上 下
19 / 46
第1部 婚約破棄&処刑されて転生しましたけれど、家族と再会し仲間もできて今はとっても幸せです

これからもいつでも笑みを心に太陽を

しおりを挟む

 それから数年後。

 プレモロジータ家ではいろいろ考えた結果、爵位をヒューお兄様に譲ることを国王陛下に申し入れ、これが受理された。

 お父様がご健在なのに自分が伯爵なんてと、お兄様自身もちょっぴり持て余しているけれど。お姉様がなんとかなりますわよ、といっていつも明るく支えてくれている。



「髭も生やさないのに伯爵なんて名乗っていいのかなぁ」

「お髭をふさふさにするのは、お髪がつるつるになってからでなければ承知できませんわ」

「君は本当につるつるが好きだねぇ! はははっ、髪がつるつるって、相当先だよ!」

「ふふふっ、では顎もしばらくつるつるですわね!」



 おふたりならなんとかなりそうに思えるから不思議ですわ。

 お父様とお母様はサーフォネス伯爵家としてセントライト王国にお戻りになられた。

 今は祖国の復興と先祖の供養、そしてこれまでに失われた魂の慰霊に務めている。



「お前たちは新しい世代として先を行くがいい。過去のことは私たちに任せなさい」

「私は心配していませんよ。ヒューも、ミラも素晴らしい人生の伴侶を見つけたのだから」



 はい、お父様、お母様。

 離れるのはさみしいけれど、それぞれに使命を果たせるよう、それぞれの場所で頑張りますわ。

 プレモロジータ家もサーフォネス家も、私たち一族にとってはどちらも大切な家。

 お父様とお母様はお兄様とお姉様の間に生まれた二番目の男の子を、将来サーフォネス家の跡継ぎにと考えている。

 もしかすれば、その子が、あるいはその子孫が……。

 セントライト王国に真心の光をもたらしてくれる日が訪れるかもしれませんわ。

 そして、今日は――。

 王宮の大広間では、今まさにヴァレンティーノ様が私たちの『誓い』を戴こうとしている。

 王家婚礼の儀の正装に身を包んだヴァレンティーノ様。

 私は純白のドレスでその隣に立ち、手を組んだ。

 静かに膝をつき『誓い』を唱える。



「我ミラ・ラ―ラ・プレモロジータは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、人を愛し思いやる心。

 この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。

 絶対王は永久に人を愛し思いやる心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」



 それと同時に、ヴァレンティーノ様の胸がふわっと光り輝く。

 私が捧げた真心が、ヴァレンティーノ様の心に今もあるということの証。

 ヴァレンティーノ様の微笑みに私も笑みを返した。

 続いて、私たちの前に膝をついて並んだ四人。

 バルトロメーオから始まった。



「我バルトロメーオ・ジュスティッツィアは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、正義の心。

 この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。

 絶対王は永久に正義の心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」



「我アルベルティーナ・コルテジアは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、礼節。

 この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。

 絶対王は永久に礼節を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」



「我ジュスティーナ・サジェッツアは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、智慧。

 この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。

 絶対王は永久に智慧を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」



「我カロージェロ・シンチェリタは、絶対王を生涯の主として忠誠を誓う。

 我が真心は、人を誠実に思う心。

 この心を持って身を捧ぐは、この国の平穏のため。

 絶対王は永久に人を誠実に思う心を失わず、この国の主としてあり続けるだろう」



 それぞれの『誓い』が終わると同時に、光が溢れ、その光のひとつひとつが、ヴァレンティーノ様の胸に吸い込まれていった。

 儀式に参加を許された人々は、深遠な気持ちでそれを見つめる。

 あるものは涙を流し、あるものは微笑みを浮かべ、あるものは頭を垂れた。

 ベルナルディーノ国王陛下が高らかにうたう。



「ここに宣言する! 我がメゾシニシスタ王国に、初めての絶対王が誕生した!

 五大伯爵家から捧げられし、五つの美徳を持って、この国に末永き平穏をもたらさんことを!」



 わあっ、と観衆の声が割れんばかりに響いた。

 バルトロメーオ、アルベルティーナ、ジュスティーナ、カロージェロ。

 みんなの誇らしげな顔。

 ヴァレンティーノ様。

 自信と威厳に満ちた、凛々しいお顔。

 これが、我が国の絶対王のお姿。

 私の魂の主……!



「ミラ」



 ヴァレンティーノ様が私の手を取る。

 優しい温もりがじんわりと指先から広がっていく。

 喝采がやみ、辺りが静まり返った。



「メゾシニシスタ王国の絶対王として、ミラ・ラーラ・プレモロジータ、そなたを我妻に迎える。

 我とともに、この国の導き手として、永久に共にあらんことを」

「謹んでお受けいたします」



 再び、わっと歓声が溢れ、拍手で空気が揺れた。

 花びらが舞い、祝いのファンファーレが響き出す。

 ――きゃっ!?

 突然、視線が高くなった。

 ヴァレンティーノ様に腰から抱き上げられたのだ。

 私を見上げるヴァレンティーノ様。

 なんてうれしそうに笑っていらっしゃるの……!



「ミラ、美しいぞ……!」

「ヴァレンティーノ様もご立派ですわ……!」



 あら、お耳が真っ赤に……。




「おめでとう、ミラ!」

「ミラ、きれいよ! おめでとう!」

「ヴァレンティーノ様、ミラ様、おめでとうございます!」

「う、うぅっ……、とっても、素敵だよ……!」



 みなさん、ありがとう……!

 参列に並ぶお父様とお母様、お兄様とお姉様が涙しながら拍手を送ってくださっているわ。

 一度目の人生ではお見せできなかったこの姿。

 神様が下さった二度目の人生で叶いました。本当に私は幸せです……!

