29 / 53
【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
(7)
しおりを挟む
捜索隊が村を出発した。
その一行を見つめながら、父と息子はただただノラの無事の帰りを祈るばかりだった。
ふと、アルロが頭を巡らせて、父を振り返った。
「あの、父上、さっき、ヴェルハースト候が気になることをおっしゃっていましたが」
「なんだ」
「国境地帯の込み入った歴史とか……」
「ああ……。あの森の向こうは旧コリヤーレーン国だったことはお前も知っているな」
「はい。今はビリンバ国の属領ですが、二百年ほど前まではコリヤーレーン国王が治めていました」
「そのコリヤーレーン国の歴史をさかのぼると、いくつかの小国家や部族が土地を分け合っていたのだよ。その種族や部族は、独自の文明や文化を持っていたといわれている。あるいは、隠された財宝があるとも」
「隠された財宝?」
「いや、今ではもうおとぎ話のようなものだよ。私もヴェルハースト候に言われるまで思い出しもしなかった」
「まさか、ヴェルハースト候はその財宝を目当てに?」
「さすがにそんなことはないと思うが、いかんせん、ヴェルハースト候はなにを考えているのかわからないお方だからな」
「ええ、あの方は……、ときどき敵なのか味方なのかわからなくなります」
親子はぐんぐん遠くへ伸びていくそりの跡に、再び視線を送った。
***
雪の降り続く森の中、ノラは一晩さ迷い歩いた。
もはや正しい判断能力はノラにはなかった。
ただ、動き続けていなければ、死ぬに違いないという思いだけで歩き続けていた。
森の木々の間から新しい朝の光が差し込んできた。
その光に導かれるように、ノラは腰まで雪に埋もれながらも、前に前にと進んでいた。
氷の粒がノラの髪やまつげできらめいていた。
手足はもはやただの木の棒のようだ。
(イサイアス……)
それでも、ノラはときどき左手の指輪を確認した。
赤イサイアスゴが目に入れば、ノラにはそれだけでどこからか力が湧いて出た。
(帰るわ、帰るわ、イサイアス……)
その一行を見つめながら、父と息子はただただノラの無事の帰りを祈るばかりだった。
ふと、アルロが頭を巡らせて、父を振り返った。
「あの、父上、さっき、ヴェルハースト候が気になることをおっしゃっていましたが」
「なんだ」
「国境地帯の込み入った歴史とか……」
「ああ……。あの森の向こうは旧コリヤーレーン国だったことはお前も知っているな」
「はい。今はビリンバ国の属領ですが、二百年ほど前まではコリヤーレーン国王が治めていました」
「そのコリヤーレーン国の歴史をさかのぼると、いくつかの小国家や部族が土地を分け合っていたのだよ。その種族や部族は、独自の文明や文化を持っていたといわれている。あるいは、隠された財宝があるとも」
「隠された財宝?」
「いや、今ではもうおとぎ話のようなものだよ。私もヴェルハースト候に言われるまで思い出しもしなかった」
「まさか、ヴェルハースト候はその財宝を目当てに?」
「さすがにそんなことはないと思うが、いかんせん、ヴェルハースト候はなにを考えているのかわからないお方だからな」
「ええ、あの方は……、ときどき敵なのか味方なのかわからなくなります」
親子はぐんぐん遠くへ伸びていくそりの跡に、再び視線を送った。
***
雪の降り続く森の中、ノラは一晩さ迷い歩いた。
もはや正しい判断能力はノラにはなかった。
ただ、動き続けていなければ、死ぬに違いないという思いだけで歩き続けていた。
森の木々の間から新しい朝の光が差し込んできた。
その光に導かれるように、ノラは腰まで雪に埋もれながらも、前に前にと進んでいた。
氷の粒がノラの髪やまつげできらめいていた。
手足はもはやただの木の棒のようだ。
(イサイアス……)
それでも、ノラはときどき左手の指輪を確認した。
赤イサイアスゴが目に入れば、ノラにはそれだけでどこからか力が湧いて出た。
(帰るわ、帰るわ、イサイアス……)
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。
【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」
みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」
ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。
「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」
王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました
杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」
王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。
第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。
確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。
唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。
もう味方はいない。
誰への義理もない。
ならば、もうどうにでもなればいい。
アレクシアはスッと背筋を伸ばした。
そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺!
◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。
◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。
◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。
◆全8話、最終話だけ少し長めです。
恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。
◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。
◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。
◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03)
◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます!
9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる