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■第1章 突然の異世界サバイバル!
009 タカラコマ ヒシャラ!
しおりを挟む「きゃああっ、なにこれっ、やだぁっ!」
美怜の声でまだ寝ていた銀河とブーンズが飛び起きた。ずり落ちた眼鏡をかけ直して慌てて声のする方を見ると、美怜が必死に枝でなにかを払っていた。その足には透明なゼリー状の塊がひとつ張り付いている。イコが慌てたように美怜のまわりを素早くひらひらひらひらと動き回っていた。
「み、みれちゃんっ!」
「ミーッ!」
「ニーッ!」
「フルーッ!」
銀河とマロカゲ、マチドリ、カタサマ、エコロ、ピッカランテッカランが一斉に駆け寄ろうとすると、ゼリーの塊が素早く美怜のスニーカーのすき間からその中に入り込んだ。そのままスポッとスニーカーを脱がしたかと思うと、そのゼリー状の体の中に包み込むようにして、高速で奪い去っていった。
「大丈夫、みれちゃん!?」
「……ぎ、銀ちゃぁん……、靴、盗られたぁ……!」
枝を握りしめたまま小刻みに震え、今にも泣きだしそうな美怜。銀河はなだめながら急いで様子を確認した。青ざめ、頬まで鳥肌が立ってはいたが怪我がないことがわかり、ホッと息をついた。
「現れたのはついさっき?」
「わ、わかんない……、急にあの水のゼリーみたいなのが飛んできて……。はじめエコロかと思ったけど、色が違うし、全然言うこと聞かないし、離れてくれないし、気持ち悪いし……」
「多分あれはスライムだよ!」
「スラ……?」
銀河にはすぐにピンと来ていたが、美怜は目の前で見た動く水のゼリーとスライムという言葉がうまくつながらなくて、しばらく固まった。美怜にとってスライムと言えば、あの超人気ゲームのくりっとした目ののほほん顔をした水色の可愛いキャラクターだ。ぶよぶよして、捨てられたガムのようにべたっとしてはがれない、透明なでっかいナメクジみたいな、あんな気持ち悪い奴ではない……!
「あ、あれが……?」
「うん、そうだよ……!」
「そういえば、あれ、昨日もいた……。ユリタンが昨日見つけてすごく警戒してたの。そのときは全然動いてなくて、ただの水のゼリーの塊みたいだと思ったんだけど……」
「み、みれちゃん……! なんで教えてくれなかったの?」
「ご、ごめん! 小屋のことが嬉しくて、つい言いそびれてた……。ていうか、なんだったのかよくわかってなかったの……」
「そ、そうか……。それじゃあしかたないね……。でも、次からは普通じゃない物を見かけたら必ず報告して!」
「う、うん……!」
美怜をかばうようにして、ブーンズみんなとでひとまとまりになった。美怜が襲われたとなると、カラコマ瓢箪があるとはいえ、すぐにここを去ったほうがいいだろう。
「とにかく荷物をまとめよう。あれっ、タンズは?」
「ごめん、水と食料の採集を頼んじゃった……!」
「そ、そうか……。と、とにかく、戻ってきたらすぐ出発できる準備をしよう! あれっ、この木の食器は……!?」
「あ……、それ、昨日見つけた木のブロックから作ったの……。実は集中し過ぎて徹夜しちゃった……」
「ええっ、すごい……っ!!」
