【完】Nurture ずっと二人で ~ サッカー硬派男子 × おっとり地味子のゆっくり育むピュア恋~

丹斗大巴

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【1 運命 (まこ)】

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 ドムッ! とボールが強く私の胸を打った。


 一瞬心臓が止まり、その場に倒れ気を失った……。


 なんでこんなことに……。


 気が遠くなりながら、私は青天を見ていた。







「グラウンド整備のために、時間を区切ってコートを使用することになっていたのに、どうして譲り合えなかったの?


 校内で乱闘なんて、前代未聞よ。


 それに、間違っていたら御木野(みきの)さんは死んでいたかもしれないのよ!」


 死……?


 ぼんやりと目を開けると、保健室のベッドの上にいた。


 保健の久美先生が心配そうに私のおでこに手をやる。



「よかった、目が覚めたのね? 親御さんにはもう連絡したから、迎えに来てくれるわ。


 念のためこれから病院に行くけれど、ひとまず安心したわ」


「久美先生……、私……?」



 久美先生が厳しい目つきでベッドの脇の男の子たちをねめつける。


 サッカー部エースの八代司(やしろつかさ)くんと、同じくサッカー部の主力メンバーの新田英治(あらたえいじ)くん。


 バスケ部の部長と、副部長。


 それぞれの顧問の先生に付き添われて、そこに立っていた。



「ほら、あんたたち謝りなさい」


「すみませんでした……」


「す、すみませんでした……」



 素直に頭を下げたバスケ部のふたりに対し、八代くんはぶすっとしていた。



「時間を守らなかったバスケ部のせいだからな」


「こら、八代!」


「だいたい新田、バスケットボールだからってなんで投げ返したりしたんだよ。


 そこは脚を使えよ、脚。


 そうしたら、ぜってぇ的を外すわけなかったのに」


「八代っ! お前、反省する気がないのか!」



 顧問の先生に強く言われ、渋々八代くんの頭が下がる。


 八代くん……、その強気なところ……かっこいい……。


 ていうか、そうだ……。


 私、新田くんの投げたバスケットボールで胸を打って倒れたんだ。


 その新田くんが青い顔で小さく震えていた。



「み、御木野さん……、俺のせいで、ほんとに、本当にごめん……」



 どうせなら、八代くんにぶつけられればよかったのに、なんて……。


 あっ、いてて……。







 その日以降、授業が終わり部活が始まる前の時間を使って、新田くんが家にやってくるようになった。


「こ、こんにちは、サッカー部の新田です……。


 あの、授業のノートのコピーを持ってきました」


 二階の自分の部屋で、ママが玄関先で新田くんを対応しているのが聞こえる。


 強度の打撲と鎖骨と胸骨にひびが入って、全治一か月。


 冗談じゃなく、本当に動けない……。


 授業のコピーはありがたいけれど、痛くて勉強もできないし、スマホのチェックすらおぼつかない。


 ただただベッドに縛られ続ける日々。


 つ、つらい……。

 二週間たって、ようやく少しずつ体を動かせるようになってきた。


 そんなとき、いつもの時間、新田くんの声が聞こえた。



「あの、御木野まこさんのラインを教えてもらえないでしょうか?


 授業のノートのほかに、なにか手伝えることとかあったらなんでもいってもらえれば……」



 ママが部屋まで来て、どうする? って。


 それはぜひ……!


 だって、八代くんがどんな様子か聞きたいんだもん。


 ママに案内されて、新田くんが部屋に来た。



「お、おじゃまします……」


「どうぞ。ごめんね、こんな格好で」


「い、いやいや!」



 恐る恐る入ってきた新田くんが、居心地悪そうにきょろきょろとしている。



「ど、どんな感じ……?」


「うん、少しは動けるようになったんだ。ラインだよね。今……、っつ!」



 つい手を伸ばしてしまい、胸に痛みが走った。


 新田くんが慌ててそばに駆け寄ってきて、おろおろしている。



「だっ、大丈夫か!? 俺、おばさん呼んでくる!」


「だ、大丈夫。ごめんね、びっくりさせて……。


 実はまだ痛みが強くて、新田くんのコピーも全然見れてないんだ。


 せっかく毎日届けてくれているのに、ごめんね」


「そんなの別に……。俺のほうこそ、なにもできなくて……」


「それより、やし……サッカー部はどう? グラウンド整備もう済んだよね」


「あっ、うん。元に戻れてみんなせいせいしてる。やる気十分だよ」


「今年は全国行けるといいね。八代くんと新田くんのふたりなら叶いそうなんでしょ?」

 新田くんが目を丸くした。



「御木野さん、サッカー興味あるの?」



 ふふ、そうだよね。


 サッカー部はうちの学校の花形。


 グラウンドのフェンス越しに群がる女の子たちは主に、八代くん派と新田くん派に分かれている。


 でも、私はそこでサッカー部の応援したことはない。


 私には特等席があるから。


 図書館の貸し出しカウンターの席。


 そこからグラウンド全体が眺められることを知っている人はあまり多くない。


 図書委員の特権なのだ。



「うん、好きだよ。ふたりのコンビネーションいつもすごいなぁって感心しながら見てるの。


 新田くんからのアシストを期待してゴール前にぐいぐい飛び込んでいく八代くん。


 ふたりの信頼関係がないとああいうプレイはできないよね」



 新田くんがうれしそうに笑った。



「八代とは子どものときから一緒だからな」


「頑張ってね、応援してる」


「ありがとう。……あっ、えっと、それで、ラインなんだけど」


「うん」



 わあい、図らずも新田くんとライン交換できた!


 これで、八代くんの練習風景とか、オフショットとか送ってもらえたりして……。



「それでさ、なにか俺にできることないかな?」



 じゃあ、早速! と行きたいところだけど、いきなり八代くんの写真送ってはさすがにがっつきすぎかな……。


 でもそれくらいしか思いつかないなあ……。


 しばらく黙って考えていたら、新田くんがスマホの時計を見て立ち上がった。



「ご、ごめん、俺そろそろ練習に戻らないと。


 本当になんでもするから、気兼ねなくラインしてくれよな」


「うん、わかった」



 慌てて帰っていく新田くんを見送った。


 この日から、新田くんによる過保護な日々が始まるとは、これっぽっちも思いせずに……。


 


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