起こっても、相手を思いやる心を忘れてはだめだと。こちらからはわからなくても、相手にも立場や考えややんごとなき理由があるものです。旦那様のことですから、きっとなにか深いお考えがあるのでしょう。きっとアルロ様を思ってのことですよ」
アルロはやや落ち着きを取り戻したものの、今度は今にも泣きそうに顔をゆがめている。
「お前の母君はどうしてそんなに寛大なのだ」
「わたしも母に対してそう思ったものです」
ノラは笑った。
アルロは納得してはいないが、少しは気が治まったらしい。
ノラは服の中にしまっていたネックレスを取り出して見せた。
「これをご覧ください。これが母です」
アルロが見づらそうにしたので、首から外して手渡した。
「きれいだ」
アルロのつぶやきに、ノラはまた笑った。
「母の口伝を聞いたからには、母の口伝を守りませんと。わたしが怒られてしまいます」
アルロは少し笑って見せた。
そのとき、アルロはふとしたことに気づく。
ノラのペンダントネックレス。
こういうものはどこかで見たことがある。
宝石店でたまにこうした細工ものが出ていることがある。
確か、開いたところの絵を押すと……。
――カチリ。
次の瞬間、アルロは心臓が止まる気がした。
なぜ……ここに……。
アルロの中で、高速に点と点が結ばれていく。
父の愛した、ノラと同じ名の女性。
母の口伝。
四つそして五つの。
こんなふうに突然の別れを必要としたのは……。
アルロにだって、そんなことは明白だった。
ノラは驚いたようにアルロの手元を見つめた。
「アルロ様、それ、どうやって開けたのですか?」
その言葉に、アルロはノラがそこにあるものを見ていないことを悟った。
「ちょっと、見せてもらえますか、アルロ様」
衝動のまま、アルロは駆け出していた。
目の前にある、若き日の父の肖像を消し去りたい、ただその一心だった。
ノラにはまったく予想できない行動だった。
アルロが湖に向かってペンダントを力強く放り投げた。
「アルロ様っ!」
ノラの声は悲鳴に近かった。
空中にきらりと光って、水音を立て消えた。
波紋が、余韻のように淵へと延びていく。
「アルロ様! どうして……どうして!」
アルロは振り向くことなく、そのまま屋敷へ駆けて行ってしまった。
茫然としたまま、ノラは水面に映る春の山を見ていた。
***
屋敷へ駆け戻ったアルロが一番始るにしたことは父を探すことだった。
その姿を見つけるや否や、アルロは父親に飛び掛かった。
「ノラが僕の姉上だ!」
第一声に、フレーデリクセンはすべてを覚悟した。
「どうして! ひどい! 父上は、だからノラをよそへやるといい出したんだ!」
癇癪をおこした息子を父親は必死に抱きかかえた。
「ノラのペンダントには、父上の若いころの絵が入っていた! ノラの母君の裏側に! ノラは知らなかった! ペンダントの開け方を知らなくて、父上が、あなたが父だなんてノラは知りもしなかった!」
アルロの目には、見る間に涙が溜まり、ぽろぽろと溢れ出した。
息子は固く握ったこぶしで、父親を激しくたたいた。
「父上のせいだ! 父上の!」
アルロの声が鳴き声に変わっていった。……
途方に暮れたノラが立ち上がったのは、湖の波紋が消え、胸にざわめく波がようやく静まりかえった後だった。
簡単ではなかった。
……そう、たぶん、彼もそうせざるを得ないほど、苦しかったのだ。
理由はわからない。
わがままな王子様は最後までわがままだったのだ。
ノラはそう思ってごく小さな苦笑を浮かべた。
母の唯一の形見。
本当に泣きたくなる。
それに、裏面が開くようになっていたことは知らなかった。
あそこにはなにが入っていたのだろう。
まさか父?