状況が状況でなければこの感動をもっと力いっぱい表現したいところだが、今はそれどころではない。美怜のリュックに食器と残った木のブロックを入れるのを手伝った。まるでほとんど何も入っていないかのように軽いリュックを背負って美怜が言った。
「銀ちゃんから、タンズに戻ってくるようにコールすることはできないの?」
「あ、そうか……! ちょっと待って」
銀河は眼鏡に命じて離れているブーンズに呼びかける通信機能のようなものがないかを探した。
「GBから命じることができるのは、タブレットから現実へ呼び出すコールだけだ……。せめて、みんなの位置がわかれば迎えに行けるんだけど……」
「サーチ機能を開始します」
「えっ!」
眼鏡にそのポップアップ表示が出た後すぐ、方向指示の矢印表示が出た。タブレットを確認すると、現在地を中心に、タンズがそれぞれどこにいるのかが簡易的な東西南北の指標とレーダーでわかるようになっている。レーダーに反応を示す黄色のピンには、それぞれヒトエタン、クラウンタン、ユリタンのアイコンが紐付いていた。銀河がタブレットと眼鏡の画面を確認して南東、西、北西の順に指をさす。
「あっちにユリタン、ヒトエタン、クラウンタンだ。一番近いのは……あっ、ちょっと待って!」
タブレットの画面にレーダー検知されたなにかが、一瞬にして赤いピンで表示された。それも一度に無数に……! 同時にEmergency:緊急事態を知らせるポップアップが黄色と黒の警告色の枠で表示され、アラート音と点滅を繰り返す。
「こ、この赤い点、もしかして……モンスター……!?」
「ひぇっ……」
一瞬にして凍り付いた美怜の短い悲鳴を聞きつつ、画面を注視している間に、赤いピンがどんどん増えていく。しかも、四方八方からはっきりと、銀河と美怜のいるこの場所に向かって来ている! ざっと見ただけでもその数、五十……!
「ぎ、銀ちゃん……っ」
「な、なんで急に……」
「ど、どう、どうしよう、どこに、逃げ……」
(これだけ囲まれていたら逃げられるかどうか……、隠れるにしてもこのあばら家じゃ無理だ。立ち向かうしかない……!)
銀河は美怜の強張った手を右手で掴み、左手にカラコマを握って力強く言った。
「みれちゃん、戦おう! 僕らにはこのカラコマがある! さあ、しっかり武器を持って!」
「……ぎ、ぎんちゃ……あ……う……、うん……」
唇を震わせながら美怜がうなづく。自分もなにか武器になる枝を思い、視線を森に向けたとき、銀河の体は一瞬にして固まった。草陰から音もなく、いつの間にか無数の透明な水のゼリーの塊……スライムモンスターがぞろぞろと迫って来ていた。その数の多さと異様さに、ぞっと背筋が震える。スライムなんてザコキャラだ。そう思っていたのに、ゲームと違って可愛げもなければ生命感もないただの水の塊が、じわじわと一斉に距離を詰めてくるその様子をいざ目の前にすると、未知への恐怖が否応がなくせき立てられた。肌の上をザワザワが走る。銀河は重苦しい胸を張って、思い切り息を吸った。
「いでよヒシャラ!」
カッと銀河の手元が光ると、瓢箪の口からシュンッとなにかが飛び出した。【※32】
――ザッ!
