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■第2章 冒険者の町の冒険者ギルド!
104 美怜のお手伝い
しおりを挟む受け取ったお金をインベントリにしまうと、売った素材と商品を納めた。どうやら先ほどの倉庫ま奥には、仕分けするスペースと物を置くスペースのほかに、さらなる倉庫への扉があるらしい。そこに入るためのドアにも魔法陣が書かれていて、マルコの指示に従ってコリーナのまとめた数量と照らし合わせて納品を済ませた。
「ミレイは商人見習だったんだな。どの商品も質がいい。見る目があるぞ」
「違うのよ、マルコ。これらは全部ミレイちゃんのつくったものなの。トリミングっていうのよ」
「こっ、これ、全部をか……? となると、ミレイは職人見習なのか?」
マルコの驚きの表情に美怜は少しだけ微笑みを浮かべた。だが、すぐに浮かない顔つきになる。
「そういう働き口があればいいなと思いますけど……」
そんなことよりも、少しの間離れただけなのに、銀河のことが気にかかる。本心では隙を見て今すぐにでも様子を見に行きたい。ヒシャラとカクラがいてくれるからなにかあれば知らせてくれるはずだと思いながらも、銀河の顔を見て少しでも安心したかった。
そんな美怜を見て、コリーナとマルコが互いに顔を見合わせた。
「そうだわ、マルコ。倉庫が片付いたのなら忙しくなる時間まで、あなた少し間があるかしら? ミレイちゃんが使い魔のために餌の買い出しをしたいそうなのよ」
「それなら、行くか。そういえば、ロアンドから鞄を受け取ったぞ。これはミレイのか?」
「ありがとうございます」
昨日ロアンドらが取りに行ってくれたらしいリュックが美怜の手元に戻ってきた。裏路地に放り出された後、誰かに拾われ、中古道具店で売られていたところを買い取ってきたらしい。あちこち小さく傷がついているが、使う分には問題なさそうだ。リュックを背負うと、美鈴はマルコのあとをついていった。美怜の頭の片隅に、あのならず者たちの処刑が今日だと言う話が頭をよぎったが、あまり深く考えずに、今は買い出しを優先することにした。
ギルドを出て、改めて見る町並み。美怜からすると、なんとなくテーマパークみたいに見えなくもないが、それよりかは明らかに現実味があった。匂い、音、気配、空気。中世風のゲームやファンタジー映画なんか感じるよりも、ずっと人の暮らしの雰囲気に満ちている。とりどりの人種の人たちが思い思いの様相で辺りを闊歩している様を見ていると、この世界に没入しているという感覚というより、まさに迷い込んだ、という感覚の方が遥かに強い。
(本当にここ、異世界の町なんだなぁ……)
剣や弓を身に着けている目に見えて強そうな人たち。怪しげな魔法使いらしき暗い色のローブを着た一団。つばの広いいかにもな、とんがり帽子。見た目にも楽しい民族的な衣裳。蝙蝠の羽や蛇の胴体、獣のしっぽや大きな角。そうした特性に合わせた活動的な軽装。使い込まれた迫力の重装。まさに強者という感じで、既に治ってはいるが、顔や腕に大きな傷を持っている人もいる。人種の組み合わせもとりどりに顔を突き合わせて何か相談しているパーティ。この人たちのほとんどが冒険者なのだろう。
石畳の道の左右には木や石づくりの家や店が立ち並んでいる。看板で靴屋とか、布屋とか宿屋とかパン屋というのが一目で分かる。文字は読めない人や文化の違う異国の人にもわかるようになっているのだ。道を行くとやや開けたところに出た。どうやら広場らしく、露店商や移動販売や屋台飲食店がすでに店を構えて客の相手をしていた。
「あの露店も商人ギルドの人たちですか?」
「ああ、ランクは低いが登録しているはずだ。露店は貧しい行商や農村からの出稼ぎが多い。掘り出し物もあるが、ちゃんとしたものは町で店を構えているところで買う方が安心だ。まあ、俺は安いし手軽にさっさと食べられる屋台飯が好きだがな」
そういえば、今脇を通り過ぎた屋台の匂いは、今朝のあのピタパンのようなものと同じだ。マルコが良く買う店はさっきの屋台なのだろう。その店の隣ではなにかお粥、というより煮崩した芋のスープようなものが売られている。その中には黄色い団子が浮いている。店の周りはかなり人が集まってるので、どうやら人気店らしい。
「あれはピダウルの国民食、ポテモチスープだ。食ってみるか?」
「いえ、今はいいです」
「朝もあまり食ってなかったろう?」
「あまり食欲がないので……」
マルコの表情が気つかわしげだったので、美怜はにこっと笑って見せた。正直、銀河が起きるまでは落ち着いた気分で食事などできない。見た目は子どもだが、中身は大人。無駄な気をつかわせないように微笑んでおいた。さらに奥へ進んでいくと、いくつかの分かれ道を経て、目当ての通りにやってきた。旅番組で見かける外国の市場のように、肉や魚がその場でおろされいる。衛生大国の日本人的観念からすると少し、いやかなり粗雑に見える。生臭さが一気にムワッと押し寄せた。
「それで、使い魔たちはなにを食べるんだ?」
「ええと……、森では魚とウミミーやカワミーを食べていました。……あと小動物なんかを」
「だったらこの辺か」
マルコのあとをついていくと、動物やモンスターを生きたまま売っている店にたどり着いた。店先の籠の中には、ウサギやリス、鶏や狐などが入れられている。見たことのない生き物もいる。角の生えた猫のようなモンスターや羽の生えた小さな竜のようなモンスター、とげとげしい甲羅の亀のようなモンスター。すごい、と内心で呟いた。まさにビースタの世界だ。
「どれにする?」
「……えっ……?」
「生餌が必要なんだろ?」
生餌と聞いて頭がクラッとなった。慌てて首を左右に振る。
「い、生きてなくても大丈夫です……。と、というか、私が無理なので……」
「そうだったか。つまりもう解体済みの物の方がいいんだな?」
コクコクと慌て急いで頭を振った。ヒシャラもカクラも生餌のほうが断然喜んでくれそうな気がする。だが、目の前でそれを食べるところを平常心で見れる気がしない。さらに進んだところでの店先で、これまで食べたことのある魚が目に入った。
「あっ、これは海でよく食べました」
「プジか。じゃあこのへんの魚を買って行くか」
「はい」
どうやらアジだと思って食べていた魚はプジというらしい。プジのほかに色は真っ黄色だがカワハギのような見た目のシクロ、スズキに似たくっきりとした青と白のツートンカラーのオロという魚を手に入れた。値段も手ごろだし、漁獲量も十分あるらしい。魚屋のおじさんがいろいろと説明をしてくれた。リュックにしまうふりをしながらインベントリに入れて、魚のポートフォリオのために情報も収集しておく。
「オロは癖がないから煮ても焼いても揚げてもうまいよ。捕りたてのシクロは新鮮な肝がうまい。選んだどの魚も扱いやすいし食べやすい物ばかりだよ」
食べ方も地球とほとんど変わらないみたいでありがたい。大きさ重さによったちがいはあれど、プジは一尾五シリ貨、シクロは銅貨一枚三シリ貨、オロは銅貨三枚。漁獲量や仕入れ量によって日々値段も変わるそうだ。
(処理なしの魚が冷蔵庫で持つのは一日くらいだから、とりあえず今日ふたりが食べられる分だけにしとこう。あっ、そうか、冷凍庫もインベントリの中に作っておけば買いだめできるよね……。安い時に処理して冷凍しておこう。おいおいいろんな魚を買って、ポートフォリオ情報を増やしておけば、あとで、私と銀ちゃんが食べられるものを見分けられるようになるよね……)
美怜は魚の情報と価格をポートフォリオに記録したことを確かめてリュックを背負った。
「ほい、お釣りだよ。嬢ちゃん、親父さんに持ってもらわなくて大丈夫かい?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
「ぬ? 俺は父ではない」
「へえ、そうかい。じゃあ、あんたらは一体……」
「俺は冒険者ギルドのマルコだ」
「おっ? おお、ああ、そうだ! その制服、あんた冒険者ギルドの職員じゃねえか。ええと、そうするっていとぉ? 独り身のお前さんがなんだってこんなところに?」
「この子の買い物のついでだ」
「へえ、するっていとぉ、この子はお相手の連れ子かなんかで?」
「俺は今も独身だ。この子は今ギルドで預かっているんだ。変な勘繰りはよしてくれ」
「へぇ? ギルドはいつから子守りまでするようになったんだい?」
「仕事にもいろいろあるんだ」
「へぇ、そりゃまあ、ご苦労なこった」
「おじさん、ありがとうございました」
店先を離れながらマルコがつぶやいた。
「この通りにはめったに来ないとはいえ、まさか連れ子と思われるとはな……」
「すみません……。道はもう覚えたので次回からは自分で買いに来れます」
「いや、ミレイはしっかりしてるが、まだ慣れないことばかりだろう。さっきの広場ならまだしも通りによっては物騒な場所もある。俺がつきそうから、ひとりでは行動するな」
「すみません、お手数ですがよろしくおねがいします。あと、お肉も欲しいんですけど。あの、ヒシャラとカクラはMPの摂取が必要なので、できればモンスターのお肉を……」
「ああ、それならこっちだ」
通りを離れてさらに進むと、今度はやや雰囲気の違った場所にでた。どうやら、解体所らしい。大きく開かれた倉庫の扉の奥に、まさに今熊のような大型の獣が吊るされていた。大きな鉈を持った血に染まったエプロンの男が振り返った。
「おう、マルコ、どうした今日は」
「ああ、モンスターの肉を安く譲ってもらえないかと思ってな」
(うわぁっ、マルコさん……! 値段のことを気にしてわざわざここへ案内してくれたんだ。で……でも……っ、私は普通の肉屋のほうがよかったよぉ……)
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