それも今となってはわからない。
湖に沈んだ母の形見。
無限の泉を教えてくれた母には、ふさわしい場所のようにも思えた。
「さよなら……」
さよなら、お母さん。
もう二度と母の顔を見ることはできない。
二度と。
屋敷に戻ると、ノラは眠ってしまったというアルロの部屋を訪れた。
寝ているかに見えたアルロは、実は眠ってはいなかった。
ノラに会わせる顔がなく、そのまま眠たふりをし続けた。
「アルロ様、お別れを言いに来ました……」
ノラはアルロの髪をなでた。
何度となく彼の寝顔を眺め、その髪をなでてきたけれど、もうこれが最後だ。
「なにがアルロ様を苦しめているのでしょう。わたしにはわかりません。それをアルロ様の口から窺うチャンスも今は頂けそうにありません。いつか、聞かせてくださいませね。またどこかでお会いできる日を楽しみにしております……」
アルロの手にはノラが贈ったサシェが握りしめられていた。
ノラはその頑なな手に触れ、そっと毛布の中にしまった。
「さようなら、王子様……」
ノラが部屋を出ていった。
アルロは泣き出しそうになるのを堪えて、唇をかんだ。
窓の外で、ノラを乗せた馬車が出発したのがわかった。
その音が聞こえなくなるまで、アルロはベッドの中で固くなっていた。
屋敷に響くアルロの泣き声を、夫妻も使用人たちも黙って聞くしかなかった。
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妻の言葉に、夫は顔をしかめた。
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レキュリテの琴線がピンと響いた。
――ああ、この人はノラのことが気に入っているのだわ。
アルロのためなどといっておいて、本当はご自分の手の届くところにあの娘を置いておいたいのだわ。
「ノラでなくとも、アルロを変えることはできますわ。たとえば、チェロ家のパトゥラ嬢。年頃もよく気立てもいい子ですわ。幸いチェロ家はレノ家と同じ銀行や企業にも出資していますし、婚約となれば互いの家の利にもなりますわ」
今度はフレーデリクセンの線に触れた。
「君は……、君はアルロを家同士の政略のために結婚させようというのか? アルロをこの屋敷に閉じ込めなくてはならなくなったとき、アルロの幸せのためにとあれほど誓い合ったのに! それを君は……!」
フレーデリクセンは自分の過去を、アルロの恋に重ね合わせていた。
「あなたは……あなたこそ……! アルロが使用人風情の女と結ばれてもいいと仰るの? それであの子が幸せになれるとでも? 本当にあの子のためを思っていっていらっしゃるの?」
「現にアルロは変わって来たではないか! それに幸せかどうかを決めるのはアルロだ! ノラを引き離すのが、あの子のためだって? 君は偽っている!」
「な、なにをおっしゃってるの?」
夫婦の間で何度となく繰り返された話し合いの中で、どうしても決着のつかない火種だった。
「君は、どうあっても胸の内を私に打ち明けてくれないつもりなのだね?」
「なんのことです……」
「どうして君は知らないふりをするんだ」
「い、一体なにをいってるのか、わたくしには……」
フレーデリクセンはレキュリテの瞳を見据えた。
「私とメイドとの間にあったことを知りながら、君はなにもいわない。なにも聞かない。なぜなんだ……」
崩壊した神殿のがれきが、レキュリテの胸にせりあがってくる。
レキュリテはすでに息が苦しくなっていた。
「私は君が心を開いてくれるのを待っていたんだ。長い間、それだけを待っていた。どうして君はひとりで頑なに抱え込もうとするのだ?」
レキュリテの体は震えていた。
見る間に唇が青ざめていく。
「レキュリテ、いってくれ。私を責めたいなら責めていい。泣きたいなら泣いていい。私は君のどんな思いも受け止めるつもりだ。私は君を愛しているのだから」
レキュリテの中で糸が切れるように、感情が爆発した。
「あ、あ、あ、愛してる……、愛しているですって!? 嘘を言うのはやめて!」
「レキュリテ……」
「あなたは今も、消えたメイドを愛しているくせに! アルロの顔を見ながら、メイドとの間にできた子どもの影をそこに見ていたくせに! わたくしは……、わたくしは!」
今まで押し殺していた思いに取りつかれて、レキュリテは涙をぬぐうことも知らずに声を上げた。