 お父様とお母様、お兄様とお姉様。

 これまでずっと私を守り慈しみ、愛し育てて下さって本当にありがとうございます……。

 お姉様がパチッとウインクを送って下さった。

 ふふっ、すっかりお上手ですわ……!

 今はお兄様とお姉様の間に立っている二人の小さな息子が揃って一生懸命、お姉様のまねをしようとしている。

 ……くすっ!

 ふたりとも、両目をつぶってしまってますわ。可愛い……!

 視線を移した先には、リサとラルフ陛下。

 リサが大粒の涙をこぼしながら唇を震わせている。

 大きくハンカチを振っているのは、言葉にならない祝福の代わり。

 そのリサのお腹はふっくらと丸く張り出している。

 もうすぐ臨月。

 身重なのに、お式に参列してくれて、本当にうれしい……!

 きっと望めないとあきらめていたリサが、もうすぐ母親。

 今から本当に楽しみですわ……!



 ヴァレンティーノ様に抱かれながら、大広間からベルコ二ーへ。

 顎下には、私たちのために集まってくれた、メゾシニシスタ王国の人々。

 すごい数……!

 こんなにたくさんの人たちが、私たちを祝福してくれるなんて。

 どこからともなく始まった声が、次第にひとつになって、辺りに波のように響く。



「絶対王、バンザーイ! ミラ様、バンザーイ!」



 まあ……。

 みなさんの心が合わさって、こんなに温かな声援になるなんて。

 こんな素晴らしい祝福を戴けるなんて、本当に、本当に、私は幸せ者ですわ……。



 ヴァレンティーノ様が私を見上げて楽しげにおっしゃる。



「ミラ、手を振ってごらん」



 言われたとおりにすると、わあっと歓声と拍手が鳴り響いた。

 まあ、すごい……。みなさんが次々に手を振り返してくれる……。



「我妻は絶大なる人気があるのだ。我が国の思いやりの心そのものだからな」



 まあ……。それがこんなにだとは、知りませんでしたわ。

 けれど、私の真心が国民のみなさんの心にも届いたのだと思うと、こんなにうれしいことはありませんわ。

 日に照らされて一心に喜びを表してくれる人々の姿。

 この光景、私は一生忘れません……!



「ヴァレンティーノ様、ここにいるすべての人のために、この身を尽くしますわ」

「ミラ……」



 あら、またお耳が……。

 ヴァレンティーノ様が私をゆっくりと床に下ろす。

 少しもそらさずに、優しいまなざしで私を見つめてくれる……。

 暖かなその瞳に、吸い寄せられるかように、私も視線を離すことができないの。

 お互いに微笑みを交わす。

 そして、ゆっくりと優しいキスが降ってくるのを迎える……。

 触れるといつも熱くて、しっとりと柔らかな感触。

 胸にじんわりと、いつも太陽のようなぬくもりを育んでくれる。

 何にも代えられないわ。

 この離れがたい愛おしさ……。

 甘いキスの終わりに、そっと瞳を開けると……。

 そこには、優しく微笑むヴァレンティーノ様。

 その微笑みに包まれると……。

 なんだか、私もうれしくなって、顔が勝手に緩んでしまうの。



 令嬢は、いつでも笑みを。

 心に太陽を。



 ヴァレンティーノ様。

 あなたと一緒にいると……。

 自然とそうなってしまうみたいですわ……!













 ご愛読ありがとうございました! 
 ミラと一緒に同じ時を過ごし、共に泣き笑いしてくださった読者の皆様に心から感謝申し上げます。お手間でなければ、10いいね(各話10回押せます)、感想、お気に入り、エール(動画再生3回できます)、シェアで、応援ぜひよろしくお願いします! 読者様からの反応があると、執筆活動の励みになります!
 このあとは、あとがき・用語・登場人物です。

* お知らせ * こちらも公開中! ぜひお楽しみください!




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

妹ばかりを贔屓し溺愛する婚約者にウンザリなので、わたしも辺境の大公様と婚約しちゃいます

新世界のウサギさん
恋愛
わたし、リエナは今日婚約者であるローウェンとデートをする予定だった。 ところが、いつになっても彼が現れる気配は無く、待ちぼうけを喰らう羽目になる。 「私はレイナが好きなんだ!」 それなりの誠実さが売りだった彼は突如としてわたしを捨て、妹のレイナにぞっこんになっていく。 こうなったら仕方ないので、わたしも前から繋がりがあった大公様と付き合うことにします!

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】君の世界に僕はいない…

春野オカリナ
恋愛
 アウトゥーラは、「永遠の楽園」と呼ばれる修道院で、ある薬を飲んだ。  それを飲むと心の苦しみから解き放たれると言われる秘薬──。  薬の名は……。  『忘却の滴』  一週間後、目覚めたアウトゥーラにはある変化が現れた。  それは、自分を苦しめた人物の存在を全て消し去っていたのだ。  父親、継母、異母妹そして婚約者の存在さえも……。  彼女の目には彼らが映らない。声も聞こえない。存在さえもきれいさっぱりと忘れられていた。

【完結】いいえ。チートなのは旦那様です

仲村 嘉高
恋愛
伯爵家の嫡男の婚約者だったが、相手の不貞により婚約破棄になった伯爵令嬢のタイテーニア。 自分家は貧乏伯爵家で、婚約者の伯爵家に助けられていた……と、思ったら実は騙されていたらしい! ひょんな事から出会った公爵家の嫡男と、あれよあれよと言う間に結婚し、今までの搾取された物を取り返す!! という事が、本人の知らない所で色々進んでいくお話(笑) ※HOT最高◎位!ありがとうございます!(何位だったか曖昧でw)

処理中です...