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【20 初めてのお弁当 (新田)】
しおりを挟む打倒、S校を掲げてきたこの数カ月。
俺達の努力は間違っていなかった!
「いやぁ、マジで俺達ならやれると思ってたわ」
「予選でもぶっちぎりで勝利してやるぜ」
「新田、ナイスシュート!」
「八代、お前やっぱすげぇわ!」
俺達は健闘をたたえ合い、ばしばしと肩や背中を叩きあった。
この後は、昼食をはさんで、S校との合同練習だ。
S校の浜岡選手がどんな練習しているのか気になるな。
俺と考え方がよく似ている気がする。
そんなことを考えながらグラウンドを出ると、御木野さんが待っていた。
私服の御木野さんは頬を赤らめて、手には保冷バッグを下げている。
白いレースの半そでブラウスに、デニムのスカート。
やばい、男子受けのど真ん中だ。
「お疲れ様、かっこよかったよ、新田くん!」
「ありがとう……!」
「お弁当作ってきたの。一緒に食べよ」
「ああ」
すかさず、部員がはやし立てる声がする。
うるさいよ、お前ら……。
でも、この清楚でかわいい御木野さんが、俺の彼女なんだぞと自慢したい俺がいる。
しかも、手作り弁当だぞ。
試合の興奮もあってか、俺のテンションはちょっとやばい。
「マジか、新田いいなぁ。彼女の手作りかよ」
「くそっ、リア充はあっちいってろ!」
内心にやけていると、八代がいつの間にか御木野さんの手元を覗いていた。
「すげー、御木野さん、俺の分もある?」
「えっ、あの……」
こっ、こら、八代!
俺の弁当だぞ!
すかさず芳賀さんが前に出た。
「八代くんのは私が作って来たよ! ねえ、みんなで食べよう!」
「んじゃあ、試合も終わったし、あたしは帰るわ」
「せ、せなちゃんの分も作ってきたから、一緒に食べよ!」
やいのやいのといいながら、いつもの中庭に俺と御木野さん、八代と芳賀さんと吉木さんが揃った。
御木野さんと芳賀さんが弁当箱を広げる。
「うおっ、うまそう! いただきますっ」
八代が早々に芳賀さんのサンドイッチを口に入れた。
「うん、うまいうまい!」
「よかったぁ、いっぱいあるからたくさんたべてね!」
御木野さんのお弁当はなんというか、シンプルだ。
おにぎりに、ウインナー、卵焼き、ほうれん草のごま和え、プチトマト。
「食べていい?」
「う、うん、どうぞ!」
おにぎりを取って、ひとくちかじる。
……んっ!?
……なんだこれ、……うまい……!
口の中に広がる塩味。
米の甘さ。
ただの塩むすびなのに、なんでかわからないが、めちゃくちゃうまい。
こんな塩むすび、食べたことない!
「御木野さん、うまい」
「わあ、よかった……!」
「うまいっていうか、めちゃくちゃうまい。
これ、なに? なにか特別なもの入ってるの?」
「え? ううん、あの、材料は塩とごはんだけだよ」
「マジで? なんか、めちゃくちゃ味が深いんだけど」
「そうかな」
御木野さんは照れくさそうに、嬉しそうに笑っている。
「もう一個食っていい?」
「うん、いくらでもどうぞ」
「じゃああたしも」
吉木さんも塩むすびを口にほおばった。
その瞬間、目を大きく見開く。
「なにこれ、うまっ!」
だろっ!?
やっぱり、ふつうの塩むすびじゃないよな!?
「え、なになに、まこ、私も一個いい? ……んっ、ん!? なにこれ、おいしい!」
「じゃあ俺も。……うおっ、なんだこれ! めちゃくちゃうまいぞ!」
四人が四人とも、衝撃的なうまさに驚いていた。
「やべぇ、この塩味が疲れた体に染みわたるわ~」
八代の言葉に、吉木さんがうなづく。
「なにこれ、まこ、ただのおむすびがなんでこんなおいしいの?
コンビニのと全然違う。なんか、ちゃんと体にいい物食べてるって感じがするの、なんで?」
「そう、それな!」
「ん、ん……、これ本当に普通のウインナー……? なんか、やたらとうまいんだけど。いつも食ってるのと違う」
「え? スーパーで買ったSャウエッセンだけど……」
「なんだ、これ? 焼き方が違うのか? 冷めててもうまい」
「ふ、普通に焼いただけだよ……」
やばい、もはやなにを食べても御木野さんの料理がうまく感じるようになっているのかもしれない。
八代がわはは、と笑った。
「もうなに食ってもうまく感じるんじゃね? 御木野さんが作ったものなら」
八代、それ今俺も思った。
御木野さんを見たら、恥ずかしそうに笑っていた。
目が合うと、優しくほほ笑む御木野さん。
料理を喜んでもらえてうれしいって顔に書いてある。
こんなに暖かい気分になれるなんて予想をはるかに超えていた。
試合にも勝てたし。
デートもできるし。
飯はうまいし。
御木野さんはかわいい。
もう、なにもいうことない……!
*お知らせ*こちらもぜひお楽しみください!
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