21 / 42
■第1章 突然の異世界サバイバル!
018 エルフの風の弦
しおりを挟む天候に恵まれた朝、いつも通り食事を終えると、銀河と美怜はブーンズに今日の仕事を申し渡すために召集をかける。まずは昨日の成果についてだ。
「よし、全員いるな? 昨日はみんなよく頑張ってくれた。早速だけどこれを見てくれ」
掲げたタブレットには、昨日収集によって大きく変ったポートフォリオのデータが円グラフと数字で表示されている。素材の種類はこれまでに比較して三十二パーセント、容量は十一パーセントほど増加していた。素材それぞれの収集量は微々たるものも多く、大したことがないようにも思えるがが、多くの発見はあった。地球では宝石として人気のあるヒスイが見つかったり、動物のようにくねくね動く植物、魔草が見つかった。
「欠片があるってことは、上流のどこかにもっと多くヒスイが眠ってるってことかもしれませんぜ。宝石のことは詳しくねぇんで、いくらの値が付くのかは検討がつきませんが」
「この魔草はどう?」
「いやぁ、多分魔法薬の材料とかになるんでしょうが、俺にはとんと」
「まあ、町に着けばわかるだろう。それから、収集量の三十八パーセントが使い道のないものという結果だった。このデータを元にして今日の収集はより精度を上げてもらいたい」
「む~!」
「む~!」
「む~!」
「ミー」
「ニー」
「フル~」
「もっしゃ、もっしゃ」
「チュー!」
「クー!」
「フィー」
「シュルー!」
「ピー」
「スー!」
「ナー!」
「ウラー!」
ブーンズが各々返事を返した。銀河は昨日と同じようにそれぞれに役割を伝え、今日は移動しながらの収集をやってみることにした。美玲がナイフアイ、スプーンアイ、スティックアイにそれぞれに小さな菱形の木と蔦草で作ったペンダントを掛けた。
「フィー?」
「シュルー?」
「スー?」
「みんな、この菱形を見ててね? これは、私のインベントリの中に直接通じているの」
美怜は近くで拾った枯葉を菱形に掲げて見せた。一瞬菱形の周囲の空間がゆがむと、葉っぱがスッと消えていく。
「へぇ、すごいな!」
「お嬢は、そんなことまでできるんですか。器用なんですなぁ!」
「みんなが集めたものはこれでインベントリの中に入るからね。ナイフアイとスプーンアイは、チューリンとクリンが集めたものをここから入れてあげてね」
「移動しながらだから、収集系ブーンズがはぐれないように、よく目を配ってくれ」
「フィー!」
「シュルー!」
スティックアイが一体だけ、ツンツンと鼻を揺らしている。
「ねぇ、銀ちゃん、ステッィクアイにもいないの? チューリンやクリンみたいな収集の仲間」
「スー、ススー!」
そうだよと言わんばかりにスティックアイが声を上げた。銀河がにわかに気まずそうにした。
「いないこともないんだけど……」
「じゃあ地下の素材を収集するブーンズ、出して欲しいな。私、お願いしたいものがあるの」
「いや……、でも、うーん……」
「まだイメージが固まってないの?」
「そういうわけじゃなくて……。ちょっと、待ってね……。みれちゃん、これ、大丈夫?」
銀河がタブレットを操作し、画面上に一体のブーンズを表示させた。そこにいたのはミミズ型ブーンズだった。ただしカワミーらと違うのは、愛嬌のある可愛らしい目と口。そして、カラフルな虹色をした体だ。端からそれを覗き込んだカクラが「だからか」というように目を細めたそのとき。
「わっ、可愛い」
「えっ!?」
「ど!? どう見てもカワミーですぜ、お嬢!?」
美怜がきょとんと顔を上げた。その顔つきには、カワミーやウミミーに対するような忌避感が全くない。
「だって、銀ちゃんの描くミミズ、絵本のミミズみたいで可愛いよ? それにこの子はブーンズだから、私たちに襲い掛かったりしないよね」【※71】
「そ、そうか、よかった~! 色はともかく、モンスターともろ被りだし、アイデアとしては安直すぎだし、みれちゃんにこれを見せるかどうか迷ってたんだよ~」
「この子なら全然大丈夫! 名前はなんていうの?」
「ペロミンだよ。早速ギブバースするね」
「どう見たって同じにしか……、俺には違いがわかんねぇですぜ……」
早速ギブバースされた六匹のペロミンを見ても、カクラにはカワミーの小さいやつにしか見えない。あるいは薄目に見れば、カラフルな紐に見えないこともない。
