16 / 19
【猛暑の日】
しおりを挟む黒猫のゴダンは古書店の看板猫として、今日も町の人々に愛されている。その日は、店主のミサコさんと共に、古書店でのんびりと過ごしていた。ミサコさんは優しい笑顔でお客さんや近所の人たちを迎え、ゴダンもその様子を見ながら横で静かに寝そべっていた。
夏休みに入って、元気な子供たちが涼みに店に入ってきた。子どもたちはゴダンを可愛がったが、ゴダンのほうは自分のほうこそ子供たちの世話をしてあげている気分だった。
その日は特に暑かった。連日の猛暑で、ミサコさんは次第に疲れが溜まっていたらしい。その午後、気温が一層高くなり、ミサコさんはついに体調を崩してしまった。店を閉めて奥へと引っ込むミサコさんのあとを、心配になったゴダンはついていった。
「ふう……、ちょっと休ませてもらうわね……」
そういうとソファに倒れ込み、うっすらと目を閉じたままミサコさんは動けなくなってしまった。
ミサコさんの様子がいつもとちがう。ゴダンはしばらくうろうろと周りを回ったり、ミサコさんの顔に顔を近づけて何度も鳴いていたが、苦しそうに短い息をするミサコさんの様子がちっとも回復しない。いよいよまずいとわかった。ゴダンは、ミサコさんを助けるために行動を起こすことを決意した。
ゴダンは窓の隙間から外に飛び出し、駆け出した。近所の人々にミサコさんの窮地を知らせるためだ。最初に見つけたのは、パン屋の前で日傘をしながら近所の人とおしゃべりをしていたマリコだった。
「ミャー!」
ゴダンは必死に鳴きながら、マリコさんの足元にまとわりついた。
「あらあら、どうしたの、ゴダンじゃないの」
いつものようにかわいがろうとして手を伸ばしたが、ゴダンはするりとすり抜け、なにかを訴えるように繰り返し鳴く様子に、なにかただ事でないものを感じ取った。そのとき、店の中からチーズの欠片をポケットに入れたパン屋が出てきた。
「よう、来たなコダン」
「ちょっとぉ、ゴダンの様子がなんか変よぉ」
「え?」
「ニャー! ニャー!」
顔を見合わせたふたりがじっとりと照りつく日差しに、ハッとした。
「まさか、ミサコさんに何かあったの?」
「こ、この暑さだ、ひょっとして」
マリコとパン屋は慌てて古本屋へむかった。その道案内をするかのように、ゴダンがふたりの先を走った。
ふたりがゴダンと共に店に着くと、窓の向こうにぐったりとしているミサコさんが見えた。
「き、救急車を!」
「ぼ、僕が電話します!」
マリコは家の周りをぐるりと回って、空いている窓を見つけるとよじ登って家に入った。そして店の戸を開けると、パン屋と一緒にミサコさんを介抱した。
「熱中症ですかね……!」
「体を冷やして、あと、水分補給よ! ミサコさん、これ飲んで!」
救急車が到着するまでの間、ゴダンはミサコさんのそばに寄り添い、彼女を励ますかのように優しく喉を鳴らしていた。救急車が到着し、ミサコさんは病院に運ばれた。
幸いにも早期の対応が功を奏し、彼女は無事に回復することができた。
数日後、ミサコさんは元気になって帰宅した。ゴダンは彼女が帰ってきたことに喜び、彼女に寄り添いながら、やさしく鳴いた。その日は近所の人が次々に店を訪問しに来た。
「ミサコさん、いいお年なんだから、無理しないでね」
「それにしても、ゴダンは大活躍だったわねぇ」
「本当、賢い猫」
「これ、スイカ、よかったら食べて」
「みなさん、ご心配おかけしました。本当にありがとう」
「なにかあったら遠慮しないですぐ声をかけてね」
「このところ本当に暑かったものねぇ、これ水ようかん。冷やして食べてちょうだい」
「本当にお気遣いありがとう」
訪問客に丁寧に礼を言って見送ったあと、ミサコさんがゴダンを抱きしめた。
「ありがとうね、ゴダン。あなたのおかげ」
ゴダンはミサコさんの手の温もりを感じながら、満足そうに目を細めた。
この話はそれから間もなく、町の人々の耳にももれなく届いた。町の人たちは決まって同じことを口にするのだった。
「ゴダンならそのくらいのこと当然だよ」
「だってあの猫、人の言葉がわかるんだ」
「賢い猫だもの」
「ゴダンは普通の猫じゃないんだよ」
それからまた、古本屋にはいつもの日常が戻ってきた。噂を聞いた人たちが、みんな我が町のヒーロー猫に会いききて、我先にと褒めては可愛がってくれた。ゴダンは得意そうに首をそらしてみんなに愛嬌を振る舞った。
その様子を見ながらミサコさんは、黙ってにこにことほほ笑むのだった。
*お知らせ*
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる