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【14 ミサンガ (新田)】
しおりを挟む練習の合間にグラウンドの脇を見る。
最近、御木野さんは吉木さんと芳賀さんとよく一緒に練習を見ている。
練習が終わって着替えて校舎に向かう途中で、御木野さんたちが待っていた。
いつもなら先に教室に戻っているはずなのに。
「新田くん、これ……」
おもむろに御木野さんが差し出した手の上に、赤いミサンガがあった。
「親善試合、頑張って」
「あ、ありがとう……! あっ、すげぇ、ARATAって字が入ってる!」
「うんっ、新田くんが試合に勝てますようにって願いを込めておいた」
「すげぇ。今つけてみていい?」
左手の腕に巻き付けると、御木野さんが慌てたように首をふった。
「えっと、なんかミサンガってつける位置によって意味があるらしくってね、利き足の足首が友情なんだって!
サッカーはチーム戦だから、友情の位置がいいと思うんだけど」
「そうなんだ。じゃあ右足か」
しゃがんで右足首に巻き付けていると、八代が後ろから声をかけてきた。
「そこでいいのか~? ちなみに、恋愛祈願だったらどこにつけんの、御木野さん」
「利き手の手首だけど……。でも今回のは親善試合の勝利だから」
すると、見計らっていたように芳賀さんが前に出た。
「私のミサンガは右手につけてくれてもいいよ、八代くん!」
「おおっ、麻衣子、サンキュー」
オレンジと黄緑色を基調にした手の込んだミサンガ。
受け取ると、八代はいつものようにポケットにしまった。
「八代くん、やっぱりまたつけてくれないの?」
少しすねたような芳賀さんに、八代がぱっと右手を前に上げた。
昔からつけている色あせたミサンガがそこにある。
「俺は願掛けはひとつだけって決めてるから。
つうか、こいつがしぶとくてなかなか切れてくれねぇんだよ。どんだけなんだって話な」
「そうだよね……。でも、それが切れたら、次は私のこれをつけてよね」
「でも、前に麻衣子からもらったやつ、まだいっぱいロッカーにあるぞ」
「勝利祈願のミサンガくらいいくらでもつくるって!」
芳賀さんが嬉しそうに笑う。
芳賀さんは熱心なおっかけのひとりだが、本当に八代が好きなんだなと、この表情でわかる。
いつも真剣で、真正面から八代にぶつかっていく。
思いが八代に届かなくても、その態度と熱量はかわらない。
なかなか根性があると思う。
ふと、横を見たら吉木さんが横を向いて真剣とはまるで真逆の大あくびをしていた。
相変わらずだな……。
ある意味、この人が一番大物かもしれない気がする……。
俺は改めて御木野さんに向き合った。
「御木野さん、本当にありがとう。
これが早く切れるように、練習頑張るよ」
「うん、応援してる」
そのとき、八代が唐突にいい出した。
「ていうか、ふたりいつまで名字で呼び合ってんの?
それが切れたら名前呼びにすれば?」
……そっ、そんな、いきなり……。
……でも、実はそろそろ名前で呼べたらなって思ってた。
御木野さんを見ると、少し照れたようにこっちを見返してくる。
御木野さんも同じことを考えているみたいに見えた。
「それ、いいと思ったんだけど……。御木野さんはどう?」
「う、うん! いいと思う……!」
御木野さんが飛び跳ねるのかと思うくらいに、にこにこっと笑った。
この素直な表情、いつまででも見ていたくなる。
名前で呼び合えたら、きっともっと距離が近くなる気がする。
胸が期待で温まる。
今つけたばかりだけど、すでにミサンガが切れるのが待ち遠しい!
*お知らせ*こちらもぜひお楽しみください!
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