「よし、お前たちもスティックアイの指示に従って、地中の素材集めをしてくれ! 土の中はきっと、素材の宝庫だぞ!」
「銀ちゃんのブーンズはいつもみんな可愛いねぇ」
「ぺー!」
にこにこしながら自己紹介の挨拶をしている美怜を見るカクラには、美怜の良し悪しの基準がさっぱりだった。
「みれちゃん、それでなにを頼みたいの?」
「あっ、土なの! 陶芸に仕えそうな粘土質の」
インベントリの美怜がトレーニングを続ける中で、冷蔵庫のように冷やすことができるなら、逆に熱くもできると仮定して、陶芸窯が作れるのではと思ったのだという。
「へえ! いい土が見つかれば、陶器の食器も作り出せるってこと?」
「うん、いろいろ試してとは思ってるんだけど。インベントリの制約っていうのかな、それが少しわかってきたの」
「へえ、どんな?」
美怜は一台目の冷蔵庫の失敗後いくつかの試行をしていた。その結果を銀河に再現して見せる。インベントリから、二枚の木皿が取り出された。見た目はほとんど変わりがない。間もなく、一枚の木皿が、あのときの冷蔵庫と同じようにさらさらと霧散して消え始めた。
「あれっ、片方だけ、あの時と同じだね」
「残ったお皿は、木材からトリミングして作ったお皿。そして、今消えちゃったのは冷蔵庫とおんなじように図面とBPだけで作ったお皿なの」
「BPで作った……。そうか! 実際に手に入れた素材を使っているかどうかの違いだね!」
「そう。同じ要領で塩も作ってみたよ。こっちが、海水から水分とにがり成分を取り除くようにしてトリミングしてできた塩。こっちはBPだけで作った塩。すぐ消えちゃうから、こっちのBPの塩から食べてみて」
その場に残った木皿の上に、二種類の塩が出てきた。言われた方から味見をしてみる。
「ん、これは……。あれ、ちょっと待ってこっちも……うん。どっちも美味しいけど、BPの塩はなんか、すって消えるっていうか、味が薄いっていうか……」
「そうなの。やっぱり素材から作ったもののほうがおいしいの。でも、インベントリの中で食べると、ちゃんと味がするんだよ」
「えっ、みれちゃん、インベントリの中に入れるようになったの!?」
「うん、まだ数回かしかやってないんだけど、ピーズを中に入れても大丈夫かどうか確認するために、入ってみたよ。中でもちゃんと息ができるし明るさもあるし、問題ないみたい。でも、ちゃんと床を作っておかないと落っこちちゃうかもしれないから、今はピーズが安心して作業できるスペースを作ろうと思ってるよ」
銀河は以前美怜が描いた3Dの空間を頭に思い浮かべながら、ふんふんと聞いた。
「始めからBPだけで作ったものは、こっちに取り出すとすぐ消えちゃうんだけど、インベントリの中では使い続けられるの。たぶん、インベントリの中にある間はBPが供給されているけど、外に出しちゃうと供給が切れちゃうからなんだと思う」
「インベントリの中は、みれちゃんのBPが接続……いや、充満している状態なのかもなぁ」
「あと、すごく不思議なんだけど、こういう機能が欲しいってはっきりわかっているものは、細かな設計がなくてもBPは働いてくれるの」
「あ、つまり、冷蔵庫だね?」
冷蔵庫に限らず、地球で使うあらゆる家電や機械は、当然ながらあらゆる機能装置が組み合わさって構成されている。この機能を自動化し、全ての装置が問題なく連結し働くようにするのがエンジニアの技術なわけであるが、インベントリの中では、こういうユニットがある、とか、こういう機能が欲しいと願うことで、勝手に作れしまうそうだ。
「ただ、これもインベントリの中だけで、外へ出すには適した素材や実体の伴ったものがないとダメなの。車があったら便利だと思って、作ってはみたんだけど、ボディや外観は作れても、今のところ、外に出したとたんただのハリボテにしかならないの」
「ええっ、でもすごいよ。インベントリの中なら車が走れるってことでしょ?」
「うん、街ができたら移動にモビリティは必要だし、木材や岩とかを運んだり粉砕したりする重機もいると思って」
銀河は目を見開いてまじまじと美怜を見た。美怜の成長が予想以上に著しい。このままいけば、本当にインベントリの中に作業場や家や街ができる日は遠くないかもしれない。
「いいなぁ、僕もみれちゃんのインベントリに入ってみたいよ」
「いいけど、それにはまだBPもトレーニングも足りないかも。できそうになったらまた知らせるね」
「うん!」