「生まれて間もないアルロに向かって、あなたが話しているのを、わたくしは聞いてしまったのよ! メイドのことをあなたは、あの人と呼んでいたわ! 遠くを見て、愛しそうに! そんな姿を見て、わたくし、わたくしは……! わたくしは一体どうすればよかったの! わたくしは一体なんなの! わたくしは……」
夫が妻を抱きしめた。
「レキュリテ、レキュリテ……! 君にそんな思いをさせて、本当にすまない」
レキュリテは泣き崩れた。
「レキュリテ……聞いてくれ。君に出会う前、私は彼女に惹かれ、心から愛した。彼女は私の将来を思って、身重の体でひとり旅立っていった。方々手を尽くしたが、結局見つからなかった。彼女のことは忘れることはできない。保証どころか当面の資金さえ持たせずに、たったひとりで旅立たせてしまったことを、今も後悔している」
フレーデリクセンは妻の泣き顔をその手に包んだ。
「君と私は政略結婚だったとはいえ、家に帰れば君がいて、日々の疲れを癒してくれた。君と私によく似たアルロが生まれて、子どもが成長する姿が人生にどれほどの喜びを与えてくれるのかを知ったよ。私はこの上ない幸せ者だ。だが、自分が幸せであればあるほど、君とアルロがいる人生が喜びで溢れるほど、私の心には罪の意識が募っていった。私の幸せと引き換えに、苦労を背負って去っていった彼女とその子に対して……」
レキュリテの額に額を当て、フレーデリクセンは妻の顔を見つめた。
「私の贖罪の念が君を不安にさせてしまったことは、本当に申し訳なく思っている。アルロがああなるまで、私は君の優しさに甘えるばかりで、寄り添うことを知らなかった。君がここまで頑なに心を閉ざしてしまったのは、他でもないこの私のせいだ。私の愛を信じてもらえなくても仕方がない……。それでも私は君を支えたい。今私が心から愛しているのは、レキュリテ……君なんだよ」
「フレーデリクセン……」
「どうか私を許してほしい。私の愛にもう一度心を開いてほしい。私は君にそばにいて欲しいんだ……」
レキュリテの目から新しい涙が溢れて零れた。
夫婦の心がこれほどまでに寄り添ったことはなかった。
レキュリテの愛の神殿が再び築かれようとしていた。
春の訪れとともに、家族が再び始まろうとしていた。
***
波乱のパーティが済んで、フレーデリクセンは愛息子の部屋に男同士でそこにいた。
「アルロ、昼間いったあの気持は本当かい?」
「本当です。父上」
アルロは大まじめな顔を向けた。
「あの後ノラはなんて?」
「父上と母上のように一生共に生きるほどには好きではないのだと。自分の気持ちに嘘はつけないといっていました」
「正直な子だね、ノラは」
「ノラは僕の嘘のない心が好きだといってくれました。だから、僕もノラを好きな気持ちには嘘がつけないのです」
まっすぐな瞳を向ける息子の頬に触れた。
いつの間にか、大きくなっている。
体も、心も。
あの少女のおかげだろう。
「アルロ。実は私もレキュリテと出会う前、屋敷で働いていた女性を好きになったことがある。私は彼女に大変な負債を負っているのだ」
「……負債?」
「そうだ。アルロ、お前には腹違いの兄か姉がいるのだよ。彼女は私の子どもを孕んだまま、私のことを思って身を引いてくれたのだ。もちろん手を尽くして探したが、残念ながら見つからなかった。なんの偶然か、彼女の名前もノラというのだよ」
唐突な父の告白に驚いた。
「……僕には兄上か姉上がいるのですか?」
「そうだ。きっとこの国のどこかにいるはずだ」
アルロの中にあらゆる思いが廻ったが、父がこんな話をしてくれたのも、自分を認めてくれた証拠だろう。
アルロはうれしさと誇らしさに高まった。
「父上、いつかきっと兄上か姉上に会えますよね?」
「ああ、そうだとも。お前がそういってくれて私はうれしいよ」
互いの思いを知った今、父子はこれからもっと深く理解しあえるはずだ。
「レキュリテはまだ反対しているようだが、私はお前を応援するぞ。いずれレキュリテもお前の偽りのない心を理解してくれるだろう」
翌朝、いつも通り朝食の支度をするノラのもとに、フレーデリクセンがやってきた。
少女はコマのようにくるくるとよく動く。
小さく、よしと言っている。
スープの味が決まったようた。
「ノラ」
「おはようございます。あの、紅茶なら今セディンさんがお持ちしたところでございますが……」
