17 / 85
【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
(13)
しおりを挟む
目を輝かせたエチカが、早口にシタール語でなにか言った。それを通訳して、バロムウードがノラに伝えた。
「なんと優美であでやかな品の数々。この刺繍や細工も細やかで手が込んでいる。ユーフォニアムのドレスはあまり着たことはないが、とても素晴らしい。このような品を贈ってもらえて、とてもありがたい。あなたの好意に甘えて、使わせてもらう。ありがとう」
「よかったです、エチカ女王様」
ノラが微笑むと、エチカはさっとノラの側により、手を取った。
「かんしゃ、する。ノラ」
「お力になれてなによりです」
ノラは頭を下げた。
それからふたりは、どちらともなくドレスの着方や刺繍や柄についてなど、女同士の話を始めた。
言葉が通じないなりに、手ぶりや身振りで互いに意思を伝えあい、次第に打ち解けていった。
初めはかたくなに見えたエチカの顔に、年相応の少女らしい明るい輝きが戻ってきたのを見て、ノラはうれしくなった。
そのまま部屋を交換すると、ノラとシェラは二等室の小さな部屋で一晩明かした。
「あの真珠のネックレスまで差し上げることはなかったのに……。でも、まあ、エチカ皇女様がいずれシタール女王に即位された暁には、きっと今日の日のことは、両国のよき交流の話のタネとなるでしょう……。ふん、まあ、即位できればの話ですが……!」
ノラの持ち物の金額をおおよそ把握しているシェラは、いつまでもぶつぶつとやっていたが、ノラはむしろ相応しい品物が相応しい人の元で使われることになったので、清々とした気持ちだった。
(正直、あんなに豪華な物を持っていくの、気が引けていたのよね。お母様には言い出せなかったけれど……。だって、わたしの身の丈に合わないんですもの。今度は初めから、控えめなものをお願いしよう。……でも、やっぱり、レキュリテお母様には悪いことをしたわよね。がっかりされるかしら……)
実際、がっかりというより、がっくりするのは母より父の方かもしれなかった。
ノラは一等室のものより荒いリネンのシーツの中で、そっと手を重ねてみた。
指先に伝わる滑らかな感触に、ノラはゆっくり視線を移した。
左手の薬指にはめられた、愛しい人との約束が、ノラの心に、ぽっと消えない灯りをともした。
(イサイアス王子、わたしが戻ったらがっかりするかしら、それとも、喜ぶかしら……?)
ノラはくすっとひとりでに笑った。
イサイアスの喜ぶ顔が浮かんだからだ。
(わたしも会いたいわ、イサイアス)
瞼を閉じると、暗闇の中に愛しい人の姿がくっきり浮かんだ。
***
「なんと優美であでやかな品の数々。この刺繍や細工も細やかで手が込んでいる。ユーフォニアムのドレスはあまり着たことはないが、とても素晴らしい。このような品を贈ってもらえて、とてもありがたい。あなたの好意に甘えて、使わせてもらう。ありがとう」
「よかったです、エチカ女王様」
ノラが微笑むと、エチカはさっとノラの側により、手を取った。
「かんしゃ、する。ノラ」
「お力になれてなによりです」
ノラは頭を下げた。
それからふたりは、どちらともなくドレスの着方や刺繍や柄についてなど、女同士の話を始めた。
言葉が通じないなりに、手ぶりや身振りで互いに意思を伝えあい、次第に打ち解けていった。
初めはかたくなに見えたエチカの顔に、年相応の少女らしい明るい輝きが戻ってきたのを見て、ノラはうれしくなった。
そのまま部屋を交換すると、ノラとシェラは二等室の小さな部屋で一晩明かした。
「あの真珠のネックレスまで差し上げることはなかったのに……。でも、まあ、エチカ皇女様がいずれシタール女王に即位された暁には、きっと今日の日のことは、両国のよき交流の話のタネとなるでしょう……。ふん、まあ、即位できればの話ですが……!」
ノラの持ち物の金額をおおよそ把握しているシェラは、いつまでもぶつぶつとやっていたが、ノラはむしろ相応しい品物が相応しい人の元で使われることになったので、清々とした気持ちだった。
(正直、あんなに豪華な物を持っていくの、気が引けていたのよね。お母様には言い出せなかったけれど……。だって、わたしの身の丈に合わないんですもの。今度は初めから、控えめなものをお願いしよう。……でも、やっぱり、レキュリテお母様には悪いことをしたわよね。がっかりされるかしら……)
実際、がっかりというより、がっくりするのは母より父の方かもしれなかった。
ノラは一等室のものより荒いリネンのシーツの中で、そっと手を重ねてみた。
指先に伝わる滑らかな感触に、ノラはゆっくり視線を移した。
左手の薬指にはめられた、愛しい人との約束が、ノラの心に、ぽっと消えない灯りをともした。
(イサイアス王子、わたしが戻ったらがっかりするかしら、それとも、喜ぶかしら……?)
ノラはくすっとひとりでに笑った。
イサイアスの喜ぶ顔が浮かんだからだ。
(わたしも会いたいわ、イサイアス)
瞼を閉じると、暗闇の中に愛しい人の姿がくっきり浮かんだ。
***
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
お姫様の願い事
月詠世理
児童書・童話
赤子が生まれた時に母親は亡くなってしまった。赤子は実の父親から嫌われてしまう。そのため、赤子は血の繋がらない女に育てられた。 決められた期限は十年。十歳になった女の子は母親代わりに連れられて城に行くことになった。女の子の実の父親のもとへ——。女の子はさいごに何を願うのだろうか。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
川の者への土産
関シラズ
児童書・童話
須川の河童・京助はある日の見回り中に、川木拾いの小僧である正蔵と出会う。
正蔵は「川の者への土産」と叫びながら、須川へ何かを流す。
川を汚そうとしていると思った京助は、正蔵を始末することを決めるが……
*
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
稀代の悪女は死してなお
楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」
稀代の悪女は処刑されました。
しかし、彼女には思惑があるようで……?
悪女聖女物語、第2弾♪
タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……?
※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。
王女様は美しくわらいました
トネリコ
児童書・童話
無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。
それはそれは美しい笑みでした。
「お前程の悪女はおるまいよ」
王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。
きたいの悪女は処刑されました 解説版
水色オオカミのルク
月芝
児童書・童話
雷鳴とどろく、激しい雨がやんだ。
雲のあいだから光が差し込んでくる。
天から地上へとのびた光の筋が、まるで階段のよう。
するとその光の階段を、シュタシュタと風のような速さにて、駆け降りてくる何者かの姿が!
それは冬の澄んだ青空のような色をしたオオカミの子どもでした。
天の国より地の国へと降り立った、水色オオカミのルク。
これは多くの出会いと別れ、ふしぎな冒険をくりかえし、成長して、やがて伝説となる一頭のオオカミの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる