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【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~

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 返事だけは真面目にしたものの、その日のアルロはただ無尽蔵に流れていくカヴァキーニョ町の人々を眺めているだけだった。
 現在はビリンバ国の属領とはいえ、旧コリヤーレーン領では、今もコリヤーレーン語が主流だ。巻き舌の発音が特徴のコリヤーレーン語が行きかう中で、もしノラがいたとしたら、アルロはすぐわかるに違いないと思っていた。

(帰ってくるわ。私の家は、ここだもの)

 そう言ってほほ笑む姉の姿が、ありありと思い出される。
 アルロはふっと目を閉じた。

(もし、姉上の声が聞こえたなら、僕はきっと聞き間違えたりしない)

 雑踏とコリヤーレーン語が、右に左にざわざわとアルロの体を通り抜けていく。

(姉上……、ノラ姉様、いるなら、僕に呼び掛けて)

 アルロはじっと答えを待ったが、そんな奇跡のようなことは起こらなかった。
 そっと目を開けると、そこはやはり、異国の雑踏だった。
 どん、と横から押されて、アルロはつんのめった。
 押された方を見ると、白い毛皮の帽子とベストに身を包んだ体躯のいい若い男がアルロを見ていた。
 町でぼんやりしていたアルロが悪かったのだ。
 若い男はアルロを不思議そうに見ただけでなにも言わず、近くの青いそりに乗り込んだ。そりにはたくさんの荷物が積み込まれていた。きっと近くの村から買い出しに来ているのだろう。アルロはその見栄えのする男の背中をぼうっと見ていた。
 そのときだった。
 男の向こう側、そりの奥に座っている人影が振り向いたのは。
 その顔を見間違えるはずがなかった。

「あ、姉上……!」

 思わず声を上げたが、男はトナカイに鞭をくれ、出発した。今更ながら、青いそりにつながれていたトナカイは、立派な角を持つ大きなトナカイだった。

「待って、待って! 姉上!」

 アルロは慌てて追いかけたが、行きかう人の波にはばまれ、そりに追い付くことはできなかった。
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