「紅茶はもらったよ。アルロの父親として君に伝えておきたいことがあって来たのだよ」
「はい……」
ノラが顔を上げると、淡い緑の瞳が光を浴びて宝石のように光った。
きれいな子だ、とフレーデリクセンは思った。
「昨日のアルロには私も妻も驚かされたが、私としてはアルロの意思を尊重したいと考えている。この先アルロと君がどのような関係になるかはわからないが、私は君さえ構わないのなら、アルロの思うようにしてやりたいと思う」
困ったようにノラが一瞬瞳を伏せた。
その表情を汲み取って、フレーデリクセンは言葉を重ねた。
「これは命令ではない。断ったからといって、屋敷を出て行けなどというつもりもない。君がアルロの気持ちに応えてもいいと思うようになったのなら、そのときは今の言葉を思い出してほしい」
「あ、あの……」
ノラは昨日アルロに話したことを説明しようと口を開いたのだが、フレーデリクセンは口元に笑みを浮かべた。
「今すぐ答えを出さなくていい。ときが来たら聞かせてくれ」
去っていく侯爵の背中を目で送り、ノラは小さく息を吐いた。
確かにアルロは可愛いが、恋というより、弟みたいな存在だ。
侯爵のいうそのときとやらが、いつかやって来るのだろうか。
恋を知らないノラにはまだわからなかった。
恋……。
ノラが恋と考えるとき、いつも母と母の愛した父とのことを思い浮かべるのだけれど、ノラは父の顔を知らない。
うまく想像ができない代わりに、ジョコラータ夫妻の姿が頭に浮かぶ。
アルロを親しく思うこの気持ちの先に、あの夫妻のような深く互いを思い合うものが生まれるだろうか。
いつか、わたしはアルロ様に恋をするのかしら……?
ノラにはまだわからなかった。
午後、空を漂っていたかすみ雲は春風に流されて、気持ちのいい快晴になった。
「ノラ、散歩に行こう!」
「はい、王子様」
仲良く手をつないで屋敷を出て行く姿を見送って、夫妻は穏やかな時間を過ごしていた。
「レキュリテ、君はまだノラのことを認められないだろうけど……」
「いいえ」
「……え?」
レキュリテは夫を見ると、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「ああいったのは、あなたがかつて愛した人に嫉妬していたからですわ。わたくしもノラはいい子だと思います。今はあなたと同じような思いを、あの子にはさせたくないとも思います」
「レキュリテ……」
「未来がどうなるかはわかりませんが、あの子にとって幸せな結婚をさせてあげたいと思いますわ」
夫婦は優しいキスをした。
お互いに寄せる信頼を感じる至福のキスだった。
湖のほとりでは、アルロとノラがは春を探して歩いていた。
「ノラ、見ろ、すみれだ」
「わあ、可愛いですね」
ふと、アルロは尋ねてみたくなった。
「ノラは、どうしてこのフリューゲルに来たんだ? 街へ行く道からは外れるだろう?」
「それは、母を思い出したからでございます」
「母君を?」
少女が少し遠い眼をした。
ノラには、もうずいぶん昔のことのように思える。
「わたしの母は素晴らしい人でした。病で亡くなるまで、私に多くのことを教えてくれました。母はわたしに五つの口伝を残しました。そのおかげで、わたしはこれまでやってこれたのです」
「五つの口伝?」
「一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。
二つ、つらいときこそ、相手を思いやりなさい。
三つ、欲しければまず与えなさい。人を救うことは、自分を救うことと同じです。
四つ、あなたのためにという言葉に注意しなさい。あなたにとって本当に大切なことは、あなたにしかわからないのだから。
五つ、子どもは幸せになりなさい。子どもが幸せならば、親はいつだって幸せなのだから」
「ま、待て! いっぺんには覚えられん」
「また教えて差し上げますよ。初めの三つを祖母から教わったものだそうです。五つ目は祖母が子どものとき自分の母親から教わったものだそうです」
「それはすごいな。家訓みたいなものだな。すると、四つ目は?」
「それは母が作った口伝です。わたしもどういう意味なのかまだよくわからないのですが」
「そうか、なるほど、よし……。一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。二つ、つらいときこそ……、ええと……」
