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【16 ベンチ (新田)】
しおりを挟む名入りの折り畳みベンチが気に入ってもらえてよかった。
スポーツ関係のものは比較的デザインや色がシンプルだから、センスを試される心配がなくて安心だ。
傘みたいにパステルカラーからダークカラーまで何種類もあった日には、俺はマジでなにを選んだらいいかわからない。
多分、さんざん悩んだ挙句、結局白を選んでしまう気がする。
練習に戻る際中、八代が肘で小突いてきた。
「御木野さん、お前が選んだものなら本当になんでも喜んでくれそうだな。
いい子でよかったじゃん」
「いい子だよ、御木野さんは。
八代に言われなくてもわかってるって」
「あー、そうかよ。お前初の彼女なのに、女運がいいのな」
女運……。
考えたことはなかったけど、確かにそうだと思う。
八代は男にも女にも人当たりがいいから、誰とでもうまくつき合っているように見えるけど、ことに女子に関してはなにかとトラブルが多い。
おっかけの女子同士でケンカが起こったり、ストーカーまがいのことをしでかす女子がいたり。
持ち物を盗まれたり、盗撮なんかもされているらしい。
かといって、あまりキリキリするのも性に合わないらしく、八代ならではののらりくらりといい加減な感じで、やり過ごしている。
あまり細かく聞いたことはないが、八代は女子と本気で付きあったということはおそらくない。
単純に練習に時間を取られて、そんな暇がないというのがひとつ。
八代自身、あまりマメな性格でもないので、長続きしないというのがひとつ。
八代の親衛隊たちががっちり脇を固めているというのがひとつ。
あとは多分、あのなかなか千切れないミサンガが理由だと俺は勝手に想像している。
「あーあ、俺もなんか彼女欲しくなってきたなぁ」
「……芳賀さんは? 前から一番熱心だろ」
「いやあ、麻衣子はだめだろ」
「え……、そうなのか……」
芳賀さん、あんなに八代に尽くしているのに……。
こればかりは、当人の気持ちの問題だから、どうにもしようがない。
八代がふっと顔を上げて小さく笑った。
「だって、あいつマジじゃん。本気のやつにいい加減な気持ちではつきあえないっしょ」
え、それって……。
俺がなにか口にする前に、八代は自分のポジションへ走って行ってしまった。
……やっぱり、恋愛ごとは俺には難しい。
俺は日傘を差し、ベンチに座っている御木野さんと、その隣の芳賀さんを見た。
御木野さんが口パクで、がんばれと言っているのがわかった。
その横で、芳賀さんが大声を上げた。
「八代く~ん、ファイトォー!」
いい子というのなら、芳賀さんも多分いい子だと思う。
でも、八代にとってはなにか違うんだろう。
俺には、気恥ずかしくて大声を上げられない御木野さんがものすごく、かわいくて、いい子に思える。
彼氏のひいき目か?
まあそんなのあたりまえだろ。
御木野さん、俺も、御木野さんにとっていい男でありたいと思う。
*お知らせ*こちらもぜひお楽しみください!
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