スライムたちと銀河たちの間に現れたのは、銀河がはじめに美怜に描いて見せたキャラクター。竜にもトカゲにも似た顔つきで、頭には角のようなものがツンツンと生えている。高さは銀河の三分の一ほどだが、力強い二足立ちで、どことなくカンフー風の服も威圧感がある。銀河が描いたキャラクターよりもややダークな緑色をしているのは、取り込んだのがあの黒や青の入ったまだら模様の蛇だったせいだろうか。【※33】
素早くヒシャラに命じた。
「ヒシャラ、モンスターをやっつけてくれ!」
突然現れたいかにも戦闘力の高そうな存在にスライムたちがひるんで前進を止めている。今なら闘う意志を見せるだけで、恐れをなして逃げ帰ってくれるかもしれない。銀河は恐怖と興奮が入り混じりながら、期待を込めてヒシャラを見つめた。
ところが、ヒシャラはちらりと銀河を見ただけで、ツーンと横を向いてしまった。まるで知らない人のような素振りだ。
「えっ……? ……ヒシャラ、わかるだろ! スライムを倒すんだよ!」
ツーン……。銀河に命じられても、ヒシャラは見向きもしないでそこに立っているだけ。銀河は目を白黒させ、美怜は枝を握りしめたまま、銀河とヒシャラとスライムの大軍をせわしなく目で追う。
「なっ、なんで無視するんだよ!? お前を生み出したのは、この僕だぞ! ヒシャラ、戦うんだ!」
ツーン。
「おいっ! 聞いてるのか!? 僕の命令が聞けないのか!?」
ツーン。
「おっ……、おいっ……! ヒシャラ、こっち見ろ!」
さらにツーン……。
いよいよどうかおかしいと、その場にいたスライムも気づいたようだ。ヒシャラがの全く戦うそぶりを見せないせいで、またじりじりとにじり寄ってくる。しかも後から来たスライムが合流して、さっきのよりも二倍、いや三倍に増えている。美怜が震える息をか細く吐き、ブーンズのみんながオロオロと小刻みに揺れたり、フラフラとうろついている。
「たっ、頼むよ、ヒシャラ!」
「きゃっ!?」
そのとき、小屋の壁を背にして後ろにいたはずの美怜が悲鳴を上げた。いつの間にか壁の裏側から迫って来ていたのだ。一匹目のスライムが美怜に飛びかかると、続けざまに次々と襲い掛かりだした。
「きゃあぁっ、来ないでぇっ!」
枝を振り回しながら素早く逃げ回る美怜。ヒシャラがその声に反応を示した。銀河はすばやく石かまどの石を掴んで、美怜に付きまとうスライムにたたきつけた。
――バチャッ!
まるで水風船のよう破裂した。やはりザコキャラ、と銀河がホッとしたそのとき、無数のスライムに取り囲まれた美怜がもうパニックを起こしていた。ひいひい言いながらなんとか枝をスライムに向けてポコポコ振り下ろしているが、力も入っていなければ、一発も当たっていない。狙いも定まっておらず、余裕でスライムにひょいひょい避けられている。自分の周りを見て銀河が気が付いた。
(えっ、みれちゃんだけが狙われている……!?)
スライムをたった今倒した銀河よりも、明らかに美怜の周りのスライムの方が多い。そう気づいて目を走らせると、スライムたちが一気に美怜に向かって前進していくのが見えた。なぜかわからない、だがスライムの狙いは美怜だ!
「ひいぃぃ…~っ……!」
「み、みれちゃん!」
石を握りしめて駆けだそうとしたそのとき、黒っぽい影が素早く蛇行するように美怜の周りに走った。次の瞬間、バシャッ、バシャッ、とスライムが一気にはじけ飛んだ。びしょぬれになった美怜はなにが起こったのかわかっていない。もはや呆然として立ち尽くしている。だが銀河にははっきりわかった。早すぎてなにをしたかまでは見えなかったが、今の攻撃はヒシャラだ!
