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■第1章 突然の異世界サバイバル!
0010 再会は停電とともに
しおりを挟む――カキィン!
都内の騒がしい居酒屋。グラスとグラスが澄んだ音を立てる。
「いよっ、世界のビースタデザイナー! おめでとう、銀ちゃん!」
「みれちゃん、ありがとう……! で、でも、世界はいいすぎだよ……」
「そんなことないよ、だって、あのビースタだよ~っ!?」
みれちゃんこと小南美怜。たっぷりとした艶やかな髪に、大きな目には生き生きとした輝き。建築事務所で設計や建築模型の製作に携わる独身のワーキングウーマン。
スマホをタップすると、かの有名なゲームキャラクター画像を表示して見せた。
The Golden Beast Stars、通称GB。それはモンスター育成バトルゲームとして、ポKモンと二大人気を分かつ世界的な有名なゲームだ。カラフルで個性的なモンスターキャラクターが子どもにも大人にも人気で、日本ではGBよりも、ビースタという名のほうが市民権を得ている。
その画面を見ながらモジモジと照れくさそうな男性。銀ちゃんこと柳銀河。眼鏡にニット帽というどこにでもいそうな黒ベースファッション。無難でなんの面白みもない外見だが、職業はイラストレーター。この度ゲームキャラクターのデザイナーとして採用された。
ふたりはそのお祝いに久しぶりに顔を合わせていた。
「自分でもまだ信じられないよ……」
「ねぇ、銀ちゃんが描いたビースタ、見たい!」
「……ご、ごめん! 契約でリリースまで誰にも見せちゃいけないことになってて……」
「ふえぇ~、楽しみにしてたのに……。でもそっか、有名な会社との契約だもんね!」
物分かり良くうなづくと、そのなりで美怜はなにかを取り出した。包装紙に包まれたプレゼントだ。
「はい、これ!」
「えっ!?」
「開けてみて!」
「えっ、い、いいの……?」
包装を解くと、銀河は目を見張った。最新型の液晶タブレットと作画用のタッチペン。
「これ……!」
「秋葉原で一番いいやつ下さい、っていって買って来たんだよ。店員さんがいい人で、絵を描く人なら間違いなく喜ぶっていってくれたんだけど。どうかな?」
「こんなハイスペックモデル……! すごいよ、僕が使っていたのと大違い……」
「銀ちゃん、買い替えようかなっていってたから。私からのお祝いだよ! これでいっぱいビースタ描いてね」
思いも寄らないプレゼント。しかも美怜が銀河のなんでもない話をちゃんと聞いていてくれたことも嬉しい。
「う、うん! あっ、ありがとう……っ! 大事にするよ!」
「あとね、店員さんがお勧めの作画アプリをタダで入れてくれたんだ。なんか詳しいことはわかんなかったんだけど、絵描きさんなら絶対気にいるから使ってみてって、サービスしてくれたの」
「へ、へえ……」
てらいのない美怜に少し複雑な気持ちになる……。昔から人当たりが良く誰とでもすぐ仲良くなってしまう彼女が、男性店員に気に入られ、特別サービスを受けている様子がありありと浮かんだ。
(子どもの頃から近所の人に可愛がられて、お菓子を余分にもらったり、お店では毎度のように代金をまけてもらったり。みれちゃんのコミュニケーション能力は異常なまでのハイスペだからな……)
この明るくはつらつとした美人の幼馴染。きっと店員はあわよくば連絡先を聞き出したかったに違いない。長年密かに思いを寄せている銀河にとっては、正直居心地の悪い話でしかなかった。
「このGB……ってアプリかな」
「あはっ。そう、同じGBだから縁があるなぁって思ってたの」
電源を入れたタブレットにはすでにGraphical Beautificationというアプリが入っている。耳なじみのない名だったが、素直にこれからの作品づくりに役立ちそうだと感じた。
「本当にありがとう……」
「えへへ~、銀ちゃんの晴れの日だからね~」
黒縁眼鏡を恥ずかしそうに押し上げる銀河。それをにこにこと見ている美怜には、少し気弱で繊細な幼馴染の吉事が自分のことのように本当にうれしいのだ。
(小さいときから優秀だったもんね。けど、親の大きすぎる期待のせいで心のバランスを失って、以来ずっと引きこもり生活。それでも独学でイラストレーターになって、こんな大きな仕事を受けられるようになったんだね。本当にすごいよ……!)