「あっ、あと銀ちゃんにもお願いしたいことがあるの」
「うん、なになに?」
「ちょっ、ちょっと待ってくだせぇ!」
カクラが両手で頭を抱えながら目をぐるぐるさせている。
「トリ……とかキカイとか、初めて聞く言葉ばかりでついていけねぇです……! 土の素材を集めるために必要な話ってことはなんとなくわかったんですが……。今は、お頭とお嬢が、とんでもなく頭がいいってみてぇだってことしか、俺には伝わってこねぇですぜ……!」
必死に理解しようと苦労していたカクラの隣では、ヒシャラが自分にはなにも関係ないこととして樹木のように佇んでいた。元大蛇の耳には聞き取れたところで重要度も緊急度も低い音声の羅列。波の音や風に揺れる草木の音と同じくらい無関係と思っているかも知れなかった。
一方、言葉を持つ種族でも、カクラには荷が重かったようだ。カクラは深く考えることが不得手らしく、自分の理解を超えるものに対して、探求意欲や興味を強く抱くようなタイプでもないようだ。これはある意味幸いだったかもしれない。銀河と美怜は余計なことを話さなくて済むし、ここまでの動向を見ても、カクラは見たものについて好いたように勝手に早合点してくれる。
「ごめんカクラ。君に必要なことは必要なときにちゃんと伝えるから、わからないことは聞き流してくれていいよ」
「へえ、そうしてくれるとありがてぇです……。もう頭の中がスープが煮えたぎってるみたいで……」
フラフラと頭を振るカクラを見て、これまでの冒険者の仲間のあいだで、なんとなくカクラの立場が垣間見えた気がした。続きはあとで話すことにして、一行は出発した。銀河はさりげなく美怜のステータスを眼鏡で確認した。
(BPが、いつの間にこんなに……! 僕の五倍近くあるぞ!?)
驚きに声が出そうになったが、インベントリの中に冷蔵庫だけでなく工場や車や街ができるとなると、それくらいの保持量でもなんら不思議でないような気がしてくる。そもそも全方位無限に広がっている空間に、好きなだけ物を出し入れできるというだけでも、すごいをゆうに通り越す、ものすごいスキルなのは間違いない。さらにいえば、ここまでさまざなに多様かつ複合的なスキルを有しているのに、呼び方がインベントリのままでいいのかいうのは疑問は残るが……。それを口にすれば、美怜のことだからきっと「不思議な世界の不思議な力」といった大雑把にひとくくりでまとめられてしまうのだろう。
(ここへきて、ゲームやファンタジー知識のないみれちゃんのメリットが大きい……!)
かつてやり込んだ都市経営型の箱庭ゲームを思い出すと、思っても仕方のないことに銀河は頭を悩ませた。自分の好きなように街のあれこれを無限空間でリアルに作り出せるなんて、絶対おもしろいに決まっている。GBアプリとインベントリはリンクできるし、3Dデータが作成ができるのだから、美怜の作る町に、銀河のデザインしたものを置いてもらえるかもしれない。そう思うと、ブーンズを生みだすこととは別の興奮とわくわく感が湧いてくる銀河だった。
移動しながらの収集は特にトラブルや混乱もなかった。収集量にも大きな減少は見られず、これならピーズを増やして仕分け作業部門を強化できればこれからずっと続けていけそうだ。昼になったら、自分たちの休息を兼ねてブーンズのステータスを確認する。疲れたり怪我をしていないかを確認して、必要なら休ませたりマチドリやマロカゲに治療をしてもらう。カタサマがフルパワーで薬草を食べてくれているので、もうしばらくしたらポーションの効果も試すことができるだろう。ちゃんと効果があるとわかればカタサマは個体数を増やしてもいいと銀河は思っている。冒険者のいる世界で、ポーションに値段がつかないわけがないからだ。
「みれちゃん、お鍋を火にかけていいかな?」
「あっ、うん、お願い。私ちょっとエコロとお花摘みに行ってくる」
そう言うたびにいつも少し恥ずかしそうにしているので、本当は早くウォッシュルームが欲しいのだろう。そそくさと木陰の奥に消えていく。その間に四人分の材料の入った鍋をかき混ぜる。海で獲って保管しておいた貝や昆布、収集を重ねるたびに豊富に取れるようになった野草や香草、それから川で捕れた新鮮な魚を海の塩で味付けたいつものスープだ。そして。森の中では比較的毎回よく採れる、赤と青のベリー。
