上 下
24 / 27

【22 初デート (新田)】

しおりを挟む
 
 御木野さんの家へと続く帰り道。


 空は夕暮れに差し掛かり始めているけど、正直まだ帰りたくない。



「今日はすっごく楽しかったなぁ。


 プラネタリウムって久々に見たけどいいよね。


 中も涼しいし、落ち着くっていうか」


「うん、そうだな……」



 楽しそうに今日を振り返る御木野さん。


 御木野さんはまだ帰りたくないとは思ってないんだろうか。


 この気持ちが俺だけなのかと思うと、少し寂しい気もする。


 そのとき、御木野さんが小さく悲鳴を上げた。



「いたっ……。あっ……? なんか左足の小指、靴擦れしてるかも……」


「大丈夫?」


「う、うん……。楽しすぎて今まで痛いのにぜんぜん気がつかなかったみたい……」



 御木野さん……。


 一緒にいて楽しいと思ってくれるのはうれしい。


 けど、ちょっとだけ抜けてるんだよな……。


 そこがかわいいところでもあるけど。


 でも、これでもうしばらく御木野さんと一緒にいられる。



「そこの公園で休もう。俺、絆創膏買ってくる」


「あっ、大丈夫。持ってきてるから」



 御木野さんが鞄から絆創膏を取り出す。



「俺がやるよ」


「えっ……」



 御木野さんの手から絆創膏を取ると、ベンチに腰かけた御木野さんの前に膝をついた。


 御木野さんが慌てたように大きく手を横に振っている。



「だ、大丈夫だよ! 自分でやれるし」


「いいから」


「ほ、本当にいいってば。新田くんにそんなことさせられないよ」


「だめ」


「……だめ!?」



 御木野さんがびっくりしたように俺を見た。


 自分の中に芽生えてきた優越感と独占欲。


 ちょっとくらい振るったって、御木野さんなら許してくれる気がする。



「俺がしてあげたい。


 今日は俺御木野さんになにもしてあげてないから」


「そ、そんなことないよ……!


 一緒にいられただけで私はすごく楽しかったよ」


「いいから。早く靴脱いで」



 そういうと、御木野さんがためらいながら、のろのろと靴とソックスを脱ぎ始めた。


 白いソックスから御木野さんの足が出てきたとき、一瞬ドキッとした。


 きれいに塗られた薄いピンク色の爪。


 こんな見えないところまで、きれいにしているんだ……。


 今までかわいいと思っていた御木野さんが、急に大人っぽく感じた。


 御木野さんを見ると恥ずかしそうにそっぽをむいている。


 勢いで俺がやるといい出してしまったが、よく考えたら、この状態だと御木野さんの足に触らなきゃ無理だよな。


 めちゃくちゃハードル高くないか、これ……!


 やばい、変な汗が出てきたかも……。



「あ、あの、やっぱり……」



 ここまできて後に引けるか。




「足、出して」



 そっと差し出された御木野さんの足を掴んで、なんとか絆創膏を小指の付け根にできた靴擦れに貼ることができた。


 正直、汗で手が濡れていた。


 手汗を気持ち悪がられなかっただろうか。


 うまく絆創膏が剝げなくて、余計に時間がかかった。


 御木野さんに変に思われてなかっただろうか……。


 内心ひやひやしながらそっと顔を上げた。


 すると、御木野さんが真っ赤な顔をしてこちらを見ていた。


 その目が潤んでいる。


 大丈夫? と聞こうと思っていたのに、その表情を見ていたら、全然別のことを口走っていた。



「キス……してもいい……?」


「……うん……」



 顔を寄せると、お互いの体温が燃えてるみたいに熱かった。


 漏れる吐息に緊張がみなぎっている。


 ……軽く、触れあった。


 柔らかさと温かさが神経を伝わってくる。


 御木野さんのデオドラントの香りと、少し汗の匂い。


 ずっとこのままでいたい……。


 そう思ったけど、心臓がやばくて、もう無理だった。


 そっと目を開けると、御木野さんも今伏し目がちに目を開けているところ。


 見つめあったとき、御木野さんが恥ずかしそうに微笑んだ。


 あ、この人とずっと一緒にいたい。


 今、心の底からそう感じた。


 今日も、明日も。これからずっと。


 ふたりの関係を、この気持ちを、ずっと永遠にここに留めたい。


 こんなふうに、こんなに本気で思ったの初めてだ。


 溢れ出そうな気持ちを伝えたかったけど、恥ずかしさが勝って口が全然動かない……。


 御木野さんは何も言わず、でも何もかもわかっているかのように、俺を見つめていた。


 ……言葉にならない……。


 照れくさそうに笑う御木野さん。


 以心伝心みたいで嬉しい……。


 大切にしたい。


 御木野さんのこと。


 この気持ち、離したくない。


 御木野さんとなら、いつまでもどこまで、一緒にいられる気がする。


 同じ土俵にするのもおかしいけど、八代とは一生付き合うんだろうなと思った瞬間がある。


 その時みたいに、御木野さんが俺の人生の大事な一部に、もう誰もかわりの出来ない大切な人になっているんだ。


 知りたい、御木野さんのこと。


 もっと、そばにいきたい。


 御木野さんを……、まこを、俺だけのまこにしてしまいたい……。


 ……いや……。そうじゃない。


 大事にしよう、この関係を。まこの気持ちを。


 俺は永遠の彼氏で、まこは永遠の彼女だと約束したんだ。


 焦らず行こう……。


 二人の気持ちを温めて、育んでいこう。



「帰ろうか」



 手を差し出すと、まこがニコッと笑う。



「うん」



 迷うことなく、俺の手を取った。


 柔らかな感触と温度。


 隣で見あげてくる視線が愛おしい。



「次こそはピザ作るね」


「えっ、マジ!?」


「今ママに教わってるから上手く出来たら食べに来て?」


「うん、行く行く!」



 御木野さんがくすくす笑った。


 あ、やべ、反応が子どもっぽかったかな……。


 でも、いいか。

 ここから俺たちは俺たちのペースで、一歩ずつ、前に進んでいくんだ。





 


*お知らせ*こちらもぜひお楽しみください!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

始業式で大胆なパンチラを披露する同級生

サドラ
大衆娯楽
今日から高校二年生!…なのだが、「僕」の視界に新しいクラスメイト、「石田さん」の美し過ぎる太ももが入ってきて…

女豹の恩讐『死闘!兄と妹。禁断のシュートマッチ』

コバひろ
大衆娯楽
前作 “雌蛇の罠『異性異種格闘技戦』男と女、宿命のシュートマッチ” (全20話)の続編。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/329235482/129667563/episode/6150211 男子キックボクサーを倒したNOZOMIのその後は? そんな女子格闘家NOZOMIに敗れ命まで落とした父の仇を討つべく、兄と娘の青春、家族愛。 格闘技を通して、ジェンダーフリー、ジェンダーレスとは?を描きたいと思います。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

女ハッカーのコードネームは @takashi

一宮 沙耶
大衆娯楽
男の子に、子宮と女性の生殖器を移植するとどうなるのか? その後、かっこよく生きる女性ハッカーの物語です。 守護霊がよく喋るので、聞いてみてください。

人違いで同級生の女子にカンチョーしちゃった男の子の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

処理中です...