大学進学以降、東京で暮らす美怜だったが、地元で細々とイラストの仕事をする幼なじみのことを、ずっと気にかけてきた。だから今回契約のために上京してきた銀河と、久しぶりに再会できること、祝杯を挙げられることが、なによりうれしかった。
「今日は私のおごりだからね、遠慮しないで!」
「こんなに高いものまで貰ったのに、悪いよ」
「遠慮しない~っ! さあ、飲も飲も!」
「うん……!」
心地いい時間ほど駆け足で去っていく。浮かれ気分に程よく酒が回り、気がつけばもう最終の新幹線の時間が来ていた。
「みれちゃん、僕そろそろ行かなきゃ……」
「駅まで送ってあげる。待ってねぇ……」
「みれちゃんこそ、ちゃんとうちに帰れる……?」
「だぁ~いじょうぶ~!」
会計を済ませて店を出る。楽しすぎたせいなのか、酒量のわりにふたりとも足元が少々心もとない。新宿駅の改札口で並んで発車時刻を確認した。
「今日は楽しかったねぇ……」
「うん、本当に楽しかった。みれちゃん、いろいろありがとう」
「うぅ~っ、早くゲーム発売しないかなぁ、待ちきれないよぉ」
「また連絡するよ……」
――ピッ。
銀河が改札を通過したそのときだった。
まるで大規模停電が起こったかのように、一瞬で真っ暗になった。
「うぇっ、あれっ……?」
「な、なに、停電!?」
――パッ。
混乱をきたす間もなく辺りが明るくなった、そのとき。
銀河と美怜の目の前には、晴れた空と深い森が広がっていた――。
「え……、なに、これ……?」
「ここ、どこ……?」
なにが起こったのかわからないまま周りを見渡し、ふたりが互いを見つけ、同時に目を丸くした。
「銀ちゃん! えっ、なんで、小学生?」
「――あれっ、み、みれちゃん、わ、若返ってる!?」
自らの体に触れて確かめる。手足の様子や、髪や肌。銀河はいわれた通り、まさに自分が小学生だった頃の様子そのものに感じた。眼鏡や服さえも、子ども時代身につけていたものと同じだ。
「なんだ、これ……!? このリュック、僕が五年生まで使ってたやつだ……」
いつの間にか背中にはリュックサックを背負っている。降ろしてまじまじと確かめた。重さからしてなにか入っていそうだ。銀河の足元には、さっきまで被っていた大人用の黒のニット帽子が落ちている……。拾い上げるとやっぱり自分のものだとはっきりわかった。
美怜はきょろきょろと辺りを見回し、自分の体と目の前にいる子どもの銀河を交互に見やった。
「あ、あれぇ……、えっと、んと……、これ、なんだろ、今……? えっと、ぎ、銀ちゃん、だよね……?」
「う、うん。僕たちさっきまで新宿駅にいたよね……?」
「うん、いた……。えっと……、なにこれ……」
「わ、わからない……」
美怜は再び周りを見渡し、自分の様子を探った。
小学生のとき気に入っていたパーカーとスニーカー。見覚えのある斜めがけのバッグ。小さな手のひら。ボブカットの髪。すべすべの子どものほっぺた。
「銀ちゃん、私夢見てるみたい……。駅で寝ちゃったのかな」
美怜はぼんやりそういったが、銀河は違った。
(いや、違う……。多分これは夢じゃない。僕らは確かにさっきまで駅の構内にいた。それにあれだけ酔っぱらっていたのに、今は全然なんともない。さらにありえないのは、体は子どもなのに、意識は大人のままだってことだ)
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