ノラはくすりと笑った。
「王子様、覚えなくともまた教えて差し上げますよ」
アルロは首を振って見せた。
「僕は覚えたいのだ! お前の母君の伝えてきた口伝を、僕はちゃんと覚えたいのだ!」
少年は少しでもノラに近づきたい一心なのだった。
ノラはアルロが覚えるまで何度も復唱してやった。
その日、夕食の席では、食事が給仕されるのを待っている間もアルロはぶつぶつとやっていた。
「一つ、人のためになりなさい。そうすれば、おのずと道はひらけます。二つ、つらいときこそ、相手を思いやりなさい。三つ、欲しければまず与えなさい。人を救うことは、自分を救うことと同じです。四つ……」
「アルロ、なにをぶつぶつ唱えているの?」
レキュリテの言葉に、アルロは顔を上げた。
「ノラから教わったのです。ノラが母君から教わった口伝だそうです。全部で五つあるのですが……。ええと四つ……子どもは幸せになりなさい。子どもが幸せならば、親はいつだって幸せなのだから……。いや、これは五つ目だ」
「アルロ、今なんといった?」
フレーデリクセンの声がわずかに上ずった。
「五つの口伝です。初めの三つは母君の母君が、五つ目はそのまた母君が……。ああ、だめだ、また四つ目が思い出せない。あんなにノラに教えてもらったのに」
信じられない思いで、フレーデリクセンは息子の言葉を聞いていた。
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確かに、最初の三つは母親から、もう一つは祖母からだと。
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「フレーデリクセン様。つらいときこそ相手を思いやるのです。フレーデリクセン様の心の中には、無限の泉がございます。必要とする人にいくらでも水を与えて差し上げるのです。あげてもあげても、水は湧いてきます。いつか、もうこれ以上水を汲めない。水が湧き出ない。そう思う日が来たら、周りを見渡してごらんなさい。きっと、知らぬ間にご自分自身が癒され慈しまれていることに気づくはずです」
フレーデリクセンは思わず席を立ち、大声をあげていた。
「ノラ!」
パンの籠を運んでいたノラは、びっくりして思わずトングを落としてしまった。
「はい……」
フレーデリクセンの目の前には、淡い緑色の目をした少女がいる。
どうして今まで気付かなかったのだろう。
あの人と同じ目をしているのに……!
フレーデリクセンの顔色に――困惑が、贖罪が、哀愁が、そして行き場のなかった愛慕が溢れ出した。
「す、すまない……。私は少し……気分がすぐれない……」
ふらふらとフレーデリクセンが食堂を後にした。
不可解な顔をした面々を残して。……
「わたくしが行って様子を見てきますわ……」
すぐにレキュリテが後を追った。
アルロが心配そうな顔でノラを見上げた。
「どうしたのだろう、父上は……」
「どうされたのでしょう……」
ノラもアルロも、彼の中の嵐をなにひとつ知るよしがなかった。
レキュリテがドアを開けると、フレーデリクセンは崩れるようにベッドに突っ伏していた。
大きな体がぶるぶると小さく震えている。
こんな夫の姿を見たことがなかった。
「ど……どうされたのですか……」
「レキュリテ……」
フレーデリクセンの顔は真っ青だった。
レキュリテがそっと触れると、フレーデリクセンは妻に抱きついた。
「私を……、私を、罰してくれ!」
「あ、あなた……! どうされたのです」
フレーデリクセンは唇まで青くなったその顔で、彼だけが知る真実を打ち明けた。
消えたメイドの名はノラ、正確にはノラ・リザベス。
彼女は自分と同じ名前を娘につけたのだ。
ノラ・ジョイ。
ジョイはおそらく、彼女の母親の旧姓か何かだろう。
彼女自身はきっと別人の、例えば母親かなにかの名を名乗って暮らしていたに違いない。
いくら探しても見つからないわけだ。
四つの口伝は、彼女の口癖だった。
彼女のその言葉に、フレーデリクセンは何度救われたことだろう。
心折れそうな時、何回励ましをもらっただろうか。
忘れるはずがなかった。
フレーデリクセンの心の中に息づいた、四つの口伝。
母から娘へ、そしてまた母から娘へと口伝された生きる知恵。
「ノラは、私の娘だ……!」
運命が、こんな形で現実を運んでくるとは……!
我が息子アルロが愛しているのは、紛れもない我が娘。
そうと知らずにアルロが思いを寄せているのは、血をわけた姉だ。
身分違いの恋という自分と同じ道を行くゆえに、息子の恋を心から応援しようと思っていた。
それなのに、自分がまさかその絶縁の元凶になろうとは。
なんという皮肉。なんという皮肉……!
「私を罰してくれ……、罰してくれ、レキュリテ……!」
嘆きさいなむ夫を胸に抱き、レキュリテにできることは、罪を裁くことでも罰を与えることでもなく、ただ共に許しを乞うことだけだった。
***
嵐の一夜が過ぎ去り、フレーデリクセンはひどく疲れていた。
唐突な勧告を彼はメイドに言い渡した。
「ノラ、君に行って欲しいところがある。私の知人で、君のような優秀な使用人を求めている。すぐ発って欲しい。もちろん、俸給はここと同等を保証する」
フレーデリクセンは父と名乗ることを先送りにした。
メイドのノラは面食らうだろうが、それでも後で説明すれば理解してもらえるはずだ。
それよりも、今は速やかにふたりの間に距離を置き、アルロの心が静まることを祈るだけだ。
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アルロは顔を真っ赤にして怒っていた。
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アルロは答えない。
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「どこへも行かせない! 父上が突然、お前を都の知人のもとにやるといいだした! 僕は許さない! 行くな、行くなよ! ノラ!」
フレーデリクセンはまだ真相を伝えていなかった。
できればアルロにはなにも知らせずに、ひとまずノラと離れさせたかったからだ。
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アルロが反発するのは仕方のないことだった。
「王子様……」
息巻くアルロにノラは目線を合わせた。
「王子様……。わたしも突然のことで驚いております。でも、旦那様がそうしろというのなら、わたしはそうするしかありません。きっとなにかお考えがあるのでしょう」
「僕はノラにそばにいてほしいんだ!」
「わたしもおそばを離れるのは大変さみしいです。しかし俸給をお支払いくださっているのは、アルロ様でなく旦那様でございます。旦那様が他へ移れといわれるのならそうするほかありません」
「ノラ!」
堪らずアルロはノラに抱きついた。
子どもの体温を感じながら、ノラはアルロ後ろ髪をなでた。
「王子様、いえアルロ様……。わたしの母の口伝を覚えておいでですか? つらいときこそ相手を思いやりなさい。母はわたしにいいました。どんなにつらく悲しいことが起こっても、相手を思いやる心を忘れてはだめだと。こちらからはわからなくても、相手にも立場や考えややんごとなき理由があるものです。旦那様のことですから、きっとなにか深いお考えがあるのでしょう。きっとアルロ様を思ってのことですよ」
アルロはやや落ち着きを取り戻したものの、今度は今にも泣きそうに顔をゆがめている。
「お前の母君はどうしてそんなに寛大なのだ」
「わたしも母に対してそう思ったものです」
ノラは笑った。
アルロは納得してはいないが、少しは気が治まったらしい。
ノラは服の中にしまっていたネックレスを取り出して見せた。
「これをご覧ください。これが母です」
アルロが見づらそうにしたので、首から外して手渡した。
「きれいだ」
アルロのつぶやきに、ノラはまた笑った。
「母の口伝を聞いたからには、母の口伝を守りませんと。わたしが怒られてしまいます」
アルロは少し笑って見せた。
そのとき、アルロはふとしたことに気づく。
ノラのペンダントネックレス。
こういうものはどこかで見たことがある。
宝石店でたまにこうした細工ものが出ていることがある。
確か、開いたところの絵を押すと……。
