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【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
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翌朝、ノラたちが出立の準備をしていると、エチカとバロムウードが部屋を訪ねてきた。
バロムウードの手には、王家の紋章の入ったあの赤い帽子があった。
エチカはパロムウードに目で指示し、ノラの前に差し出させた。
「ノラ、プリーズ、受け取る。感謝、しるし」
「まあ、エチカ皇女様……」
すらりと長いオナガドリの美しい羽根の付いた、王室特注の赤い毛皮帽子。
ノラは気後れしてしまったが、エチカが盛んに勧めるので、三度目には丁重に受け取った。
「ノラ、かぶる、プリーズ。あなた、にあう、レッド」
かぶってみると、確かにノラに赤色がよく似合った。
ビリンバ語とシタール語、そしてユーフォニアム国を多彩に織り交ぜ、ノラとエチカは最後の別れを惜しんだ。
エチカにとって、ノラの厚意は天からの助けであり、無事にベーストン女学園に着くための、本当に命綱となったのだ。ノラが渡したドレスやキルトは皇女の体を温め、宝石類は警護を雇うのに充分なお金になるはずだ。バロムウードの、新しいジャケットとシャツも買えるだろう。
「ビリバ・ダン・ラウド・リア。あなたの、ハート、わすれない。ネバー、フォゲット、ユー」
「わたしも忘れません」
ノラにとっても、初めての外国人であり、ベーストン女学園へ行かなくことになった今や、貴族や王室の雰囲気を知ることのできる貴重な機会をエチカが提供してくれたとも言えた。
言葉はつたなくとも、互いの瞳で友愛を物語った。恐れ多くて口にはできなかったが、ノラはエチカと心の通じる友達になれそうだとさえ感じていた。
「エチカ皇女様、どうかご無事で」
「オーケー、ユー、トゥー、ノラ」
互いにとって強い印象をもたらし、短くも濃いつながりを残して、二人は別れを告げた。
コーディが馬に鞭を打つと、馬車はゆっくりと動き出した。
馬車の窓から顔を出し、ノラが振り返ると、宿の戸口まで見送りに来ていたエチカとバロムウードが見えた。
皇女と従者は、馬車が見えなくなるまで、そこで見送り続けていた。
ふたりの姿が見えなくなって、窓を閉めたノラは、かぶっていた帽子を頭から外し、その滑らかな毛皮の手触りと白と黄色が交互に重なる柔らかな羽根を楽しんだ。
「こんなに素敵な帽子、本当に頂いてよかったのかしら。なんてきれいな羽根。シェラも触ってみて、すごく柔らかなの」
「ふん! こちらが贈った品々の方が、総額では上回っていますよ。それでも、帽子にシタール王家の紋章が入っているということが、ふん、まあ、救いと言えばそうですね。オナガドリはシタール王家の証とされていて、シタールでは、王族以外は身に着けてはならないものとされています。その帽子を見れば、トランクケースの中身がすっからかんなになったことを、奥様も旦那様も、まあ……、納得はしなさるでしょうよ」
「あら、じゃあ、もしかしてわたし、とっても素晴らしいご褒美をいただいたのでは?」
「まあ、そういう見方もできますね。でも、あの真珠のネックレスまで差し上げなくても、帽子はくださったかもしれませんよ……」
シェラの頭の中からは数字が抜けきらないのだった。
マンドロン街を出て半日、地には相変わらず十センチほどの雪が積もっているが、まだそりを使うほどではない。
このまま晴れが続いて大雪に捕まる前にユーフォニアムに帰れればいいのだが、あまり楽観はしていられない。コーディは肌に突き刺す冷気を感じながら思った。
太陽が真上に上ったところで、馬車は止まった。
素早く窓を開けて、シェラが空を仰いだ。
「さあ、ここでいったん休憩ですね。コーディ、手早く火を沸かしてくださいな。あんまりのんびりしたくありませんからね」
「わかったよ。シェラ、ジンジャーシロップを用意してくれるかい」
