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【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
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その次の日、パロスとチュレがザスハーディの裂け目の住まいに戻ってきた。
昨日レニーは必死に目を冷やしたおかげで、昨夜泣いたことはパロスにはわからなかった。
だが、レニーがどこかおかしい。
「パロス兄さん、いつになったらシャータシアの儀式ができるの? わたし、早く一人前になりたいわ」
以前にもまして儀式のことを尋ね、さらには、パロスのそばを離れようとしなくなった。
これまでは、パロスの方にもどこか遠慮があり、進んでレニーに触れるということは多くなかったが、今はレニーの方から寄ってきて、隣に座ったり、腕を組んだりするのだった。嫌がるのもおかしいので、パロスはされるがままに受け入れているが、イサイアスの手前、気まずくもあった。
そんないびつな関係が続いたある日、パロスが町に買い出しに行くことになった。
レニーに加え、イサイアスとアルロも同行することにした。
再びゴンドラに乗り、今度は地上へ登っていくのは、なかなか期待感が胸に迫った。
いざ地上に降りてみると、開けた空がなんともいえない解放感だ。
「やっぱり、地上はいいなぁ。太陽ってこんなに温かかったんですね」
「そうだな。崖の下も悪くはないが、祖国につながった道を歩けるのはいい」
パロスは口笛で呼び寄せておいた大トナカイのパシュとそりをつないだ。
同じく口笛を吹くと、チュレが崖の下に戻っていった。
四人を乗せ、そりは町へ向う。久し振りの日光浴を存分に楽しんだころ、町についた。
「ヴェルハーストさんからの連絡がきていないかを確認したら、後の時間は自由にしよう。俺達は、取引と買い物が終わったら、この店で食事をとる。三時には町を出たいから、それまでにはここに戻ってくれ」
「ああ、わかった」
郵便局には、ヴェルハーストからの手紙が届いていた。
内容は、まだめぼしい収穫はないということと、ユーフォニアム国の近況などが記されていた。
「僕にも父上から手紙がきてました」
アルロあての手紙は、先に知らせた内容と、ヴェルハーストが祖国に持ち帰った内容とを合わせての返信だった。合わせて送られてきた小包の中には、母レキュレテお手製のジンジャーシロップと、キルトが入っていた。
アルロはすぐさまそれをレニーに差し出した。
「まあ……、なんて素敵な縫物かしら。いただけないわ、アルロさん」
「もらってください。これは、母がレニーさんのためにと送ってよこしたんです」
レニーは小首をかしげた。
「わたしのため? どうして?」
「あっ……。ええと、えっと。つまり、お礼に、日ごろのお礼に。レニーさんと、パロスさんに」
アルロはとっさにごまかした。レニーはいまいちよくわからないでいたが、かわりにパロスが受け取った。
「悪いな、アルロさん。ありがたく受け取らせてもらう」
「はは、よかった」
昨日レニーは必死に目を冷やしたおかげで、昨夜泣いたことはパロスにはわからなかった。
だが、レニーがどこかおかしい。
「パロス兄さん、いつになったらシャータシアの儀式ができるの? わたし、早く一人前になりたいわ」
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そんないびつな関係が続いたある日、パロスが町に買い出しに行くことになった。
レニーに加え、イサイアスとアルロも同行することにした。
再びゴンドラに乗り、今度は地上へ登っていくのは、なかなか期待感が胸に迫った。
いざ地上に降りてみると、開けた空がなんともいえない解放感だ。
「やっぱり、地上はいいなぁ。太陽ってこんなに温かかったんですね」
「そうだな。崖の下も悪くはないが、祖国につながった道を歩けるのはいい」
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同じく口笛を吹くと、チュレが崖の下に戻っていった。
四人を乗せ、そりは町へ向う。久し振りの日光浴を存分に楽しんだころ、町についた。
「ヴェルハーストさんからの連絡がきていないかを確認したら、後の時間は自由にしよう。俺達は、取引と買い物が終わったら、この店で食事をとる。三時には町を出たいから、それまでにはここに戻ってくれ」
「ああ、わかった」
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内容は、まだめぼしい収穫はないということと、ユーフォニアム国の近況などが記されていた。
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「もらってください。これは、母がレニーさんのためにと送ってよこしたんです」
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「わたしのため? どうして?」
「あっ……。ええと、えっと。つまり、お礼に、日ごろのお礼に。レニーさんと、パロスさんに」
アルロはとっさにごまかした。レニーはいまいちよくわからないでいたが、かわりにパロスが受け取った。
「悪いな、アルロさん。ありがたく受け取らせてもらう」
「はは、よかった」
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