すぐに食べられる携帯食料としては干物を焼いてさらに干した干し魚は豊富にある。量はわずかだから少しずつ食べることになるのは、ナッツ類、ポップコーン。干しベリーもあるが、干したものより生のほうが断然おいしいので、まあ食べるにしても大分後回しになっている。塩水も塩も豊富にあるので、味付けにもひとまず困ってはいない。
「昨日の山芋おいしかったなぁ。いつものスープもおいしいんだけど、味に変化が欲しいんだよな。あとはやっぱり肉。肉が食べたいよなぁ……」
ヒシャラとカクラは魔石が取れるモンスターを標的にしているし、アイズもタンズも獣を狩るだけのレベルにはまだ達していない。森の中でウサギやリスなどの小動物は幾度も見かけているが、野生生物の俊敏さにはとてもじゃないが銀河には手が出ない。
(それに、捕れたとしても捌くのが問題なんだよな。グロいの苦手だし、みれちゃんもやったことないし怖いって言ってた。ラノベだったら解体スキルとかでパパッといくんだろうけど……。解体専門のブーンズを作るか……? うーん、スプラッターな悪役顔しかイメージが湧いてこない……)
「お頭、肉なら俺が捕まえてきやしょうか?」
「うーん、カクラが絞めて皮をむいて解体してくれるなら」
「えっ、丸飲み専門の俺にそんな芸当ができると思ってるんですかい?」
「やっぱりか」
そんなとき、茂みの向こうから美怜とエコロが慌てたように走ってやって来るのが見えた。
「銀ちゃーん!」
「フルル~」
「えっ、どうしたの、みれちゃん!?」
「なんか、宇宙人がいたーっ!」
「宇宙人!?」
息を切らせた美怜は驚きを浮かべていたが、恐がっている様子はない。不思議なものを見たという単純な興奮のままに、まずは報告しようと駆けて来たらしい。
「宇宙人って、どんなだった?」
「物陰に隠れていて、頭しか見えなかったけど、青くて、耳が長くて。見たらすぐ隠れちゃった」
急いでレーダーで確認する。辺りは斥候系ブーンズがいたはずなのに、なんの反応もなかった。レーダーを最大まで広域にすると、緑色の点がひとつだけ、一行から離れた場所にあった。その他の赤い点はスライムやカワミーを差しているはずだ。
「このマーカーがそうみたいだ。緑ってことは敵じゃない……?」
「モンスターなら赤、仲間なら黄色だよね?」
「みれちゃんを連れ去るグレゴは、はっきり赤だった。僕らにとって害意を持つ者は赤になるということは間違いないとして、緑は……。うーん、敵ではないというよりかは、敵だと認識するには離れすぎているとか、情報がなさすぎるってことなのかも……」
「まだわからないってことだね」
「ほうほう! お頭にはこんな探索スキルもあるんですかい? 便利ですなぁ! よし、ここは俺がちょっと行って確めてきやしょうか?」
「そうだな。頼めるか、カクラ」
「任せてくだせぇ!」
カクラが素早く森の中に入って行った。元A級冒険者のカクラなら安全に偵察をして戻ってくるはずだ。
「それにしてもここへきて宇宙人か……。僕達、異世界に来たと思っていたけど、みれちゃんが言うように宇宙人に改造させられて、宇宙人の作った星に転生させられたのかもしれないね。ちなみに、どんな見た目の宇宙人だった? 描いてみてくれる?」
「うん」
差し出されたタブレットとペンを受け取ると、美怜はまず木の幹らしき縦線を引いた。そこから頭らしきものが丸くはみ出ていて、その横に縦に長い耳が描かれた。これだけのフォルムでは推定しかできないが、考えられそうなのはグレイ型で耳の長いタイプだろうか。あるいは、耳に見えたのは宇宙人のイメージによくある、電波を受信できそうな触角のようなものかもしれない。
「顔は見えなかった?」
「すぐ隠れちゃって、よくわからなかった。でも、青い頭で青い目だった気がする」
しばらくして、カクラが戻ってきた。全く緊迫した様子は見られない。やはり敵ではない、あるいは害意のある相手ではなかったということだろう。
「心配いりませんでしたぜ! ただの風耳族でした」
「風耳族?」
「おや、お頭もその反応じゃ、国に風耳はいなかったんですな? まあ、比較的大人しい連中で保守的なところがありますからねぇ。向こうにいるのも、大人しい……というか、なにやらひとりでべそべそ泣いてましたが、多分五、六〇〇歳くらいの風耳の雌ですな」
五、六〇〇歳と聞いて、美怜が目を丸くして「宇宙人ってそんなに長生きなんだ」とつぶやいたが、銀河の頭には全く別の想像がよぎった。
(か、風耳族って……もしかしてエルフ……!?)