「それなら皇女様に全部差し上げてきましたよ」
「ああ、そうだったか……」
ノラはしまった、という顔をして、トランクのひとつを掴み上げた。
バロムウードの手には、王家の紋章の入ったあの赤い帽子があった。
エチカはパロムウードに目で指示し、ノラの前に差し出させた。
「ノラ、プリーズ、受け取る。感謝、しるし」
「まあ、エチカ皇女様……」
すらりと長いオナガドリの美しい羽根の付いた、王室特注の赤い毛皮帽子。
ノラは気後れしてしまったが、エチカが盛んに勧めるので、三度目には丁重に受け取った。
「ノラ、かぶる、プリーズ。あなた、にあう、レッド」
かぶってみると、確かにノラに赤色がよく似合った。
ビリンバ語とシタール語、そしてユーフォニアム国を多彩に織り交ぜ、ノラとエチカは最後の別れを惜しんだ。
エチカにとって、ノラの厚意は天からの助けであり、無事にベーストン女学園に着くための、本当に命綱となったのだ。ノラが渡したドレスやキルトは皇女の体を温め、宝石類は警護を雇うのに充分なお金になるはずだ。バロムウードの、新しいジャケットとシャツも買えるだろう。
「ビリバ・ダン・ラウド・リア。あなたの、ハート、わすれない。ネバー、フォゲット、ユー」
「わたしも忘れません」
ノラにとっても、初めての外国人であり、ベーストン女学園へ行かなくことになった今や、貴族や王室の雰囲気を知ることのできる貴重な機会をエチカが提供してくれたとも言えた。
言葉はつたなくとも、互いの瞳で友愛を物語った。恐れ多くて口にはできなかったが、ノラはエチカと心の通じる友達になれそうだとさえ感じていた。
「エチカ皇女様、どうかご無事で」
「オーケー、ユー、トゥー、ノラ」
互いにとって強い印象をもたらし、短くも濃いつながりを残して、二人は別れを告げた。
コーディが馬に鞭を打つと、馬車はゆっくりと動き出した。
馬車の窓から顔を出し、ノラが振り返ると、宿の戸口まで見送りに来ていたエチカとバロムウードが見えた。
皇女と従者は、馬車が見えなくなるまで、そこで見送り続けていた。
ふたりの姿が見えなくなって、窓を閉めたノラは、かぶっていた帽子を頭から外し、その滑らかな毛皮の手触りと白と黄色が交互に重なる柔らかな羽根を楽しんだ。
「こんなに素敵な帽子、本当に頂いてよかったのかしら。なんてきれいな羽根。シェラも触ってみて、すごく柔らかなの」
「ふん! こちらが贈った品々の方が、総額では上回っていますよ。それでも、帽子にシタール王家の紋章が入っているということが、ふん、まあ、救いと言えばそうですね。オナガドリはシタール王家の証とされていて、シタールでは、王族以外は身に着けてはならないものとされています。その帽子を見れば、トランクケースの中身がすっからかんなになったことを、奥様も旦那様も、まあ……、納得はしなさるでしょうよ」
「あら、じゃあ、もしかしてわたし、とっても素晴らしいご褒美をいただいたのでは?」
「まあ、そういう見方もできますね。でも、あの真珠のネックレスまで差し上げなくても、帽子はくださったかもしれませんよ……」
シェラの頭の中からは数字が抜けきらないのだった。
マンドロン街を出て半日、地には相変わらず十センチほどの雪が積もっているが、まだそりを使うほどではない。
このまま晴れが続いて大雪に捕まる前にユーフォニアムに帰れればいいのだが、あまり楽観はしていられない。コーディは肌に突き刺す冷気を感じながら思った。
太陽が真上に上ったところで、馬車は止まった。
素早く窓を開けて、シェラが空を仰いだ。
「さあ、ここでいったん休憩ですね。コーディ、手早く火を沸かしてくださいな。あんまりのんびりしたくありませんからね」
「わかったよ。シェラ、ジンジャーシロップを用意してくれるかい」
「それなら皇女様に全部差し上げてきましたよ」
「ああ、そうだったか……」
ノラはしまった、という顔をして、トランクのひとつを掴み上げた。
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