33 / 139
【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
(11)
しおりを挟む
イサイアスはきっとアルロをにらんだ。
「ノラは生きている。天がノラの命を召し上げるというのなら、その前に召し上げるべき命がこの世には無数にあるだろう。俺はノラを死んでいるなどという戯言は信じない。いずれそのときが来るとしても、それは今じゃない。ノラは生きている。生きて、俺が迎えに来るのを待っている」
イサイアスの迷いのない目に、救われるような気がしながらも、それでもアルロは不安をぬぐえなかった。
「イサイアス王子も、アルロ君も、希望を持つことはいいことです。ですが、持ちすぎないことですよ。希望は人生をほんのちょっぴり輝き照らすから、希望というのです。大きな希望は、身を滅ぼします」
イサイアスはふんと鼻を鳴らした。
「お前はその大げさな物言いを直さなければ、いずれ身を滅ぼすぞ」
そう言ったすぐあと、イサイアスは王都に向かって歩みを進めることを、一行に伝えた。
さらに四日の旅路を経て、一行は旧コリヤーレーン国王都であるカヴァキーニョへやってきた。
カヴァキーニョは、古都というにふさわしい雰囲気を持つ町だ。昔からの石造りの建物や要塞が、そのまま町の人々の生活区になっている。今は雪に覆われて寒々しいが、春になれば黄色い野花がどこかかしこと咲き、なんともいえぬ情緒が溢れる街並が続く。
一行はさっそく、聞き込みを開始した。
班とエリアを決めると、町のあちこちを探った。犬の世話係を除いて、人員総出で町中を、とっぷり日が暮れるまで聞きまわった。
残念ながら、この町でもめぼしい情報は得られなかった。
しかし、イサイアスは一行を前にこう言った。
「まだ、調べ切れていない。明日もう一度聞き込みをしよう。周辺の村にも、見知らぬ娘が現れていないか聞くんだ。なんといってもここは王都。周辺の町との行き来には必ずこの町を通るはずだ」
一晩明けて、男たちは再び町へ繰り出したが、その日も結果は同じだった。
その夜、イサイアスはもう一日王都で情報を集めると宣言した。
男たちはこれ以上どこへ行って誰に何を聞いても同じだと思ったが、文句を言うものはいなかった。
ヴェルハーストさえも、イサイアスが自らあきらめるのを待っているのだろう。自分からはなにも言わなかった。
そうした中、アルロはまったく変わらない状況に、次第に諦めの気持ちが強くなりかけていた。
翌朝、町へ出るアルロの足取りは重く、視線は自然と下を向いていた。
イサイアスは依然変わらぬ熱量で皆に呼び掛けた。
「なんども同じ労を負わせて悪いが、俺達が人探しをしていることはもう町中に知れ渡ったはずだ。そろそろきっと、町の人からなにかしらの情報が聞けるはずだ。みな、懲りずによく聞いて回ってくれ」
「ノラは生きている。天がノラの命を召し上げるというのなら、その前に召し上げるべき命がこの世には無数にあるだろう。俺はノラを死んでいるなどという戯言は信じない。いずれそのときが来るとしても、それは今じゃない。ノラは生きている。生きて、俺が迎えに来るのを待っている」
イサイアスの迷いのない目に、救われるような気がしながらも、それでもアルロは不安をぬぐえなかった。
「イサイアス王子も、アルロ君も、希望を持つことはいいことです。ですが、持ちすぎないことですよ。希望は人生をほんのちょっぴり輝き照らすから、希望というのです。大きな希望は、身を滅ぼします」
イサイアスはふんと鼻を鳴らした。
「お前はその大げさな物言いを直さなければ、いずれ身を滅ぼすぞ」
そう言ったすぐあと、イサイアスは王都に向かって歩みを進めることを、一行に伝えた。
さらに四日の旅路を経て、一行は旧コリヤーレーン国王都であるカヴァキーニョへやってきた。
カヴァキーニョは、古都というにふさわしい雰囲気を持つ町だ。昔からの石造りの建物や要塞が、そのまま町の人々の生活区になっている。今は雪に覆われて寒々しいが、春になれば黄色い野花がどこかかしこと咲き、なんともいえぬ情緒が溢れる街並が続く。
一行はさっそく、聞き込みを開始した。
班とエリアを決めると、町のあちこちを探った。犬の世話係を除いて、人員総出で町中を、とっぷり日が暮れるまで聞きまわった。
残念ながら、この町でもめぼしい情報は得られなかった。
しかし、イサイアスは一行を前にこう言った。
「まだ、調べ切れていない。明日もう一度聞き込みをしよう。周辺の村にも、見知らぬ娘が現れていないか聞くんだ。なんといってもここは王都。周辺の町との行き来には必ずこの町を通るはずだ」
一晩明けて、男たちは再び町へ繰り出したが、その日も結果は同じだった。
その夜、イサイアスはもう一日王都で情報を集めると宣言した。
男たちはこれ以上どこへ行って誰に何を聞いても同じだと思ったが、文句を言うものはいなかった。
ヴェルハーストさえも、イサイアスが自らあきらめるのを待っているのだろう。自分からはなにも言わなかった。
そうした中、アルロはまったく変わらない状況に、次第に諦めの気持ちが強くなりかけていた。
翌朝、町へ出るアルロの足取りは重く、視線は自然と下を向いていた。
イサイアスは依然変わらぬ熱量で皆に呼び掛けた。
「なんども同じ労を負わせて悪いが、俺達が人探しをしていることはもう町中に知れ渡ったはずだ。そろそろきっと、町の人からなにかしらの情報が聞けるはずだ。みな、懲りずによく聞いて回ってくれ」
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
生贄姫の末路 【完結】
松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。
それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。
水の豊かな国には双子のお姫様がいます。
ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。
もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。
王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。
昨日の敵は今日のパパ!
波湖 真
児童書・童話
アンジュは、途方に暮れていた。
画家のママは行方不明で、慣れない街に一人になってしまったのだ。
迷子になって助けてくれたのは騎士団のおじさんだった。
親切なおじさんに面倒を見てもらっているうちに、何故かこの国の公爵様の娘にされてしまった。
私、そんなの困ります!!
アンジュの気持ちを取り残したまま、公爵家に引き取られ、そこで会ったのは超不機嫌で冷たく、意地悪な人だったのだ。
家にも帰れず、公爵様には嫌われて、泣きたいのをグッと我慢する。
そう、画家のママが戻って来るまでは、ここで頑張るしかない!
アンジュは、なんとか公爵家で生きていけるのか?
どうせなら楽しく過ごしたい!
そんな元気でちゃっかりした女の子の物語が始まります。
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
ローズお姉さまのドレス
有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。
いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。
話し方もお姉さまそっくり。
わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。
表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成
GREATEST BOONS+
丹斗大巴
児童書・童話
幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。
異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)を生みだし、規格外のインベントリ&ものづくりスキルを使いこなす! ユニークスキルのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅する、ほのぼの異世界珍道中。
便利な「しおり」機能、「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる