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【シリーズ2】白獣の末裔 ~古のシャータの実 白銀に消えたノラの足跡とイサイアスに立ちはだかる白い民の秘されし術~
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アルロは首を振って、白いため息をついた。
「イサイアス王子と結婚するには、少なくとも名の通った学校で教育を受けたことがあるという証明が必要だなんて。つまらない慣例です。ヴェルハースト候をはじめ、家老の多くはそうおっしゃっていますが、当のイサイアス王子はそんなこと、ちっとも気にしていません。むしろ、化石のような貴族のしきたりなど、くそくらえとおっしゃっています」
「これ、アルロ。口が悪い」
父親にたしなめられたアルロは肩をすくめて見せたが、その表情を見る限り、顧みるつもりはないようだ。
「本当に、すぐ戻ってきていいんですからね!」
「まあ、アルロったら」
ノラが防寒用の手袋を外した。その左手の薬指に赤い指輪が光った。イサイアス王子から贈られたサンゴの指輪だ。
差し出された手をアルロが受けると、姉弟は互いに励まし合うように、ぎゅっと握った。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。休暇には、帰って来るんだもの」
「そうですね……、年越し休暇まで二か月もないのでした」
「あなたこそ、イサイアス王子にしっかり仕えてね」
「はい、姉上、約束します」
「王子はきっと、孤児たちにちゃんと支援が行き届いているか、自分の目で確かめなければいられないのよ。この国で、二度と子どもたちが凍えて死んだりしないように」
「本当なら、今日王子はなにを置いても、姉上の見送りにいらしたかったはずです。しかし、本格的な冬の前に、どうしても孤児院を回らねばとおっしゃって……。ええ、わかっています、ちゃんと、王子のお側でお支えします」
「心強いわ、アルロ」
「それより、姉上」
「なあに?」
「年越し休暇には、ちゃんとここに返ってきてくださいね」
「帰ってくるわ」
「新しくできた友達にバカンスに誘われても、必ず僕たちの待つこの家に帰ってくると約束してくださいね?」
ノラは思わず笑ってしまった。
まるで、昔のアルロのことが思い出されて、ノラの胸はとたんに温かくなった。
「イサイアス王子と結婚するには、少なくとも名の通った学校で教育を受けたことがあるという証明が必要だなんて。つまらない慣例です。ヴェルハースト候をはじめ、家老の多くはそうおっしゃっていますが、当のイサイアス王子はそんなこと、ちっとも気にしていません。むしろ、化石のような貴族のしきたりなど、くそくらえとおっしゃっています」
「これ、アルロ。口が悪い」
父親にたしなめられたアルロは肩をすくめて見せたが、その表情を見る限り、顧みるつもりはないようだ。
「本当に、すぐ戻ってきていいんですからね!」
「まあ、アルロったら」
ノラが防寒用の手袋を外した。その左手の薬指に赤い指輪が光った。イサイアス王子から贈られたサンゴの指輪だ。
差し出された手をアルロが受けると、姉弟は互いに励まし合うように、ぎゅっと握った。
「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫。休暇には、帰って来るんだもの」
「そうですね……、年越し休暇まで二か月もないのでした」
「あなたこそ、イサイアス王子にしっかり仕えてね」
「はい、姉上、約束します」
「王子はきっと、孤児たちにちゃんと支援が行き届いているか、自分の目で確かめなければいられないのよ。この国で、二度と子どもたちが凍えて死んだりしないように」
「本当なら、今日王子はなにを置いても、姉上の見送りにいらしたかったはずです。しかし、本格的な冬の前に、どうしても孤児院を回らねばとおっしゃって……。ええ、わかっています、ちゃんと、王子のお側でお支えします」
「心強いわ、アルロ」
「それより、姉上」
「なあに?」
「年越し休暇には、ちゃんとここに返ってきてくださいね」
「帰ってくるわ」
「新しくできた友達にバカンスに誘われても、必ず僕たちの待つこの家に帰ってくると約束してくださいね?」
ノラは思わず笑ってしまった。
まるで、昔のアルロのことが思い出されて、ノラの胸はとたんに温かくなった。
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