――カチリ。
次の瞬間、アルロは心臓が止まる気がした。
なぜ……ここに……。
アルロの中で、高速に点と点が結ばれていく。
父の愛した、ノラと同じ名の女性。
母の口伝。
四つそして五つの。
こんなふうに突然の別れを必要としたのは……。
アルロにだって、そんなことは明白だった。
ノラは驚いたようにアルロの手元を見つめた。
「アルロ様、それ、どうやって開けたのですか?」
その言葉に、アルロはノラがそこにあるものを見ていないことを悟った。
「ちょっと、見せてもらえますか、アルロ様」
衝動のまま、アルロは駆け出していた。
目の前にある、若き日の父の肖像を消し去りたい、ただその一心だった。
ノラにはまったく予想できない行動だった。
アルロが湖に向かってペンダントを力強く放り投げた。
「アルロ様っ!」
ノラの声は悲鳴に近かった。
空中にきらりと光って、水音を立て消えた。
波紋が、余韻のように淵へと延びていく。
「アルロ様! どうして……どうして!」
アルロは振り向くことなく、そのまま屋敷へ駆けて行ってしまった。
茫然としたまま、ノラは水面に映る春の山を見ていた。
***
屋敷へ駆け戻ったアルロが一番始るにしたことは父を探すことだった。
その姿を見つけるや否や、アルロは父親に飛び掛かった。
「ノラが僕の姉上だ!」
第一声に、フレーデリクセンはすべてを覚悟した。
「どうして! ひどい! 父上は、だからノラをよそへやるといい出したんだ!」
癇癪をおこした息子を父親は必死に抱きかかえた。
「ノラのペンダントには、父上の若いころの絵が入っていた! ノラの母君の裏側に! ノラは知らなかった! ペンダントの開け方を知らなくて、父上が、あなたが父だなんてノラは知りもしなかった!」
アルロの目には、見る間に涙が溜まり、ぽろぽろと溢れ出した。
息子は固く握ったこぶしで、父親を激しくたたいた。
「父上のせいだ! 父上の!」
アルロの声が鳴き声に変わっていった。……
途方に暮れたノラが立ち上がったのは、湖の波紋が消え、胸にざわめく波がようやく静まりかえった後だった。
簡単ではなかった。
……そう、たぶん、彼もそうせざるを得ないほど、苦しかったのだ。
理由はわからない。
わがままな王子様は最後までわがままだったのだ。
ノラはそう思ってごく小さな苦笑を浮かべた。
母の唯一の形見。
本当に泣きたくなる。
それに、裏面が開くようになっていたことは知らなかった。
あそこにはなにが入っていたのだろう。
まさか父?
それも今となってはわからない。
湖に沈んだ母の形見。
無限の泉を教えてくれた母には、ふさわしい場所のようにも思えた。
「さよなら……」
さよなら、お母さん。
もう二度と母の顔を見ることはできない。
二度と。
屋敷に戻ると、ノラは眠ってしまったというアルロの部屋を訪れた。
寝ているかに見えたアルロは、実は眠ってはいなかった。
ノラに会わせる顔がなく、そのまま眠たふりをし続けた。
「アルロ様、お別れを言いに来ました……」
ノラはアルロの髪をなでた。
何度となく彼の寝顔を眺め、その髪をなでてきたけれど、もうこれが最後だ。
「なにがアルロ様を苦しめているのでしょう。わたしにはわかりません。それをアルロ様の口から窺うチャンスも今は頂けそうにありません。いつか、聞かせてくださいませね。またどこかでお会いできる日を楽しみにしております……」
アルロの手にはノラが贈ったサシェが握りしめられていた。
ノラはその頑なな手に触れ、そっと毛布の中にしまった。
「さようなら、王子様……」
ノラが部屋を出ていった。
アルロは泣き出しそうになるのを堪えて、唇をかんだ。
窓の外で、ノラを乗せた馬車が出発したのがわかった。
その音が聞こえなくなるまで、アルロはベッドの中で固くなっていた。
屋敷に響くアルロの泣き声を、夫妻も使用人たちも黙って聞くしかなかった。
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