黒い影が目で負いきれないほどの高速で、縦横無尽に美怜の周りを駆け巡っている。次々とスライムの破裂音と水しぶきが飛び、あっという間にスライムが一掃されていた。残ったスライムもその様子を見て森の中へ消えていった。
「……た、助かったぁ~……」
危機が去って一気に気が抜けた。だが美怜はまだ膠着状態だ。急いで側に行き声をかけて、その強張った手を温めてあげた。リュックを下して、乾いた地面のところへ連れて行って座らせた。
「今火を焚くからね……!」
「……う……ん……」
少しずつパニック状態が解けつつある美怜を労わるようにブーンズのみんなが寄り添っている。銀河は火起こしをしながら、少し離れたところでまたツーンと向こうをむいているヒシャラを見た。
(ヒシャラのやつ……、なんで言うこと聞かなかったんだろう……。僕が創造の親だってことがわからないのかな……? いままでのブーンズはみんなすぐ打ち解けられたのに)
火を見て温まってくると、美怜はやっと安心を得られたようだ。濡れた服を乾かしながら、汚れた靴下を見て言った。
「スニーカーどうしよう……」
「みれちゃん……」
突然、ヒシャラがくるっと顔を向けて美怜を見た。そのままテクテクやってくると、美怜のそばに来て、スンスンと匂いを嗅いだ。
「……?」
なにをしているのかわからなかった銀河と美怜が顔を合わせていると、ヒシャラが、タタッと森の中へ駆けて行ってしまった。
「あ……」
「ど、どうしたんだ、あいつ……。みれちゃんのスニーカーでも取りに行ったのかな……?」
しばらくして戻ってきたヒシャラの口には案の定、美怜のスニーカーが咥えられていた。首を振ってポンと投げてよこすと、スライムの液体でぐっしょりと濡れたスニーカーが美怜の手に戻った。かすかにうわっという顔をした美怜だが、もはや全身にスライム液を被っているのだ。靴が濡れているくらいなんだと思うしかない。
「ありがとう、ヒシャラ……!」
「なんだよお前、行くなら行くってそう言えよな……」
またもツーン……。今までのブーンズと違った様子のヒシャラを美怜も不思議に思った。
「銀ちゃん、ヒシャラと喧嘩したの……?」
「え……っ、そ、そういうわけじゃない……はず、だけど……。な、なんでそう思ったの……?」
「なんか、さっきからずっと、ヒシャラが怒っているみたいに感じるんだけど……」
「え……!」
美怜の万能スキルはさすがだ。銀河にはわからないヒシャラの心が美怜には感じられる。銀河はすかさず聞いていた。
「な、なんで怒ってるの?」
「えと……、うん……? なんか、銀ちゃんに聞いてみろって言ってるよ?」
「え……?」
「この子は銀ちゃんの一番のお気に入りなんでしょ?」
「うん……。ヒシャラはタカラコマの第一号なんだ。僕が一番長く温めてきた大好きなキャラクターだよ……」
銀河はちらっとヒシャラを見たが、ヒシャラは一ミリも反応を示さず向こうをむいたきりだ。
「えっと確か、将棋の飛車の駒をイメージしてるんだよね?」
「そう。このカラコマは……つまりこの瓢箪の中に入っているカラコマのひとつひとつが、モンスターを憑依させておくための媒体なんだよ。瓢箪はいわば飼いならしたモンスターを囲っておくための入れ物なんだ」
「えっ……?」
「僕の考えたストーリーはこうだ。主人公はある日、鈴生りに生った瓢箪の中からこの『多宝』と書かれた不思議な瓢箪を見つけるんだ。この瓢箪は吸い込めと命じるだけで、モンスターをこの中に閉じこめ使役化できるんだよ。次に名前を付けて、出でよ○○と唱えれば、駒に憑依させたモンスターが、主人公の思い通りに戦ってくれる。そうやって、憑依して生まれたキャラクターをタカラコマって言うんだ」
「ぎ、銀ちゃん……」
意気揚々と自分のアイデアを語った銀河を美怜は悲し気な表情で見つめた。銀河はその意味が分からず、きょとんと目を丸くした。
「え……、あれ、チーフデザイナーにはなかなかいいアイデアだって褒められたんだけど……?」
「銀ちゃん……。吸い込んだあの大蛇を強制的にヒシャラっていうタカラコマにしたの?」
「え、うん……。だって、そういう設定だったから……」
「それはしちゃだめだよ!」
「え……!?」