俄然、見てみたい欲求が膨らんできた。転生した初っ端、異世界転生を想像した銀河に比べて、美怜が想像したのは宇宙人による誘拐と人体改造だ。美怜ならエルフの耳を、宇宙人の耳だと思うことは大いにありうる。
「みれちゃん、行ってみようよ! カクラ、風耳族は大人しいんだろ?」
「へぇまあ、大人しいっていうより、始まりの森に来てべそかいているぐらいなんで、冒険者になりたての風耳かと思いやすが……。でも、接触する利点はなさそうですぜ? 装備も随分少なかったですし、正直あんな頼りない様子では、こちらのためになる情報や条件も持っているとは期待できねぇえです。関わるだけ無駄ってもんですぜ」
「だけど、僕は会ってみたいんだよ!」
「風耳族なんて、エンファに着けばいくらだっていますぜ?」
「いま会いたいんだよ~!」
カクラは意味がなさそうに言うが、銀河にとってはエルフと言えば、異世界物語の定番種族であり、美人というのがお約束。ファンタジー美女を遠くからでもいいから見たい。できることならぜひ、接触を図ってみたいというものだ。見た目は子供でも頭脳は大人な銀河なのだった。
「みれちゃんはどう?」
「うーん、銀ちゃんがそんなに行きたいなら……。危なくなければいいけど。でもひとりで泣いてるなんてどうしたのかな……? 迷っちゃったのかなぁ」
「だよねっ? よしっ、行ってみよう!」
自分の経験則から同情的な態度がにじむ美怜。自分がこの森でひとりだったら、と考えたのだろう。渡りに船とばかり乗っかった銀河は、我先にとレーダーの緑の点を差し、先導を勝って出た。ひとまず火から鍋を下し、ヒシャラに留守番を頼んで、カクラを同行させることにした。
「会ったところでめぼしい収穫はないとは思いやすがねぇ……」
「このあたりのはずだ」
「あっ、銀ちゃん、あの耳、ほら宇宙人みたいでしょ?」
一度目にしていた美怜はすぐにその形を見つけることができたらしい。三人の話し声が届いたのか、ぴくっと木陰の中で青っぽい影が動いた。次の瞬間、三人と風耳族の女性の目が合った。
「あ、宇宙人、じゃない!?」
宇宙人ではなかったが、色や耳の形は美怜の言ったとおりだった。青い長い髪に、尖った長いエルフ耳。釣り目気味の大きな目。銀河の期待通りの美人エルフだったが、泣きはらしたかのように目元が赤い。だが、目が合ったのは一瞬で、風耳族はすぐに木陰に隠れてしまった。
「こちらをかなり警戒しているようですな。むやみに近づくと手向かってくるかもしれませんぜ。風耳は風や水属性の遠距離魔法に長ける奴が多いですから油断できませんぜ」
「怖がっているみたい……。今はそっとしておいて欲しいのかも」
(そんな、せっかく来たのに……。それに魔法が使えるなら、使うところを見せて欲しいよ……!)
とはいえ、そんなわがままを言えるはずがなく、来た道を戻ろうと三人が背を向けたときだった。
――ぐうぅぅ~……。
「あれ、銀ちゃん、お腹鳴った?」
「いや、僕じゃない……」
「俺でもねぇですぜ」
10
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
あれ?なんでこうなった?
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、正妃教育をしていたルミアナは、婚約者であった王子の堂々とした浮気の現場を見て、ここが前世でやった乙女ゲームの中であり、そして自分は悪役令嬢という立場にあることを思い出した。
…‥って、最終的に国外追放になるのはまぁいいとして、あの超屑王子が国王になったら、この国終わるよね?ならば、絶対に国外追放されないと!!
そう意気込み、彼女は国外追放後も生きていけるように色々とやって、ついに婚約破棄を迎える・・・・はずだった。
‥‥‥あれ?なんでこうなった?
異世界でのんびり暮らしてみることにしました
松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。
子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても無問題!
八神
ファンタジー
主人公『リデック・ゼルハイト』は子爵家の長男として産まれたが、検査によって『魔法適性が一切無い』と判明したため父親である当主の判断で孤児院に預けられた。
『魔法適性』とは読んで字のごとく魔法を扱う適性である。
魔力を持つ人間には差はあれど基本的にみんな生まれつき様々な属性の魔法適性が備わっている。
しかし例外というのはどの世界にも存在し、魔力を持つ人間の中にもごく稀に魔法適性が全くない状態で産まれてくる人も…
そんな主人公、リデックが5歳になったある日…ふと前世の記憶を思い出し、魔法適性に関係の無い変化魔法に目をつける。
しかしその魔法は『魔物に変身する』というもので人々からはあまり好意的に思われていない魔法だった。
…はたして主人公の運命やいかに…
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる