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■第2章 冒険者の町の冒険者ギルド!
103 ギルドでの取引(3)
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彼らがいると銀河と美怜のことを詳しく話せないからだろう。コリーナがてきぱきと事務的に手続きを進めて、ジルドたちを部屋の外に案内しはじめる。出ていく間際にネルが何か言いたげに振り返った。そのとき、美怜もようやく気が付いた。銀河にポーションを飲ませてくれたということは、ムナのためにポーションを渡すという約束が反故になってしまったのだ。美怜は慌てて家族のもとに駆け付けた。
「銀ちゃんにポーションを飲ませてくれて、ありがとうございました……!」
「おねえちゃん……、言葉が」
「通訳の魔法か。ミレイ、すまない、良かれと思って話したんだが、逆にギンガを危険にさらしてしまったかもしれない」
「いいえ……、手遅れにならなくて、よかったと思います……」
美怜はポケットから金貨と銀貨を取り出す。不安と混乱でまだ手が震える。
「あの、これ……、ギルドからジルドさんとネルちゃんの治療費と慰謝料を受け取りました。わたしの説明ではこれだけもらうのが精いっぱいで……銀貨十三枚ずつ……」
青い顔をしながら震える指で金貨一枚と銀貨六枚を数える美怜。健気に硬貨を乗せた手を差し出す姿を見て、突然ナラがうっとうめいて口元に手をやった。五カ月目でまさかお腹の子が、と一瞬誰もがヒヤッとしたが違った。ナラが涙目になって苦しそうに唸きながらぽつぽつと溢す。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……! 私が、余計なことをしなければ……、もっと……早く、ギンガにポーションを飲ませていれば、こんなことに、ならなかったかもしれないのに……!」
「え……?」
ナラがむせび泣くのをムナとネルが気まずそうに寄り添っている。ジルドがため息をついた。
「ギンガがやられたあと、すぐにギンガはポケットからポーションを取り出した。だが、自分の力じゃ飲めなかったんだ。だから、すぐわきにいたナラがそれを受け取った。飲ませようとしたそのとき……」
ナラはくるりと後ろを向き、ムナの手にポーションを握らせた。銀河より、目の不自由な母を助けたい、自分の家族を優先したいそう思ったのだ。美怜はさあっと体温が下がる気がした。ネルが泣きそうな顔で首を横に振った。
「ほ、本気じゃなかったんだよ! でもお母さん、昨日と今日ですっごく怖くなっちゃったの」
ネルの擁護に続いて、ムナはナラの手を強く握り、ジルドの支えを頼りに前へ出た。
「どうか許しておくれ。昨日は夫と娘がやられ、今日は子どもふたりが目の前で連れ去られ、叩きのめされた。ナラの心の奥に、あんたたちと関わったばっかりに、そういう気持ちがチクッと生まれてしまったんだ。あんたたちは悪くない。でも身重で小さな子を抱え、年寄りの面倒を見なきゃならないナラは、怯えちまったんだよ。怖くなって、気持ちが石ころみたいに小さく固くなっちまって、とにかく自分と家族を守りたい、そう思ったんだ」
ムナが人生を刻んだ顔と手を震わせて、一言一言をそこへ置くように慎重に話している。
「銀ちゃんにポーションを飲ませてくれて、ありがとうございました……!」
「おねえちゃん……、言葉が」
「通訳の魔法か。ミレイ、すまない、良かれと思って話したんだが、逆にギンガを危険にさらしてしまったかもしれない」
「いいえ……、手遅れにならなくて、よかったと思います……」
美怜はポケットから金貨と銀貨を取り出す。不安と混乱でまだ手が震える。
「あの、これ……、ギルドからジルドさんとネルちゃんの治療費と慰謝料を受け取りました。わたしの説明ではこれだけもらうのが精いっぱいで……銀貨十三枚ずつ……」
青い顔をしながら震える指で金貨一枚と銀貨六枚を数える美怜。健気に硬貨を乗せた手を差し出す姿を見て、突然ナラがうっとうめいて口元に手をやった。五カ月目でまさかお腹の子が、と一瞬誰もがヒヤッとしたが違った。ナラが涙目になって苦しそうに唸きながらぽつぽつと溢す。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……! 私が、余計なことをしなければ……、もっと……早く、ギンガにポーションを飲ませていれば、こんなことに、ならなかったかもしれないのに……!」
「え……?」
ナラがむせび泣くのをムナとネルが気まずそうに寄り添っている。ジルドがため息をついた。
「ギンガがやられたあと、すぐにギンガはポケットからポーションを取り出した。だが、自分の力じゃ飲めなかったんだ。だから、すぐわきにいたナラがそれを受け取った。飲ませようとしたそのとき……」
ナラはくるりと後ろを向き、ムナの手にポーションを握らせた。銀河より、目の不自由な母を助けたい、自分の家族を優先したいそう思ったのだ。美怜はさあっと体温が下がる気がした。ネルが泣きそうな顔で首を横に振った。
「ほ、本気じゃなかったんだよ! でもお母さん、昨日と今日ですっごく怖くなっちゃったの」
ネルの擁護に続いて、ムナはナラの手を強く握り、ジルドの支えを頼りに前へ出た。
「どうか許しておくれ。昨日は夫と娘がやられ、今日は子どもふたりが目の前で連れ去られ、叩きのめされた。ナラの心の奥に、あんたたちと関わったばっかりに、そういう気持ちがチクッと生まれてしまったんだ。あんたたちは悪くない。でも身重で小さな子を抱え、年寄りの面倒を見なきゃならないナラは、怯えちまったんだよ。怖くなって、気持ちが石ころみたいに小さく固くなっちまって、とにかく自分と家族を守りたい、そう思ったんだ」
ムナが人生を刻んだ顔と手を震わせて、一言一言をそこへ置くように慎重に話している。
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