美怜の思いもよらなかった非難の声に、銀河は再び目を丸くした。どうして? こんなに面白いアイデアなのに……。銀河には全く意味がわからない。新しいものを作り出すクリエィティブな仕事はアイデアが命だ。面白いアイデアが生まれたら、それを形にして表現したい。それを多くの人に楽しんでもらいたいと思うのはごくごく自然なことだ。
「え、なんで? 僕はすごくいい案だと思ってるんだけど……」
「だけど、大蛇は命なんだよ。自分の意思で生きているんだよ? 銀ちゃんがもし同じことされたらどう思う? 瓢箪の中に吸われて閉じこめられて、強制的に使役されて自由を奪われて、自分じゃない姿に変わらさられて、自分の意思じゃなく戦わされるんだよ……?」
「へ……?」
耳から入った言葉が、じわじわと銀河の体に染みていった……。なにが間違っていたのか。美怜が気付いて銀河が気付かなかったその最大の理由は、銀河がクリエイターとしてキャラクターとそのアイデアにこれ以上ない愛情を注いでいたからだ。だがその愛情は、あくまでもキャラクターが本当の命を持たないキャラクターとして存在する世界でだけ通用するもの。ブーンズパワーと言う不思議な力で生かされているブーンズたちは、採集に走れば疲れるし、戦えば消耗し、討たれれば死ぬ。きっと銀河や美怜と同じように。有限であり個体特有の自由と尊厳を持つひとりにひとつの命なのだ。自分の中だけで育てていたファンタジーな作り物の世界と目の前にある本物の命の間にある大いなる隔たり。銀河は自らの気付きにショックを受けた。
(……み、みれちゃんの言うとおりだ……。ここはゲームに似てるけど虚構の世界じゃないんだ……。そりゃあ、大蛇を瓢箪に吸い込まなきゃ僕とみれちゃんは無事では済まなかっただろう。でも、ヒシャラにしたのと同じことを僕が受けたら……。それに大蛇を使役化して無理やり戦わせるなんて……。まるで闘犬や闘鶏……いや、奴隷と同じじゃないか……! それに、人間の僕が人間じゃなくなるなんて……? か、考えもつかないよ!)
気が付いたら、銀河はヒシャラの前に駆けつけていた。
「ヒシャラ、ごめん……! 僕が考えなしだった! もっとよく考えてブーンズを生み出すべきだったのに、自分が描いた君をどうしても現実にこの目で見たくて……。本当にごめん、君が怒るのは無理もないよ……!」
「……」
ヒシャラがようやく真正面から銀河を見つめた。美怜が小さく息をついて立ち上がり、銀河の隣にやってきて、その腕に手を置いた。
「銀ちゃん、ヒシャラの使役を解くことはできるの?」
「う、うん、どうだろう……」
「もし解けるなら、この森を出るときに解いてあげようよ」
「うん、そうだね……」
ヒシャラの目がキラッと輝いた。
そう、ゲームはゲーム、ファンタジーはファンタジーだから楽しい。モンスターをゲットしてボールの中に入れるのも、テイムや使役魔法を使って魔獣を従えるのも、モンスターをハントして輪切りにして焼いて楽しむのも、それは現実の自分とは全く切り離されたものだから楽しめるのだ。だが今銀河と美怜はその世界に生身を置いてしまっている。今心と体が感じてしまったこの感覚。ブーンズやモンスターの命を自分の命と同じように大切にしたいと思う感覚。これが芽生えてしまった以上、無下にはできない。
美怜がひょいっとヒシャラの隣に腰掛けた。
「ヒシャラは……、あ、大蛇のときの名前はあるの?」
「……」
「あ、そっか、そうだよね」
「……み、みれちゃん、ヒシャラはなんて?」
「俺は俺のことを俺って呼んでたって」
「……なるほど」
「使役が解けるまではヒシャラって呼ばせてもらうね。さっきはヒシャラのおかげで助かったよ。本当にありがとう。靴も取り戻してくれてありがとうね」
「……」
「私たち、森を無事に抜けるまでヒシャラの力が必要なの。これからも助けてもらえるかな?」
――コクッ。
ヒシャラが無言で頷く。銀河と美怜がホッとして笑顔を浮かべた。
そうしていると。草葉の陰からむーむーという声が聞こえてきた。
「あっ、ヒトエタン、クラウンタン!」
「無事だったか、よかった!」
「むー!」
「むー!」
ぶるぶると震えるヒトエタンを銀河が、クラウンタンを美怜が抱きしめた。
「あれっ、ユリタンは……?」
タブレットで位置を見ると、ユリタンはこちらに向かってきている最中だった。そして、戻ってきたユリタンの花の中には、なんとアジが四匹入っていた!
