上 下
28 / 42
■第1章 突然の異世界サバイバル!

021 異世界の洗礼(3)※

しおりを挟む
※ お知らせ ※ このページには一部において暴力描写があります。気になる方や読みたくない方は、スルーして次のページへお進みください。このお話はフィクション(創作)です。現実の社会では、どのような場合であっても、暴力や犯罪行為は許されません。それをご理解いただける場合のみご覧ください。このお知らせの意味が分からない場合は、周りにいる頼れる大人に相談してみて下さい。


  穏やかな夜が過ぎ――。
 次の朝もいつものように迎えられると思っていた銀河と美怜だったが、突然の騒々しい音に目を覚ました。
 ――ドカッ、ドグッ!

「ぐはっ!」

 明らかにもみ合うような音と、なにかの打撃を受けた声。声の主はジルドに違いなかった。

「ピッカランテッカラン、コール!」

 慌てて叫んだとき、隣で寝ていたはずの美怜が悲鳴を上げた。ピッカランテッカランが興奮して順番どおりに並んでくれない。灯りがついたり消えたりしている。

「ピッカランテッカラン、ちゃんと整列しろ!」

 そのとき、ネルの声が甲高く響いた。

「だめぇっ、おねえちゃんの鞄はなしてぇっ!」
「離れろっ、ガキ!」

 ――ガスッ、ドサッ!

 その音と振動に、銀河と美怜は一瞬で背筋が寒くなった。銀河はさらに鋭く声を上げた。

「ピッカランテッカラン、いますぐ早く整列しろ!」

 複数の何者かがかけ去っていく音。ようやくピッカランテッカランが整列して明かりがともったとき、ジルドとネルが血を流してそこに倒れていた。

「ジ、ジルドッ! ネル!」
「なっ、なにが、なにがあったんだい!?」

 ナラが叫び、ムナが手探りで事態を把握しようと必死になっている。ジルドは殴られ、蹴られたらしい腹を抱えてうめいている。ネルは意識すらない。

「ぎ、銀ちゃん……!」
「みれちゃん、無事!? リュックは?」
「と、盗られたみたい……」
「ああっ、ジルド! ネル!」
「怪我かいっ? 誰からやられたんだね!?」

 ムナとナラ、そして美怜が必死にふたりを介抱し始めていた。それを見て、銀河の頭が、かあっと熱くなった。

(どうして、こんな……っ、許せない……!)

 ジルドが忠告してくれたのに、もっと慎重にするべきだったのかもしれない。でも、彼らと仲良くなれたことがうれしくて、自分のつくったものを喜んで使ってもらえる、そのことに喜んでいる美怜を見ている自分も幸せで、すっかりこの街に溶け込めたような気がしてしまっていた。油断した。町に着いたことで、人がたくさんいることで、楽観視をしすぎたのだ。こんなの、森にいたほうがまだ安全じゃないか。モンスターよりも人のほうがはるかに凶悪だ。銀河は腹の底がぐらぐらと燃えるような気がした。

「銀ちゃん、どうしよう……! マロカゲ……ッ」

 銀河は素早く治療系ブーンズをコールした。光りと共に突然現れたカタサマ、マロカゲ、マチドリに、ナラが驚き、銀河と交互に見つめる。

「こ、これは……?」

 説明するほどの冷静さもなく、銀河はただ目を走らせていた。ジルドは大量の血を吐きながら、お腹を抱えてジタバタと蠢いている。どう見ても、口が切れた程度の出血量じゃない。多分内臓から血が出ている。マロカゲで外傷だけ直したとしても意味がない。

 ネルは呼吸と脈はあるが、ひどく殴られたらしい頭はわずかに陥没していて、血が流れるとともに完全に気を失っている。こんな小さな体でよく悪漢に逆らってリュックをまもろうとしてくれたものだ。無謀を通り越して、もはや尊敬の念すら感じる。

「銀ちゃん、お願い、助けてあげて……っ!」

 美怜がポロポロ涙を流してネルの手を握っている。

「できる限りのことをやってみるよ、みれちゃん! マチドリ、まずはふたりに麻酔だ!」
「ミーッ!」
「な、なに、なにをしているの?」
「なにがおこってるんだね?」
「ナラさん、ムナさん、できる限り、今手当てを、銀ちゃんがしてくれるって!」

 マチドリがお尻の針をそれぞれに注射した。ネルは変わりなかったが、ジルドはすぐに大人しくなり、すうっと眠りについた。

「ジッ、ジルド!?」
「大丈夫、眠っただけだよ……!」

 美怜の説明でナラとムナが開きかけた口を閉じる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

あれ?なんでこうなった?

志位斗 茂家波
ファンタジー
 ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。  …‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!! そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。 ‥‥‥あれ?なんでこうなった?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!

八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。 『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。 魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。 しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も… そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。 しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。 …はたして主人公の運命やいかに…

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

わたくしへの文句くらい、ご自分で仰ったら?

碧水 遥
恋愛
「アンディさまを縛りつけるのはやめてください!」  いえ、あちらから頼み込まれた婚約ですけど。  文句くらい、ご自分で仰ればいいのに。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

処理中です...