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【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
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エチカは打たれたように悲しげな目を上げた。黒く大きな瞳が濡れて光っている。
黙ってやり取りを見ていたノラだったが、エチカから溢れるただならぬ気配に、思わず口走っていた。
「シェラ、お願い!」
「ノラ様、なにをおっしゃってるのかおわかりですか? 宿に戻って、応援を呼んだ方がいいに決まっています!」
「シェラこそわからないの? エチカ皇女様の目を見て! きっとひとりじゃないのよ、誰か助けたい人がそこにいるのよ!」
「し、しかしですね……!」
ノラはたまらず馬車を降り、エチカの腕をつかむと、ぐいと箱馬車の席に押し込んだ。
「ノラ様!」
「お願いシェラ、行かせて! コーディ、馬車を出して! 本当に手に負えなかったら、すぐに引き返すわ。それならいいでしょう?」
シェラとコーディは思わず目をしばたいた。
普段は貴族令嬢としての振る舞いを覚えようとしているのでわかりづらいが、こういう時にこそ、ノラ本来の気質が現れる。困っている人をノラは放ってなど置けないのだ。
もはや止めがたい勢いに、シェラも思わずうなづいてしまった。
箱馬車にシェラが乗り込むと、コーディも身軽にさっと御者席に飛び乗った。
「急げ!」
コーディの声で、馬が駆け出した。
轍を追っていくと、その先に林に突っ込んだ状態の馬車が現れた。
見る限りには、車輪が外れて、制御を失ったものらしい。
コーディが念のために懐の拳銃を手に取って、馬車と周辺を検めた。
エチカの馬車の御者は、激しく頭を打ったらしく、額から血を流して、その場に気を失って倒れていた。
重ねてよくあたりを見わたし、怪しい人影やその形跡がないかを確認した後、コーディは振り返って声をかけた。
「シェラ、大丈夫そうだ。御者が頭を打って倒れているだけだ。そうだな、馬車は直さなけりゃ使えないが、大工道具が積んであるから、どれ、見てみよう。手持ちの道具で間に合うといいんだが……」
コーディの呼びかけに応じて、三人の女たちが出てきた。
コーディが馬車の面倒をみ、シェラが怪我人を見た。
エチカは心配そうに御者の傍らで様子を見守っている。その姿は、厳しさと心細さと、それでも王族らしい凛としたたたずまいがあった。
(どことなく、イサイアスにまなざしが似ているわ……)
ひそかにノラは思った。
ノラは雪を掘り、枝を拾い、火打石で火をおこし、湯を沸かした。シェラはコーディに任せればいい、あるいは、コーディはこれが終わったら私がやりますから、と言っていたが、結局ノラの手が早かった。
黙ってやり取りを見ていたノラだったが、エチカから溢れるただならぬ気配に、思わず口走っていた。
「シェラ、お願い!」
「ノラ様、なにをおっしゃってるのかおわかりですか? 宿に戻って、応援を呼んだ方がいいに決まっています!」
「シェラこそわからないの? エチカ皇女様の目を見て! きっとひとりじゃないのよ、誰か助けたい人がそこにいるのよ!」
「し、しかしですね……!」
ノラはたまらず馬車を降り、エチカの腕をつかむと、ぐいと箱馬車の席に押し込んだ。
「ノラ様!」
「お願いシェラ、行かせて! コーディ、馬車を出して! 本当に手に負えなかったら、すぐに引き返すわ。それならいいでしょう?」
シェラとコーディは思わず目をしばたいた。
普段は貴族令嬢としての振る舞いを覚えようとしているのでわかりづらいが、こういう時にこそ、ノラ本来の気質が現れる。困っている人をノラは放ってなど置けないのだ。
もはや止めがたい勢いに、シェラも思わずうなづいてしまった。
箱馬車にシェラが乗り込むと、コーディも身軽にさっと御者席に飛び乗った。
「急げ!」
コーディの声で、馬が駆け出した。
轍を追っていくと、その先に林に突っ込んだ状態の馬車が現れた。
見る限りには、車輪が外れて、制御を失ったものらしい。
コーディが念のために懐の拳銃を手に取って、馬車と周辺を検めた。
エチカの馬車の御者は、激しく頭を打ったらしく、額から血を流して、その場に気を失って倒れていた。
重ねてよくあたりを見わたし、怪しい人影やその形跡がないかを確認した後、コーディは振り返って声をかけた。
「シェラ、大丈夫そうだ。御者が頭を打って倒れているだけだ。そうだな、馬車は直さなけりゃ使えないが、大工道具が積んであるから、どれ、見てみよう。手持ちの道具で間に合うといいんだが……」
コーディの呼びかけに応じて、三人の女たちが出てきた。
コーディが馬車の面倒をみ、シェラが怪我人を見た。
エチカは心配そうに御者の傍らで様子を見守っている。その姿は、厳しさと心細さと、それでも王族らしい凛としたたたずまいがあった。
(どことなく、イサイアスにまなざしが似ているわ……)
ひそかにノラは思った。
ノラは雪を掘り、枝を拾い、火打石で火をおこし、湯を沸かした。シェラはコーディに任せればいい、あるいは、コーディはこれが終わったら私がやりますから、と言っていたが、結局ノラの手が早かった。
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