「ユリタン、すごいな君、海まで行ってくれたのか!?」
「むー!」
「へぇ……! 急な崖で浜に降りることはできなかったけど、触手を伸ばして釣ってくれたんだって」
「でかした! 恋しかったんだよ~、塩分が!」
「朝ごはんにはちょっと遅いけど、早いお昼ごはんにしよう!」
「うん!」
食事の準備をし始めて銀河が気付いた。さっきからやけに地面がキラキラしていると思ってよく見てみたら、小さなガラスの粒のようなものが落ちている。一粒拾い上げてみる。大きさは五ミリ弱くらいだ。
「……ん、なんだこれ……? ……えっ、ま、魔石!」
眼鏡のスキャン機能でそれを知った銀河が急に目を輝かせた。
「みっ、みれちゃん! これ、この光ってるやつ全部魔石だって!」
「え……、その透明な粒、どこからでてきたの?」
「スライムだよ! スライムを倒したらこの魔石がドロップされたんだ!」
「へ~……」
「あ、あれ、みれちゃん、感動が薄いね……」
「それってなにかの役に立つの? キラキラしててアクセサリーに使えそうだけど、サバイバルにはあんまり役に立ちそうに見えないけどな……」
「こういうのはMP……じゃなかった! BPの結晶っていうのが相場で、冒険者ギルドに持っていけばお金になるっていうのがセオリーなんだよ!」
「ふぅん……、じゃあ、拾う?」
「うん!」
アジを焼く間にふたりで小さな粒を拾い集めた。ブーンズも手伝ってくれたが、自分の役割ではないと感じているのか、あまり熱心に手伝ってくれるブーンズはいなかった。葉っぱの降り積もった中や土に埋もれた小さな石を拾うのは結構な手間だ。それに子どもの体は柔軟だとはいえ、中腰はなかなか辛い。
「ふう……! 腰が痛いや……。でもけっこうたくさん集まったなぁ! これでいくらくらいになるんだろ?」
「ほんとだね。でも、売れる値段より集める労力の方が大きかったらちょっと微妙かも……」
「そ、そんなことないって……! みれちゃんのインベントリに入れておいてくれる?」
「うん、いいけど……」
「あっ、その前にもう一回スキャンでよく見てみようよ。値段が出てたりして」
銀河がそういってタブレットを取り出したので美怜も覗いて、表示画面を読み上げた。
「アイテム、魔石。大きさ、ごく小粒。色、無色。入手方法、主にスライムなどの初級モンスターを倒すと手に入る。マジックパワーの潜在容量はおよそ1~5。……これって、いいの? 悪いの?」
美怜が銀河を見ると、銀河は口を開けて目を見開いていた。
「銀ちゃん?」
「MPがある……!」
「え?」
「マジックポイントだよ!」
「え……、マジックポイント……って、……あれ?」
ようやく美怜も気が付いた。マジックポイント。マジックパワー。……MP……?
銀河の話ではHPの代わりがLP。MPの代わりがBPなのではなかったのか……? ゲームセオリーに長けていない美怜は黙って驚く銀河の顔を見るしかなかった。
下記について、イラスト付きの詳細情報がご覧いただけます! ブラウザご利用の場合は、フリースペースにある【※ 脚注 ※】からご覧いただけます。アプリをご利用の場合は、作者マイページに戻って「GREATEST BOONS+」からお楽しみください。
【※32】カラコマ …… ブーン602
【※33】ヒシャラ …… ブーン802
便利な「しおり」機能を使っていただくと読みやすいのでお勧めです。さらに「お気に入り登録」をして頂くと最新更新のお知らせが届きますので、ぜひご活用ください!
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